エクスカリバー、ただいま入院中につき!

ちびまるフォイ

ムスカ<3日だけ待ってやる!

「はい、それでは一列に並んでくださいね―ー」


冒険者たちは診察室の前に、剣を持って一列に並んでいる。

行列ができるラーメン屋さんでも途中でお腹いっぱいになりそうな長さに

勇者は思わずうんざりしてしまった。


「ああ、もう……いつになったら進むんだよ……」


勇者はたまたまTGLのファストパスを持っていたことで、

一気に列の先頭へと向かい診察することができた。


「ふーむふむふむ……」


剣者は勇者から預かったエクスカリバーを診察していく。

勇者は昔から物持ちがいいとよく言われていて、

小学生の時に使っていたランドセルをまだ使っているほど。


「先生、どうですか? 今回も大丈夫でしょう?」


「いや、ダメじゃ。ダメダメじゃ」


「うそぉ!? 見た目は全然問題ないですよ!?」


「よく見んさい。ここと、ここに刃こぼれがあるじゃろ。

 エクスカリバーでなにか変なものを切らんかったか?」


「雑誌の袋とじくらいは……」

「そういうのが聖剣を汚すんじゃ」


剣者はさらに剣のレントゲン写真を見せる。


「それに、持ち手にも悪性腫瘍ができておる。

 これを摘出する必要があるから、しばらくは入院じゃな」


「それは困りますよ! 俺には他の冒険者と剣魔王攻略の約束が!

 いつ剣魔王が襲ってくるかもわからないんですよ!?」


「バカこくでねぇ。お前さん、いつ折れるかもわからない剣で戦う気かぃ?

 肝心なところで聖剣の輝きを失ったらどうするんじゃ? ん?」


「そ、それは……」


「とにかく、しばらくこの剣は絶対安静じゃ。

 くれぐれも持ち出したりしないようにすることじゃ」


エクスカリバーは集中治療室へと運ばれて、鍛冶師の手により治療が行われた。


出産を待つ父親のように治療室の前をうろうろしていた勇者だったが、

鍛冶師が満足げな顔で出てきたので安心した。


「大丈夫ですぜ、勇者さん。エクスカリバーの治療は無事終わりましたぜ」


「本当ですか! よかった!」


「刀身にかわいいクマのアップリケつけときやした」

「いらないよ!!」


「ただ、なにぶん治療とアップリケが刀に馴染むのに時間がかかるんでねぃ。

 まだしばらくは刀は使えませんで」


「まだ使えないんですか!? 世界が剣魔王の手に落ちるかもしれないんですよ!」


「術後は絶対安静ですぜ。万全の状態でこそ戦果が挙げられるってもんでしょう」

「ぐぬぬ……」


エクスカリバーは集中治療室から、剣病棟へと運び込まれた。

ベッドに寝かされて布団をかけられ、テーブルにはフルーツと砥石の盛り合わせが置かれた


「先生……あとどれくらいでエクスカリバー使えるようになるんですか?」

「柄に書いておるぞ」


勇者はエクスカリバーの柄の裏を見ると、

ヨネックスのログの上に治療までの日付『残り:365日』が表示されていた。


「い、1年!? 完治まで1年かかるの!?」


「そういうことじゃ。それまで訓練でもしてるのがいいじゃろ」

「そうかもしれないけど……」


勇者は諦めて剣康診断の病棟を出ると、すでに世界は暗黒に包まれていた。


「グハハハハ。魔物を殺し、私服を肥やすおろかな人間どもよ。

 我は剣魔王。貴様ら全員に地獄の苦しみを味わせてやろう」


「くそ! こっちがモタついている間にもうここまで……!!」


勇者がパーティに参加しなかったことで討伐隊は空中分解。

大規模な魔王討伐作戦は中止になり、結果として魔王側の侵攻を許してしまった。


「3日やろう。その間に祈り、慈悲をこい、恐怖するがいい。フハハハハハハハ!!」


剣魔王の宣言が終わると世界は一気に絶望感で満ちてしまった。

3日後に死んでしまう恐怖で誰もが正気を失っていく。


しかし、肝心のエクスカリバーの完治は365日後。


「くそっ、完治していなくても使うしかない!」


勇者は病棟に戻ると未完治のエクスカリバーを手にとった。

すると、エクスカリバーの刀身はへにゃりとこんにゃくのように折れてしまった。


「なんじゃこりゃ!? これじゃ戦えない!」


残り365日をかけて修復されるのに今持ち出しても使い物にならない。

追い詰められた勇者の目には、同じ病室の別の剣が目に入った。


「しかたない。こっちを使うしかない!」


勇者は別の剣を手に取ると、今度はしっかりとした手応えを感じた。

カルテにかかれている完治日も、明後日だったので90%が完治している。


「これなら……これなら勝てる!!」


エクスカリバーに勝るとも劣らない力を感じ、勇者は魔王のもとへと急いだ。

急行電車で片道10分ほど移動するとついに魔王の本拠地へと到着した。


魔王は突然の来訪者に驚いていたようだが、すぐに調子を取り戻した。


「クククク、貴様は人間代表の勇者じゃないか」


「剣魔王、貴様は俺がこの手で倒す!! 覚悟しろ!」


「人間には3日の猶予をやると言ったのに気の短いやつだ。

 祈りは済ませたのか? 部屋の隅でガタガタ震える準備はオーケー?」


「そんなものは必要ない! 今日、決着をつけてやる!」


「強がるんじゃない。なにも今日その命を散らしてなんになる。

 3日あるんだぞ? 今日と明日に散々準備することもできるはずだ」


「一刻も早く、世界の人に平和を取り戻すんだ!」


「いやまぁ、待て。あと3日あるんだぞ? わかってる?」

「かまうものか!」


「3日待てばいいだろう?」

「俺は今日覚悟を決めたんだ!」


「決着は3日後でも……」

「勝負しろ! 剣魔王!!」


丸腰の剣魔王は土下座して勇者に謝った。


「お願い! あと3日待って! それだけでいいから!! ね!?

 3日待ってくれたらなんでも言うこと聞くから! お願い!!」





勇者はふと自分の持つ剣の柄をひっくり返した。

柄には全治までの日付が書かれていた。


『 残り:3日 』

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