第3話 サルソにて

じりじりと間合いを詰めてくる獣に横からウーラが大剣で切りかかる。


「はぁぁぁぁぁ」


ズシュ 予想外の堅さにウーラの剣が刺さったままになり、そこに獣の尾が薙ぎはらうようにウーラを襲う、しかし即座に反応し上方へと回避する。


「同じ尾は食わねえってな!」


マジックランタンをチアイが程よい距離に配置し獣の全容と戦いやすい状況を作り出すことに成功した。

獣は3メートルは有りそうな巨体に亀のような甲羅状の皮膚で4足歩行らしく頭には刺が複数あり口許には獲物を貪ったばかりなのか鮮血が付着している。ウーラの斬り込みも意に介してない様子であった。


「見たことない獣だがどうする!?ウェイ」


「ウーラこいつには刃物は通りづらそうだな!」


「あぁ!割りと渾身だったんだが振りきれなかったぜ 絶賛貸出中だ」


「下がって」


ヒュンヒュンヒュンシュパッ

ミンソンがムチを操りウーラの大剣に巻き付けた。


「ウェイお願い!」


「あいよっ」


ウェイが直ぐ様ミンソンの背後に回り込みムチを引き寄せると勢い良く剣が抜け宙に舞った。


「さんきゅっ!」


パシッ

ウーラが剣を回収すると同時に獣が突進してきた。

スッと後ろにいたクードが前線へ走り獣を見つめ手をかざす


「摩擦強化」


獣の突進する勢いがどんどん弱まっていく。


「ウェイ ウーラこちら側から見ても切り込めそうな所は見当たりません!頭の刺が有る所が弱点かもです!」


「よしきた!任せとけ」


単身ウーラが飛び上がり勢いをつけて大剣を振り落とす。

バギャァン


「なっ!嘘だろ」


大剣は逆に弾かれ刀身が砕けてしまった。


「さっきの皮膚に斬りかかった時に傷んだのかもだ 俺がやる」


ウェイが両手で持っていた大剣をゆっくりと右手だけで構えていく。


「おいおい片手で持てる程軽くねえんだが」


クードはウェイを迎えに行ったあの朝と同じオーラを感じていた。


「幻想行進」


ウェイが獣の眼前まで踏み込み右上から一気に振り切った。

ジュパァァン

獣の頭が二つに分かれ倒れこむと同時に軽い地響きと砂埃が舞った。


「やったーウェイさっすがー」


思わず抱きつくミンソンだか数秒後には我に返り照れ隠しに自らのスカートの埃を払い始めた。


「おぃウェイ今のは何だ?」


「言ってなかったな 中々言う機会がなかったからな 俺の目覚めた能力らしい」


「強化系なのは見て直ぐに理解したがあの大剣を片手であそこまで扱えるとはな」


「説明が難しいんだけどさ 俺が皆との夢を抱けば抱くほど強くなってるような気がするんだ」


「なるほどそれで幻想行進ですか」


チアイがランタンを持って近寄りながら言う。


「もし本当にそんな能力ならこの先どれだけ差をつけられるんだよ」


「ははっ ウーラとの想いも力になってるんだからそう敵視しないでくれよ」


「やれやれ憎たらしいやら頼もしいやら俺は複雑心境にでも目覚めるとするかな」


皆が笑いだす。足元では獣が多少の痙攣はしてるが完全に絶命していた。


「さて解体するか?」


「見たところ毒も無さそうだし皮膚や頭の棘は加工次第では使えそうだしな」


ウェイとウーラを筆頭に手際よく皮を剥ぎ頭の棘も切り離し大きな詰め袋に丁寧に重ねていく。肉は食えるか分からないし食糧には困ってなくサルソも近いということでその場に放置した。


「昔を思い出すような華麗な連携だったな」


「そうよね私とウェイが力を合わせてウーラのヘマを取り返した所が最高のポイントよね」


ウェイ以外の視線がミンソンに集まる。


「な……なによ」


「チアイ流石だったな咄嗟にあれだけ戦いやすい状況を作ってくれて助かったよ」


「いやそのほら俺は戦いは苦手だからさ」


「クーも良くやってくれた あの突進で勢い付かせたらこんなにも楽に決着はつかなかっただろう」


「兄貴……」


「全く兄弟揃って羨ましい能力だぜ」


「ウーラはどんな能力なんだ?」


クードがさらっと聞くと


「俺は複雑心境って言ってな……」


「わかったわかったもういいって」


皆が笑う。そしてマジックランタンを手に取り改めてサルソへと歩き出した。予想外の戦闘に時間と疲労が蓄積されたがピークを迎える前に一行はサルソへと到着した。


「着いたぁー宿ぉぉーまずはお風呂ぉぉぉぉー」


「風呂はともかく宿には賛成だな」


「それじゃ俺とクーで兄弟水入らずで加工屋に行ってみるか 宿は任せた」


二手に分かれ其々が目的に向けて行った。

サルソは割りと大きな町で、ある程度の品揃えと有名な店舗なども入り込んでる発展途上街だ。ここを分岐に狩りに行く者王国を目指す者とに分かれる。

ここから北も南もとても深い森山になっており日々数々のギルドがその探索域を拡げて行っているのだ。それ故に持ち込まれる素材や肉などは価格が上乗せされる前に手頃な値段で入手できることも有り市場も日々賑わいを見せている。


「よーし加工屋到着だ 重かったろう」


「俺の5倍は運んでいる兄貴にそんな心配されたくないわ」


「ははっ」


ガランガラン 錆びかけの鈴が鈍い音を混ぜながら鳴り響くと


「いらっしゃいご用件はなんでしょうか?」


「素材を持ち込んだんだけども買い取って貰えないですかね?」


「見てみますのでそちらの広間の中央線ある辺りに並べて下さい」


そう言うと店主はかけていた眼鏡を一度外して布でレンズを磨くと素材を並べているウェイ達の所へゆっくりと歩いてきた。

まだ全て並べきる前に店主が詰め寄り


「これは……お客さんニードルヘッジ討伐したんですかやりますなぁ」


「ニードルヘッジ?」


クードが聞き返す。


「ご存じない上で討伐なされたのですか いやはや このモンスターは獲物を補食した後の僅か数時間の間だけ頭の棘の硬度が跳ね上がるのですがその間に討伐出来ないと高硬度の棘が手に入らないのですよ しかも頭自体が弱点なので討伐難易度も高くなってしまうんです」


カコンコン

棘をもち叩き合わせながら店主が続ける


「私が扱ってきた中でも最上級レベルの硬度ですなぁ 実に見事ですこの目で討伐する様を見てみたかったものですよ」


クードは

自分が誉められてるかのように嬉しかった。

ウェイは話を聞いた上で


「ではこちらで買い取ってもらえそうですかね」


「もちろんですよお客様むしろ数ある店舗の中で当店に持ち込んで頂き感謝です 数がかなりあるので計量いたしますので宜しければ少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」


「急がないからゆっくりで大丈夫です 少し街を歩いてきますね」


「はい いってらっしゃいませ」


ウェイとクードは外に出ると人だかりが出来ているのに気づき興味津々に近づいていった。


「どこから盗んで来たんだよ!?」「お前らの力で討伐出来るわけねーだろ」「証拠でも出せるのか?」


どうやら野次馬の会話から察するにウェイ達が討伐して解体後に放置した肉を荷馬車で運び込んだようだった。


「これは……貰ったんだよ」「そうだよ武具の素材だけ有れば良いからって肉を置いていってくれたんだ」


そう話すのは責め立てられてる二人組の女の子だった。


「そんなこと有り得るかよ」「ニードルヘッジ肉は日持ちも良くてキロ単価だって相当なんだ」「そうだそうだ」「そんな肉を置いていくやつなんてよっぽど抜けているやつ以外にいるかよ!」


グサッ グサッ ウェイ クード二人の胸に言葉のナイフが突き刺さる。そんなに価値があったのかと。


「とりあえず通報だなどこかで困ってる人がいるかも知れないしな」「子供に本来扱えるような肉じゃないんだ」


「そんな……早く下地処理を施したいのに」


「警備隊の皆さんこちらです」


街の治安を保つ警備隊が到着すると二人に尋問を始め肉を盗難届がでる可能性のある期日まで預かることを声高々と言った。

二人の顔は絶望と不安からかみるみる暗くなり塞ぎこんでしまった。


「よし運べっ!」


「あーあーちょっと待ってもらって良いですー?」


「なんですか貴方は?」


「いやぁ~そこの肉を運んで上手く売れたら50%やるって頼んだ者なんですがね」


「ほう しかし先程まではこの者達は肉は譲り受けたと言ってたが?」


「当初はその気持ちだったんですけどね やはり勿体なく思って去り際に言ったんですけど多分聞こえなかったのかなと」


「なるほど 言い分は聞きましたがそのような証言で有れば此処に居る誰にでも出来ることですね お引き取り下さい」


ウェイは頭をポリポリかきながら


「そこのニードルヘッジの頭にあった棘を今加工屋で査定してもらってるんで持ってきて照合してみます?」


その場を仕切っている者が隊員を見て合図すると数名の警備隊が加工屋に走り入り数本の棘を持ち出してきてゆっくりと照合していった。


「ま……間違いありません完全に一致です」


「信じてもらえましたかな」


「この騒ぎの件に関して貴方にも問題があることを忘れずに!」


「はい 以後気を付けます お勤めご苦労様です」


警備隊は皆手を首下水平におき一礼すると立ち去っていった。


「あの……助けてくれてありがとうございます」


「もしかしたらお肉を後から取りに戻るかも知れないって妹が言ったのですが私が強引に持っていこうって聞かせて持ち出したんです ごめんなさい」


「お姉ちゃんやめて! 私がこれだけのお肉が有ったらお屋敷から出られるかもって言って盗んだんです!」


二人でお互いを庇い合うような発言をしてはいるが見た目はとても幼く見え、ウェイもクードもよく此処まで肉を運び込めたなと逆にそちらの方に関心していた。

そしてウェイがクードをチラリと見た後


「お嬢ちゃん達 何を勘違いしているかは分からないけどね そのお肉はおじさん達があそこに捨ててきたんだよ」


口許に指を立てそう言い切りクードへと視線を投げた。それを察したクードが笑顔で


「そうそうお嬢ちゃん達はなーんにも悪いことしてないんだよ だから気にせず早く持っていって保存しなきゃね」


それを聞いた二人は目を丸くして驚いていたが瞬きをした時我に返り


「ありがとうございます」「ありがとうございますありがとうございます」


ウェイが二人の頭をポンポンと触り


「さっ もう行きなさい何かあったらウェイ・マウンテから貰ったって言うんだよ」


「はいっ!ありがとうございましたウェイさん!」「ありがとうございました!」


ウェイ達は二人が見えなくなるまで見送ると


「俺らにもあんな時期があったなぁ」


「いつの話だよ」


「全くだな ははっ」


二人が笑ってるところに加工屋店主が来て査定が終わったことを告げると揃って店内へと入って行った。想像以上の買い取り価格に驚いたが少しの現金を受け取り残りはカードへと送金してもらうことにした。


「さてとあいつらは宿で もう湯船にでも浸かってる所かな」


「兄貴俺らもそうしようぜ」


「ああ そうだなこっちの仕事は完了だしな」


クードは口に出さなかったが兄貴となら上手くやっていけるんだと思い始めこれからに期待が膨らみつつあった。













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