第6話 御徒町の動機

 ――っと、話がずれてしまった。司書の先生が“友達が借りた”と言っていたのはこういうことだったのか。


 俺は再び挙手をする。


「次の質問。何でこんな大掛かりなこと仕掛けたんだ?ひとのバーコードで本借りたり、その本を1箇月間も自分で管理したり、ひとのロッカーにそれを入れたり、ひとの下駄箱に督促状を入れたり……」


俺が問うと、彼はいとも易々と答えた。


「楽しかったから。君も楽しかったよね?」


“いや、いつもとなんら変わりないよ”――そう言おうとして、俺は少し考えた。


 普段から俺は友達とふざけて遊んでいる。休み時間だろうと、授業中だろうと。


 まぁ、授業中は先生に叱られるけど。それに対し、御徒町は休み時間でも何やら難しそうな本を読んでいる。俺らとは全然違う、勉強が好きな人なんだ、頭が良い人なんだ――と勝手に認識していた。くだらないことをして爆笑している姿を見たことがない。でも、彼も俺と同じ小4。俺らみたいにふざけて、腹を抱えて笑って見たかったのかもしれない。そんな彼が準備したこの一連の出来事。


 ふと御徒町を見ると、普段は感情を表さない――いや、恐らく表せないこいつがワクワクしたオーラを全身から放っている。


 分かったよ。お前の期待に応えてやる。


 俺は決意とともに口を開いた。


「楽しかった。うん、楽しかった」


その台詞を聞いた彼は笑顔になっていく。


 そうか、俺は1人の人間を笑顔にできたんだな――。


 俺は満足げに微笑む。


 もうすぐ昼休みが終わる時間だ。


 俺は立ち上がり、図書室を出ようとする。


「何処へ行くつもりなのかな?」


座ったまま御徒町は訊いてくる。


「どこって、授業が始まるから教室に――」


「何を言っているのかな? 話はまだ終わっていない。むしろここからが本題かな」

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