第7話 ウエストミンスターの鐘
引き留める御徒町に俺は反論を試みる。
「それもまぁ気になるけど、もうすぐ昼休み終わっちゃうだろ」
正論だ! どーだ、正論には反論できまい。
心の中で勝ち誇る俺。
「今日から休み時間が延長される事を忘れたのかな? 担任の先生と1対1で面談があるからね、10分長くなるはずなんだけど」
俺は座っている御徒町の上にある時計を見た。彼と話しているうちに、本来の昼休みの終了時刻を20秒ほど過ぎていたようだ。
それなのにチャイムが鳴らないということは……。……事実を認めるしかなさそうだ。正論には反論できまい。
俺は諦めてさっきまでいたところに座った。
「単刀直入に言わせてもらうと――」
タントウチョクニュー? 何だそれ? 脳内に咄嗟に浮かんだのは短刀とまだ一度も使われたことのない新品のチョークだった。
「一緒に冒険に行ってくれないかな?」
この台詞で俺は我に返った。
「……えっと。何で? 俺と?」
“今日初めて話したのに?”という疑問はかろうじて飲み込む。
「この大掛かりな事を仕掛けたのには2つの目的があった。1つは―-」
御徒町の人差し指がスッと伸びる。
「君を誘き寄せて冒険に誘う事。もう1つは――」
続いて、中指がスッと伸びる。
「冒険する資格があるのかどうかテストをするため」
「資格? ってどんな?」
「それは今は言えないかな?」
どこか遠い目をして呟く彼に、質問を重ねる。
「何で冒険に行きたいんだ?」
「それも今は言えないかな?」
クールな眼差しで回答する御徒町。
俺は脳内から“二度あることは三度ある”という諺を一時的に消去する。更に、“三度目の正直”という諺を優遇する。
「どこに行きたいんだ?」
「用水路…かな?」
ボソッと彼が言ったとき、昼休み終了のチャイムが鳴った。ウエストミンスターの鐘――キーンコーンカーンコーン、の音とともに図書室から人が去っていく。
「じゃ、俺らも行くか」
俺はそう言うと彼と同時に立ち上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます