魔法使われはじめました 中

 幼い頃から、姉は自分に良く魔法をかけてくれた。

 膝を擦り剥いて大泣きしている時、予想外な事態で不安に飲まれそうになった時、そして体調を崩し布団の中でうなされている時。

 どんな時だろうと音無が苦しんでいた時、六つ年上の姉が何処からともなく姿を現しては根拠の無い自信を述べた後、『大丈夫になる魔法だよ』と口にして、今となっては曖昧にも思い出せない不思議な呪文を唱えた。

 すると不思議と痛んでいた膝の痛みは弱まり、小さな胸中で溢れていた不安は霧散し、高い熱を出していた風邪は不思議と楽になった気がした。

 当時は本当に自分の姉は魔法使いだと信じた時期もあったが、今となってはそんなのただの子供騙しだった事位判っている。

 しかし、音無自身その経験は今でも忘れることが出来ないかけがえのない物であり、今でも仕事で書くお話の中では、頻繁に魔法使いと呼ばれるモチーフを描きもする。

 音無自身、魔法使いと言うモチーフは好きな物の一つではあった。

 「私は魔法使いだ」

 ただ、真顔で、更に細かく述べるなら、『それ以外に何に見える?』や『そんな事説明するまでも無い』と言わんばかりの表情を浮かべて口を開いた相手を見て、自分の魔法使いへの愛はこの女の持つそれと比べると月とすっぽんかそれ以上の差があるのだと自覚する。

 「もう一度言うぞ、私は魔法使いだ」

 「……いや、あの――」

 「私は魔法使いだ、他に何か説明が必要か?」

 目の前に居る相手は、自分を魔法使いだと名乗っている。

 確かに大きな三角帽子にマント、そして怪しげな杖と、俗に言う魔女っ子ファッションに身を包んだこの女を見て、他に何に見えるかと問われたら十人中十人が『魔法使い』と答えるのは道理ではある。

 今居る空間が仮装パーティーなどの会場だった場合、そんな姿の女が一切の迷いも無く自分を魔法使いであると名乗るのは自然な事ではあるのだが、今現在彼女が仁王立ちをしている場所は音無の家の中である。

 勿論パーティー会場でも、コスプレ撮影会の会場でも無い。

 「……魔法使いって……」

 「紆余曲折して何を疑ってるのだ?」

 困った様に呟いた音無の声が聞こえたのだろう、女は色々と使い道を間違えた四字熟語と共にその一言に訂正を求める語句を吐いた。

 「疑うも何も……フォスって名前だったけ? 魔法使いごっこしたいのなら他でやってくれると――」

 「ごっこじゃない! 魔法使いだ!」

 フォスと名乗るその女は持っていた杖を再び音無に突きつけ、強く謝罪を求める。

 呼んだ覚えも家に招いた覚えも、ましてや土足で家のフローリングを踏めとお願いしたつもりも無いのだが、フォスは家宅侵入罪を犯してもなお自信たっぷりに毎度の自己紹介をする。

 「君幾つなの? もう子供じゃないんだからもうちょっと現実とアニメの区別つけようよ……」

 勝手に家に上がり込まれて苛立つどころか、何故か所属不明の頭痛がじりじりと姿を現したのを感じ、額に手を当てて皮肉と問いかけをする音無。

 何を思ってなりきってるのかは不明だが、流石にそこまで言われたらカチンとくると思ってたのだが、肝心のフォスは右手で何かを数え、当然の様に口を開いた。

 「もうすぐ二百歳だから確かに子供では無いな」

 「……ああ、そういう痛い子なのね……」

 あまりにも予想外な返答に、音無は呆れを通り越した何かの感情を溜息と共に吐き出す。

 だが、肝心のフォスは音無の反応の意味が判らず首を傾げるありさまである。

 ここまで来るともう素直に感動するしかないなりきりっぷりを見て、音無は溜息を吐くが、ふと頭の中をよぎった仮説に目を光らせる。

 「っていうかもう魔法使いって事で良いけどさ、本当は何しにここにやって来たのかな?

 正直に答えてもらおうか? そうじゃなきゃ警察呼ぶよ」

 この女の格好は馬鹿げてはいるが、フォスの狙いが何なのか大体は見当がついていた音無は、腕組みをして問いかける。

 「……ケーサツとは何だ?」

 「とぼけないで、君盗みに家に入ったんでしょ?」

 このまま相手のペースに合わせていてもらちが明かないと判断した音無は、なるべく自分が怖く見える様声を低くして更に問いかけ、同時に距離を詰める。

 フォスが手に良く判らない棒を持っている事が気になったが、狭い廊下の中でこんなに長い物を振りまわせる訳が無く、相手は自分よりも小柄な女だ。

 だったらこっちは怯える必要も無く、逆に急に態度を変えた音無に相手は驚くのだと思っていたのだが、反応は思ってもいない物だった。

 「盗む? 一体何を?」

 「自称魔法使いが何を盗む気なのかなんて、こっちが聞きたい位だよ」

 「自称では無く本物の魔法使いだ」

 音無の皮肉よりも、『自称』魔法使いと呼ばれた事が気にくわなかったフォスは眉を寄せて問いかけるが、無言の圧力をかける音無が反応を示さ無い事に溜息で答えると、目深に被った帽子の角度を直してから口を開いた。

 「何か勘違いをしているみたいだが、私はお前の物を盗む気なんて更々ないぞ」

 「じゃあ何の為に人の家に居るのか答えてくれるかな?」

 「勿論だ、先ずそれを説明するべきだったな」

 フォスは何か合点がいったのか、一人眼を光らせると予想外な言葉を紡いだ。

 「私はお前の願いを叶えに来た」

 「……ん?」

 「願いを叶えてやると言ってるんだ」

 「……ちょっと意味が判らないや」

 一瞬額に手を当てて考えてはみるが、やっぱりフォスの言っている事の意味が判らず、音無は自分でも噴き出してしまいそうなほど間の抜けた言葉をこぼしてしまう。

 勝手に家に上がり込んでいる地点で普通では無く、更に言えば何故か魔法使いの格好をしている地点でもかなり異常だ。

 だが、音無が眠りに落ちる直前彼は家の鍵をかけておらず、彼女が何か盗みの為に家に上がり込むのは可能であり。

 今時ゴスロリだのコスプレだのと一般的なそれとは明らかに違うファッションに身を包んだ人間も元の数が少ない為に絶対数は多くないが、それでも確実にその数が増えていると言う。

 その点で鑑みても家に上がり込んだ泥棒の類が、何故か魔女っ子ファッションに身を包んでいる、なんて事実はかなり珍しいとは言え絶対にありえない訳では無い。

 だが、そうとは言え――

 「だから、私がお前の願いを魔法で叶えてやると言ってるんだ」

 「……ごめん、やっぱり意味がわからないや」

 いきなりやって来て、突然『貴方の願いを叶えます』なんて事を言われて意味が判らないのは当然なのだが、フォスはそんな音無の反応に対して首を傾げる。

 恐らくは、音無の『意味が判らない』が『意味が判らない』といった所なのだろう、元々彼女が小柄だった事も相まって、その仕草故に小動物の様に見えるフォスにの表情に面食らう音無。

 もうここまで来るといちいち突っ込みを入れてる方が馬鹿馬鹿しく思えてくる。

 ただ、そんなフォスの仕草を見てると、懐かしい姉の顔が脳裏を過った気がした。

 昔から何処か不思議な雰囲気を持ち、同時に夢物語に登場する根拠も理屈も通らない不思議な事が大好きな彼女は、音無が幼いころは良く『魔法を覚えた』だの『魔法使いを見つけた』だのと妙な事を言っては、当時ナルコレプシーを発症する前だった音無に対して良く判らない呪文を唱えていた。

 「そう言えば……」

 何故そんな姉と、今現在目の前に居る謎の人物が似ているのかと考えると、一つの共通点が目に留まった。

 姉は小さい頃から自分以上に魔法使いが好きで、何時だって何かある度に『魔法』だの『おまじない』だのといった単語を連発していたのを思い出す。

 だが、今思うと音無よりも六つ年上、つまり彼が十歳だった時には彼女は高校生だった訳であり、いい加減フィクションと現実の違いが判る年だった筈の彼女は、ある日を境に妙な事を言うようになったのだ。

 その言葉こそ『願い事を叶えてあげる』だった。

 当時の音無でも馬鹿げてると思った彼女の言葉、だが彼女は飽きもせず音無対してしつこくその言葉を唱えていたのだ。

 「どんな願いでも大体は大丈夫、兎に角お前は願い事を唱えてみれば良いんだ」

 「いや、魔法使いって普通はありえないでしょ……」

 その言葉に合わせ、フォスは持っていた杖でフローリングを強く叩く。

 本人としては単純な意思表示の方法として行った行為なのだろうが、自分が借りている賃貸でそんな事された側としては堪ったものでは無い。

 「簡単な事だろ? ただお前は願いを口にすれば良いのだ、何故なら私は魔法使いなのだ」

 「だから魔法使いって……」

 少しだけ苛立っているのか、あまり感情が見えない端正な顔とは裏腹に彼女は持っていた杖を、指揮杖の様にリズミカルに打ちつけていく。

 幾らフローリングが丈夫に作られてるからと言え、同じく木の棒で叩かれたら傷なり凹みなりが生まれるのは火を見るよりも明らかだ。

 「……! とりあえずその床を叩くのやめて!」

 「叩くのを辞めたら私が魔法使いだと認めるか?」

 「認める! フォスは魔法使いね! 判った信じるから床をそれ以上いじめないであげて!」

 慌てて制止に入った音無の態度が気に入ったのか、相変わらず感情がいまいち読めない顔で満足気な反応を示すと、フォスは重たそうな杖を抱え直す。

 「それで? 君はどうして僕の願い事を叶えてくれるのかな?」

 こうなってしまっては相手のペースに合わせるしかない、そう判断した音無は、始めから本気で聞くつもりも無く問いかけをする。

 自分で自分自身を魔法使いだと言い切る様な相手だ、そんな相手が今更何か言った処で驚く訳無い為に音無はたかをくくっていたのだが、彼女が紡いだ理由は予想を一二歩飛び越えた物だった。

 「良く聞いてくれた。

 私達の居る魔界では、魔法使い見習いは人間界で魔法の最後の試験を行うことになってるんだ。

 その試験の内容こそ、人間の願いを叶え、七不思議を作り出す事なのだよ」

 やたらと歯切れの悪い言葉を使っていたフォスが使った少しだけ長めの台詞。

 それを聞き終えたは良いが、あまりに予想外なその発言に音無はあんぐりと口を開けたまま硬直してしまう。

 「……どうかしたか?」

 どうかしたとか、ぶっちゃけもうそういうレベルの話じゃない。

 今の今まで魔法使いだのという発言をしていただけで訳が判らなかった相手が、続いて自分は魔界の人間だと言い、更には魔法使いとして認められる為の試験だと言う。

 おまけに、駄目押しとばかりに七不思議などと、これまた子供が好きそうな要素が絡んでくるものだから、こっちとしては笑いをこらえる方が大変である。

 だが、やっぱり肝心のフォスはそんな音無の反応が理解できないのか、相変わらずの表情で首を傾げるばかりだ。

 沈黙で満たされた室内、直ぐ傍の道を行きかう車のエンジン音と横断歩道を行きかう子供の声だけが狭い廊下に響く。

 正直なところ、ここまで来るとフォスの演技はかなりの物だと褒めるしか無くなっており、音無はフォスへの警戒心を僅かに解く。

 何を思ってここまで訳のわからない発言をしているのかは謎だが、物書きを生業としている音無にとって、このフォスと名乗る人物の行動は気になってしょうがないのだ。

 物書き、しかもフィクションを主に扱う作家にとって、ネタの数と質こそがその人物の腕以上に重要な物、というよりネタ帳の分厚さこそがその作家の実力を示す指標と言っても過言では無く、少しでもネタになりそうな話を聞くとついつい耳を傾けてしまうのは彼の職業病とも言えるだろう。

 「えっと……どうして人間界? で願い事を叶える事が魔法使いとして認められる上で重要なのかな?」

 音無の問いに、フォスは直ぐに答えた。

 「魔界で認められるには、私達は自分の力を誇示する必要があるだろ?」

 「いや、『あるだろ?』って聞かれても、それはこっちの常識とはかけ離れてるからね」

 「その上で、魔法なんてない此方の世界は何かと都合が良いんだ」

 「……あの、僕の話聞いてたかな?」

 音無の控えめな突っ込みを無視し、フォスは更に言葉を繋いだ。

 「人間界で力を誇示する方法、だけど魔法使い自身があまり目立つ事は避けたい。

 だから、私達魔法使いはこの世界に新しい七不思議を作るんだ」

 「いや、だからさ、何でそこで突然七不思議になるのかな?」

 「直接私達魔法使いが見つからず、だけど大勢の人が不自然だと思う事実を作る、そうすることで私達は大勢の人間に力を誇示するんだ」

 「いや、君の――」

 『君のその根拠の無い自信だけで十分七不思議だ』と言いかけ、音無は慌てて口を噤んだ。

 別にフォスが悲しむと思ったからでは無い、単純にそんな事を言ったら、やっと走りだした会話の流れが止まると判断しただけである。

 その作戦が功を制したのか、フォスは音無の中途半端な発言を気にも留めず言葉を続けた。

 「だけど私達は人間界の常識と言う物を良く知らない。

 常識が判らなければ此方の人間が何で驚き、何を七不思議として認めてくれるか判らないのだ」

 「それで僕の出番って事?」

 音無の言葉に相槌をすると、フォスは更に言葉を繋いだ。

 「そう言うことだ。

 勿論、お前にはタダで協力してくれとお願いするつもりは無い」

 そこまで聞き、やっとフォスが先ほどから言っていた言葉の意味が判った。

 彼女が先ほどから言う『願いを叶える』という言葉。

 それはつまり、自分の願いを叶える代わりの代価なのだ。

 己の『七不思議を作る』の願いを叶えてもらうために、相手の願いを叶えるという等価交換。

 そう考えると確かに上手く出来た話ではある。

 だが、それはあくまでもフィクションの中の話であり、現実世界で『お前の願いを魔法で叶えるから、お前も私の願いを叶えてくれ』なんて言われても意味が判らないのが当然だ。

 「それじゃあれかな? 僕が仕事の締め切りを伸ばしてくれと言えば叶えてくれるの?」

 「それが願いなのか?」

 「いや、ただ言ってみただけだよ、って言うか、全然迷い無いのね……」

 待ってましたと言わんばかりに、少しだけ表情を明るくさせるフォスに対して音無は困惑の色を滲ませて軽く否定をする。

 何処か猫の様な雰囲気のあるフォスは、そんな音無のごく自然な態度に肩を落として落ち込むと、持っていた杖を音無の顔に突きつけると、再度問いかけをする。

 「私が叶えてやれる願い事は六つまでだ、だからこそ、少しだけ慎重になるのも道理かも知れないな。

 だけど、私だって何時までも此方に留まれる訳ではないのだ」

 「はぁ……? また良く判らん事――」

 得意げに紡がれた文句に反論しかけたその瞬間、不意に家の奥からガラスの割れる音が響いた。

 「っ!? 君――!」

 先ほどからの意味不明な発言や、それ以前に目立っていた奇怪な服装のせいで半ば忘れていたが、このフォスと自らを名乗る女は、そもそも自分の家に了承も無く入り込んだのは間違いが無い事であり、わざわざそんな事をするあたりこの女が空き巣狙いである可能性は十分にあった。

 だが、この女がわざわざ音無に見つかる様に玄関で待機していた理由が判らなかった音無だったが、ある仮説を持ち上げるとその理由は簡単にまとめ上げる事が可能だ。

 「一人じゃ無いね!?」

 つまり、この女はあくまでも見張りであり、家の中の金品を盗む役目の人間がもう一人居る可能性だ。

 音無が帰宅するよりも早く玄関から家に侵入した二人だが、遅れてやって来た音無に驚き部屋の奥へと隠れたのだが、音無が例の発作を起こして倒れたため、彼女等は盗みを再開した。

 しかし、幾ら傍からは原因不明だったとはいえ、音無が直ぐに目を覚ます可能性があると判断したフォスは、倒れたままの音無を見張る役目を請け負ったのだ。

 そこまで仮説を立てると、おのずと先ほどの破壊音の理由も判った。

 「ああもう!」

 音無はこれと言って驚く素振りも見せないフォスの傍を駆け抜けると、音の響いた部屋に駆けこむ。

 音が響いたのは、このアパートの中で一番玄関から遠い部屋、作業部屋と寝室を兼ねた六畳間だ。

 「そこま!――あれ……?」

 音無は中途半端に開かれたままだった扉を開くと、その先に居た相手と目を合わして自分でも笑ってしまうほど間抜けな声を漏らす。

 その部屋に居たのは、至って普通のスーツ姿の男だった。

 顔にマスクをしているが、それも単に風邪をひいていたり鼻炎を持っていたりする可能性もあり、これといって珍しい事では無い。

 だが、呼んだ覚えも無いのに人の家の寝室に土足で入り込んでいる点、そして何よりその男が手に持っていたモンキーレンチの存在が異常なほど浮いていた。

 一瞬意味が判らず首を傾げた音無だったが、ふとついさっき呼んだインターネットニュースの記事を思い出し眼を見開き息を飲む。

 最近の泥棒と言うのは、作業着や目出し帽に身を包んでいるのは稀だと言う。

 何故なら、下手気にそんな服装で住宅街を歩いていたら周りの人間から警戒され、逃げる際も無意味に注目を集めてしまう。

 それとは対照的に、スーツ姿は住宅街でもさして珍しくなく、家の中を覗いて回る様な不審な動きをしていたとしてもただのセールスマンにしか見えず、個性に欠けたスーツ姿と言うのは、逃走の際にもとても役に立つとの事だ。

 何故フォスがあんなに目立つ格好をしてたのかは不明だが、少なくとも目の前に居る犯人の片割れは嫌な意味で常識を持った人間と言う事だと納得する。

 だが、それでも一つだけ意味が判らない事がある、それは犯人の向きだった。

 音無は先ほどの推測からこの男は逃走の為にガラスを割ったのだと思っていたのだが、男は予想に反して、今まさにガラスを割って家に侵入した瞬間だったのだ。

 理由は不明だが、予想外な事態に混乱する音無をマスクの上の瞳で睨みつけた

 「て……てめぇ、動くな!」

 突然の事に驚いたのはこの男も同じだった様で、その声は何処か歯切れが悪い。

 念の為だろうか、懐に隠していたナイフを抜き身で構えると、再度鋭い声で一喝をする。

 玄関で出会ったフォスとは違い、明らかに殺気に溢れた声に思わず身を竦めてしまう音無。

 そんな彼は、背中でフォスの気配を感じて息を飲んだ。

 完全に迂闊だった、フォスがあんな調子だった為に完全に油断していたが、今の状況は非常にまずい。

 状況は一対二であり、相手はどちらもナイフに杖と、何かしらの武器を持っており、それと引き換え自分は何一つ身を守る為の得物を持っておらず、挙句の果てに挟み撃ちの状況なのだ。

 再度生唾を飲み、自分の詰めの甘さと要領の悪さに呆れを通り越し、皮肉一杯の笑いすら感じて曖昧な表情を浮かべる音無を余所に、背後に居たフォスは持っていた杖を構え直し心底憐れむ様に溜息を吐くのだった。

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