冒頭集

藤森空音

落ちて行く

「落ちていく。

 見せつけるように」


「朽ちていく。

 まぎれるように」


 あら? あなた、どこかであったことあるかしら。ふふ。そんなに怖がらないで。あなたが覚えていないのなら、気のせいだわ。ここに来るのは初めて……よね? なら、ここのシステムを教えるわ。一度しか言わないから良く覚えてね。ああ、入り口に立ってないで、カウンターまできてちょうだい。見てもらわないといけないものがあるの。

 そう。いいこね。それじゃあ、これを見てちょうだい。

 あなたは、これからこの下の階におりてもらうわ。この地図の右下の部屋、ここがスタート地点。このフィギュアが貴方ね。これを使いながら説明するわ。ここの区画には4つの部屋があるの。すべて貴方の入ってもらう部屋と同じ構造、同じ物が置いてあるわ。次に、部屋の前の廊下を右手に曲がると、扉がある。ここが開くかどうかは運次第……貴方なら、大丈夫そうね。そしたら、後はこの入り組んだ迷路を通って、このカウンターに戻ってくるだけ。見てもらったら分かると思うけれど、ただ、正解の道を進むだけでは出られないようになっているわ。どうすれば出られるか。ですって? 内緒よ。ここまでたどり着ければきっとわかるわ。

 今ので順路は分かったかしら。不安そうな顔ね。覚えられない? でも、ごめんなさい。この地図は渡せないのよ。

 それじゃあ、禁止事項と注意事項の説明を始めるわね。もし、これを破ったら、すごく遠回りしちゃうことになるから気をつけてね。まだ、戻ってこない人もいるから……。

 一つめ、嘘はつかない。

 二つめ、物を壊さない。

 三つめ、情報の共有はしない。


 そういって、妖艶さを身に纏ったその女性は、俺に念を押した。

この3つだけは破ってはいけないと。俺は彼女に促されるまま、真鍮のエレベーターに乗り込み、機械に囲まれた、黄金色の店を後にした。

「あら、やっぱり彼、二度目ね」

ドアがしまる直前、そんな声が聞こえた。

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冒頭集 藤森空音 @karaoto

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