第6話(1-5)クーデターはほどほどに、ね その1
「茜ちゃん、どうしてこんなにも朝は眠たいの?」
「はは、太陽が真上を通り過ぎた時間を朝というなら、きっとその問いの答えは神様しか知らないよ。」
「神様かぁ、生まれてこの方あったことない人に今から聞きに行くのはだるいから寝るね。」
「結局寝るのかよ、てか今授業中だからな、一応。」
今私達のクラスは体育館に集まり、異能を制御する訓練中である。
もっとも効率的な訓練など誰もわからないので、スタンガンを自動的に発射する装置に囲まれながら模擬戦をしたり、機材に向かって異能を発動して様々な数値を調べたり、サンドバック(鋼鉄製)に向かってひたすら蹴ったり殴ったりを繰り返しているだけだ。
要するに、自由時間である。
だから私は体育マットを敷いて前転からの寝そべりを披露したあと、睡眠の構えを取って茜ちゃんとおしゃべりをしていた。そこに何故か先生まで一緒に寝そべり始めて、ここ一帯が段々とカオスになり始めてきた。
「てか先生、模擬戦見なくていいの?一応スタンガン発射って手動でしょ?」
「ああ、そうなんだが、今日は科学者連中が来てるからな。その仕事を取られちまって今やることがないんだ。」
「職に就きながら無職とは。高等テクニックの無駄づかいですな。」
「無職って、響き悪すぎだろ。というかお前も模擬戦とかたまにはやってみたらいいんじゃないか?退屈しのぎにはなるだろ。」
「んん。やってもいいんだけど。相手になってくれる人茜ちゃんしかいないし、そしたら張り合い無くてつまんないじゃん。それよりも私はお昼寝が大事だと思うんだ。」
「なら俺とやろうぜ、桜。」
突如として窓から差し込む光を遮って話しかけてくる人影。
逆光で顔が見えないが、特徴的な声だからすぐに正体がわかる。
「心太が挑んでくるなんて珍しいじゃん。茜ちゃんと作戦会議でもしてきなよ。」
「おまえ、意外と好戦的なのな。本当は全員と戦いたくて仕方ないの知ってんだぞ。」
「だって隠してないもん。命のやり取りをしてるわけじゃないんだから、これは単なる遊び、ゲームと一緒じゃない。私、ゲームで負けるのだけは嫌なんだよね。」
「よっぽどここに来る前にゲームで負けたんだな・・・ああ、悪い。つい、な。今の話は忘れてくれ。」
「いいよ、私も茜ちゃんもよく外の話するし。気にしてない。」
「そうか、ありがとな。それじゃ茜、こいつの弱点教えてくれよ。」
そういって二人で作戦会議を始めだす。
私は準備体操をしつつ、リングに向かう。ん?そんなにみんな見なくても、確かに私が模擬戦するなんて珍しいけどさ。
「おい、まじかよ。校内ランキング五位と三位の対決だぜ。」
「嘘だろ、あの『不動』の桜が、重い腰を上げただと!?」
「相手は『
・・・知ってはいた。けど実際そう呼ばれると、心が折れる音が聞こえてきそうだ。なにさ、私一応女の子なんだけど?『不動』ってどういうこと。茜ちゃん『癒しの女神』みたく可愛い二つ名がいいんだけど!それに私、結構アクティブに動き回る異能なんだけど?重い腰ってなに、私頼まれたら割となんでもすぐやるほうだよ?
不本意な周知のされ方によってもう私のライフは残り少ない。
校内ランキングの上位者には二つ名が与えられるけど、決めたやつだれやねん。絶対後でシメてやる。
校内ランキング。
これは学校側が公式に発表したものではない。
独自の採点方法を考案し、模擬戦やテストの成績を加味して順位を勝手に決めている集団、自称『風紀委員』達により制作されたものだ。風紀をおもいっきり乱しているということは、本人達が一番わかっているようで、たまに出されるランキングの張り紙には必ず『風紀をしっかりと守り、健全に戦ってください。』と書かれている。
それによると、私は三位。因みに二位が茜ちゃんで、五位が心太。
だけど、純粋な戦闘力評価は圧倒的に私が一番上。後はテストさえ真面目にやれば一位も狙えると言われている。ま、校内最強をとるくらいなら、私は勉強時間を削るほうを選ぶね。
一、四位と茜ちゃんぐらいが私と張り合える人達で、後はそうでもない、と言いたいところだが、そうでもないのが異能の面白いところ。
正直戦闘においては相性がすべてを決める。一位の奴なんて、勝ち越してはいるけどそれだって初めて模擬戦をして奇襲で勝ったきり勝負していないだけのことだしね。だってあの子と次やったら確実に負けるもん。
とりあえずランキングの上位者として、心太に負けるわけにはいかんのよ。
本気、出させてもらいますぜ・・・!!!
確かな決意を胸に秘め、私はリングに上がる。
「・・・気合入りすぎだろ。はぁ、とりあえず場外か気絶、あとは確殺できる状態にされた時点で負け。それでいいな?」
異論なし。親指を立てて無言で意志を伝える。
両者が構えに入り、試合開始を告げるゴングの音を待つ。
一瞬の静寂のあと、ついに甲高い金属音を鳴らして、試合が始まる。
「先手はもらうぜ!」
「勝手にどうぞ!」
そういいながらも地中に沈みこむ心太。
体と地面の境界が曖昧になり、どんどんその体を沈めていく、途中で時は速度を落とした。
集中状態。
自分でやっててなんだが、本当に卑怯だと思う。
胸から上だけを地面からはやした状態の心太。あとは首を絞めあげて集中状態を解けば試合終了。
すまないな、私はいつだって本気なのだから。
後ろへ周り、屈んで首を緩く絞めるようなポーズを取り集中状態から脱する。
「よし、これで私の・・・」
「ほんと言った通りだぜ。」
私の言葉を遮って心太が言葉を発したのと、私の足元が突如として抜け落ちたのがほぼ同時だった。
そして、当然のことに動揺して集中状態に入りそこなったことで完全に穴に落ち、更に隙間を埋められて下半身が完全に地面に嵌ってしまった。
心太はしてやったりという顔を浮かべながら、身動きできない私の後ろに回って再び地面と同一化し、上半身だけを地上に残したまま土の槍を形成、私の首に突き付けて勝利宣言を待つ。
「勝者!『しん太』の心太!」
「おい!逆だろうが!!」
「まじかよ、心太やりやがった。下剋上だ!」
「俺達の希望の星が、ついに不動の女王をやってくれたぜ!」
口々に褒め称えられ嬉しそうな表情をしている心太。そんなことはいいから早く私を地面から出してください。
「ふふふ、桜ちゃんなら絶対場外を選ばないって解ってたからこの作戦が上手くいったの。まったく、気持ちよく勝ちたいって気持ちはちゃんと抑えなよ?」
「茜ちゃん、場外で勝つくらいなら私は負けを選ぶよ。」
「実際負けてるんだけどね?」
「・・・次はお前だ、コテンパンにしてやる。」
「私、今日はそういう気分じゃないので!ごめんあそばせぇ~~~。」
ここぞとばかりに煽ってくる茜ちゃん。絶対にリングに引きずり込んでやる。
・・・それはそうと、早くここから出してくれませんかね心太や。
一人取り残されたまま、授業の終わりのチャイムが鳴るまで寂しく救出を待つ私であった。
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放課後。
約束通りアジトへ向かう。
途中、秋原君とばったり会い、そのまま話しながらトイレへと向かうことにした。
「そういえば、あのスーツ二人から何か連絡はあったの?」
「そうか、無事に解放してくれたんだな、ありがとう。あの二人からかはわからないが、計画通りやってくれと手紙で言われたよ。朝起きたらドアの隙間に挟まってた。」
「そう、それは良かった。ちゃんと私が仲間になったことも伝えたから心配しないで。さ、行こう行こう、あんまり遅いと天峰さんにしっと、じゃない心配されちゃうから。」
「ん?そ、そうだな、それじゃ先行ってるよ。」
良かった良かった。私の失言には気づかなかったみたいだ。これで変な空気になったら天峰さんに怒られてしまうところだったよ。
とりあえず、手慣れない手つきで蓋を開けてさっさと縦穴をおりていく。それにしても、ほんとあんなところに入口を作ったのは驚きだ。流石に予想してなかった。
ゴキブリ降ってこないかな?大丈夫?
そんな心配をしつつも、下まで降りて暗い通路を歩いていく。この通路は暗くて危ないけど向こうにある扉から光が漏れているからそこまで心配する必要もない。
扉を開けると、昨日と同じように中にいた人達の視線が私に集まる。
「やあ、きたよ!」
「そのテンションに対応できるのは多分しん太しかいないから。」
「そんな、私はここでやっていける自信がないよ。」
「はいはい、早く席に着いてくれ。」
「あーい。」
というわけで指示通り席について話し合いに参加する。
と言っても作戦実行の前日だけあって、内容は明日の作戦の入念な確認だけだ。
昨日よりも人数が多いのは、やはり指揮系統を機能させるためだろう。
「よし、それじゃあ、明日の流れを確認する。まず・・・」
みんなきちんと頭に入っているようで、どんどん話は進んでいく。
まぁ、私は割り振られた隊の背中をついていけばいいだけだから楽だなぁ。
そう思っていると、自然と眠気が襲ってくるから会議というのは不思議だ。
うとうとしていることを隠すために、手を前で合わせてそこに口をつける。気分は完全に大捜査線だ。
もう話などほとんど入っていない状態で眠気との争いを続けているとようやく会議が終わる。
「よし、明日に備えて今日は体の調子を整えてくれ。決行は明日の放課後少し前。俺たちは絶対に外に出る!いいな!」
「「おお!!」」
こうして、クーデターへのカウントダウンが始まった。
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