第4話 サルソにて 2

「お きたきた おーい」


ウーラが遠目にウェイ達を見つけ手を振る。合流するとウェイが加工屋に買い取りして貰った金額をウーラに告げると驚きと嬉しさが表情に溢れていた。予約した部屋を聞くとウェイとクードは宿に入っていった。程なくしてチアイが出てきて


「付き合うよウーラ」


「おう 武器がないとさすがになぁ」


「ところで気になったんだけどウーラの能力って結局なんなの?」


「ん いや俺も何となく感じてはいるんだけども今一つハッキリしなくてさ」


「なるほど これからってとこか」


「目覚めるかも分からない能力よりも先ずは身の保身を計るべく必要な武器を調達しようじゃないか チアイもこの際良いもん選んじゃいな さっきウェイ達が売り払った素材が高額だったし余裕だろ」


「俺は戦いは得意じゃないから最低限のでいいんだ」


「まっいいか 行こうぜ」


二人は以前立ち寄ったことのある武具屋へと足を向けた。すれ違う人達のほとんどが何かしらの武器を携帯しており、サルソを拠点に狩猟や探索をしているだろう事を容易に想像させてくれた。中には振り上げる事が出来るのかと疑いたくなるような大武器を担いでいる者もおりウーラもチアイも目を奪われながらも武器屋にたどり着くと中から怒鳴り声が聞こえてきた。


「おい いくら何でもぼったくりすぎだろ」


「いえいえお客様こちらはそれだけの品なのです使用して頂ければ必ずその価値が分かると思いますよ」


「だから使用するにもこんな価格じゃ買えねぇだろうがよ!」


カランカラン

ドアを開けて視界に入ったのは揉めてる二人よりも店主の前に置かれている武器だった。見た目には普通の剣で刀身も長くも短くもなく特徴が有ると強いて言うならば柄の長さが長い事くらいだった。


「あ いらっしゃい」


「ちっ」


あからさまな態度でウーラ達の横をすれ違い店から出ていった。ウーラは店主に寄り


「手にとっても構わないかい?」


「えぇ勿論ですよ」


ウーラは剣を持つと直ぐに理解した。並の剣の重量の3倍は有るかと思わせるのに見た目が普通の剣と変わらないのだ。


「これは素晴らしいな 対人戦闘それも初手において優位性が取りやすいな」


「気づいて頂けましたか 先程のお客様に説明致しましたのですが納得してもらえず困ってました」


ウーラは少し離れ広間にて剣を構えて軽く剣舞した。


「これは良いな片手でも扱えそうだし大剣とでもやり合えそうだ よし店主これ買うわ」


「はい ありがとうございます」


ウーラの即決にチアイは黙って見ているだけだった。店主が値段を出すと二人とも顔を見合わせたが先程のウェイの話を聞いていたので迷わず買うことができた。


「ありがとよっ こりゃ掘り出しもんだぜ」


「ありがとうございましたー ……しかしあんな軽々と振り回すとはねぇ 名の有る剣士様だったのかな聞きそびれたな」


ウーラ達が出て行く際に店主が小さく呟いた。外に出た二人は早くに買い物が終わったので少しサルソを見て回る事にした。


「いやぁーこれならウェイとやり合えるな」


「ウーラは本当にウェイと戦うのが好きなんですねぇ」


「戦うのが好きなのは否定しないがウェイには負けたくないんだよ 暫く手合わせしてないけど昔から負け越しているからなぁ」


「ウーラそれは世間では負けていると言うんですよ」


ポカッ

軽くチアイを叩くと


「チアイも言うようになったねぇ 昔はもっと可愛いげがあったのによぉ」


「あはは せめて言葉位は俺に勝たせてもらわないと居場所が無くなっちゃうよ」


ドンッ

すれ違い様に身体がぶつかりチアイがよろけた。


「おい待てよここまでぶつかっておいて一言有ってもいいんじゃねーのか?」


「ウーラ俺なら平気だから行こう」


見るからに屈強そうな男が振り返り


「なんだー?こっちもぶつかってきた非礼を許すつもりで通りすぎようと思ってたんだがよ」


ウーラが前に出て行こうとするとチアイが手で遮り顔を見て首を振った。それを見て男が


「ちっ やる気もねぇのに絡んでくるんじゃねぇよ腰抜けが」


「なんだとっ!?」


「ウーラ!」


チアイの呼び声でウーラもそれ以上は言わなかった。


「ちっ 歩くときは常に側道を歩きやがれ」


悪態をついて男は反対方向へ歩いていった。


「すまないチアイ少々熱くなりすぎた」


「いいんですよ俺も悪かったし相手も虫の居所が悪かったのかもしれないしね」


気を取り直した二人は再びサルソを見て回ると雑貨屋の前でチアイが立ち止まった。 ウーラが心の中でギクリとしたが既に遅かった。チアイの目は輝き少年のようになっていた。


「ウーラ俺は少しここを見てくるよ 良かったら先に帰ってても構わないから」


「あ……あぁ それじゃ俺もその辺見てくるよ」


チアイは以前も雑貨屋に入ったときに朝から夕方まで出てこなかった位に小物等が好きなのだ。ウーラは運が悪いことにそれに付き合わされた事があり半トラウマとなっていた。


「やれやれ今回はどうなることやら」


ウーラはとりあえず宿に戻ろうか悩んだのだが先程揉めた男が気になりもう少し歩いてみることにした。特に喧嘩をしようと思っていた訳ではないが相手の出方次第ではなるようになれと思ってはいた。

暫く歩き回ってると鼻に食欲を駆り立てる匂いが襲ってきた。左手にある料理店からだ。店の前にも簡易屋台が有り、どうやらそこで匂いの元を精製してるらしい。ウーラはゆっくりと近づくと


「いらっしゃいませー取れ立て焼きたてのヘッジ肉はいかがですかー」


「うっまそうだなぁー どれどれ頂こうかな」


「ありがとうございます」


可愛いげがある幼い女の子がペコリと一礼してウーラへと肉と香辛料を添えて渡すと瞬く間に食べ尽くしてしまった。


「おかわり貰おうかな」


「はいっ!ありがとうございます」


今度は味わうかのようにゆっくりと噛み少しづつ香辛料をかけたり混ぜ合わせたりして食肉を楽しんだ。少しだけ腹を満たそうかと思ったウーラが気付いたときには既に満腹に近いくらいにたいらげていた。


「いやーうまい肉だありがとよっ会計頼むわ」


「はい ありがとうございます こちらになります」


提示された金額を見ると思いの外高くウーラの手持ちでは僅かに足りなかった。それでも全部出して事情を説明して宿に取りに行きたいと伝えると


「えっと責任者に聞いてきますのでお待ちください」


程なくして出てきたのは先程ぶつかり揉めた男だった。


「あーうちの店では食い逃げも多いから何か担保になる物を置いていってくれそれならどこぞに消えても構わないからよ」


ウーラと揉めたことは覚えてないのか彼にとっては揉め事が日常茶飯事なのだろうかと感じさせた。


「そこの腰にある剣でも置いていってくれ どうせ直ぐに戻ってくるなら問題ないだろ」


ウーラが困っていると後ろから肩を叩かれた ポンッ


「なーにやってんのよ まーた揉め事ぉ?」


ミンソンが風呂から上がり街へと出てきていた所でウーラを見かけたので寄ってきたのだ。直ぐ様にウーラは事情を説明すると


「あーそーゆうことね それならはい このカードでお願いよ」


ミンソンがカードを手渡すと数秒で会計が終わった。それを見届けた男はなにも言わずに店内へと戻っていった。ウーラは店員に


「今の男が責任者?とても厨房から出てきたようには見えなかったけど」


「あの方は店舗の用心棒さんで揉め事専門だそうです 正直私も怖くて苦手なんです」


女の子はハッとしてから


「あの……今の言葉忘れてください」


「大丈夫よ私たちは何も聞いてないわ それより私にもこの美味しそうなお肉くださいな」


「あ はいっ!ありがとうございます」


ミンソンも肉を食べながらチアイの事と武器の事など話を聞いた。


「もうひとつ頂こうかしら」


「ありがとうございます!」


「本当に可愛いわね なでなでしたくなったゃうわぁ」


女の子は少しうつむいて顔を赤らめた。


「おいおいセクハラはやめとけよ」


「なによ 助けた恩をもう忘れるつもりなの?」


ウーラとミンソンのやり取りを見て女の子が笑い出すと二人も言い合いをやめて女の子の笑顔につられ微笑んだ。


「さーてそろそろチアイ迎えに行ってこれからの支度かな」


「そうね 急がないとは言ってたけど指針は必要だしね宿で話し合いよね」


手を振る女の子に別れを告げて雑貨屋に戻ると案の定チアイが買い物を続けていた。二人で説得して引きずるように宿へと帰るとウェイもクードも起きて待っていた。


「おかえり」「おかえり3人とも」


「ただいま」「肉うまかったぁぁぁただいま」「まだ見ていたかったのに……ただいま」


「よーし揃ったな 今後について少し話し合おう」


5人は宿1階の広間にあるソファに座り込み話始めた。


「当初の目的通りに明日からは王国リャンリャンを目指そうかと思っているんだが思いの外に金も手にはいったので移動に走獣か車を使おうと思ってるんだが」


ウェイの提案にウーラが


「思いの外に出費もしたけどな」


「必要経費だろ気にすることないさ」


ミンソンが預けられているカード履歴を確認して


「無茶な使い方しない限りはそんな切迫した状況にはならないわよ それと私が管理を任されている以上今後は高い買い物をするときは確認をしてほしいわ」


4人は軽く返事して頷いた。その後チアイが


「ウェイもクードも特に買い揃える物は無さそうですか?サルソを見て回っても無さそうですし」


「兄貴はわからんけど俺は今のとこ欲しいものは無いかな」


「俺も大丈夫だ リャンリャンに着いたら錬魔道具を見てみたいしな」


「たしかに錬魔王国リャンリャンと呼ばれる位ですからね 数々の魔道具から魔武具まで揃ってますからね」


「なんにせよ着いてからの話だ 先ずは明日からの行動を決めよう 皆がもう出発しても良いようなら早朝にでもリャンリャンを目指そう」


ウェイが言い切りミンソンへと視線を向けると


「車での移動で行けるとこまで行って途中下車するか走獣でリャンリャンまで行ってしまうかだけども予算的にはどちらを選んでも支障は無さそうよ」


車は整備された道を走るには優秀なのだがどうしても走獣の臨機応変さには敵わない乗り物として主に観光や物資輸送が主だった。


「じゃあ走獣で決まりだなチアイ昔みたいにびびって落ちたりするんじゃねーぞ」


ウーラがニヤニヤしながらからかうと


「俺だってこどもの頃とは違うんだ さすがにそれはないよ」


そのやり取りでチアイを除き笑いが起きる。そして笑いが収まった所でウェイが


「決まりだな じゃあ明日皆が支度出来次第ここに集合にしよう」


「了解」「おっけー」「きまりね」「わかったよ」


各自が部屋に戻って行くとウェイとクードだけが残った。


「どうしたクーまだ休まないのか?」


「いや部屋に戻る前に聞きたくてさ 前に話したじゃんか 結局兄貴の……俺達の目的って何なのかなって思ってさ」


「お クーもちゃんと考えてくれるようになったかーよしよし良いぞ良いぞ」


「考えてもよく分からないから聞いたんだけどギルドにまとめて入るかギルドを立ち上げるんだよな」


「まっそーなるな 問題はそこからかなクーにも前に聞いたけどな やりたいこと無いのかってな 答えが出ないってことはまだ出合ってないってこと 悩んでるうちはいつかやりたいことが出来たときに備えて先ず俺に付いてくればいいさ」


「うん……わかった ありがとう兄貴」


「気にすんな弟ってのは兄を頼るもんさ」


そういって肩に軽く手を乗せ


「さっ 俺達もそろそろ休もう」


「うん おやすみ兄貴」


「寝過ぎないようにな おやすみさん」


クードは寝付くまでベットの上で自分は何がしたいのだろうとウェイに問われたことを考えながら深い眠りへと堕ちていった。

ウェイもまた同じ様に明日からの行動と王国に着いてからの計画を確認しながら眠りについた。


翌朝クードを除く4人が広間に集まりサルソ出発のための支度と走獣手配などを行っていたのだが、ある事をきっかけに出発は延期となってしまうのだった。正確に言うと延期とした。






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スターライフストーリー 兄尊<アニソン> @secret3743

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