第5話 司書の先生の特技

「1箇月以上前。僕は君のバーコードを使って本を借りた。督促状が来るのは、本来は1週間しか借りられない本を1箇月以上借りた時、かな?」


 御徒町の問いかけに俺はコクンと頷く。


「その本を、昨日まで自分自身で管理していた。――誠人君の顔に“質問です”と書いてあるけれど、後で質問の時間を設けるからしばらく待っていてくれるかな」


俺は反射的に手で顔を擦ってしまう。軽く軽蔑した視線を送ってくる御徒町は、続きを話し始めた。


「今朝、何となく朝早く学校に行ってみた。すると、教卓の上に督促状が置かれていたんだ」


――予知能力でも持ってんのかよ。俺は心の中でツッコみながら話を聞く。


「それを君宛ての物であると確認し、下駄箱に入れ、本は君のロッカーに入れた。――質問はあるかな?」


“お待たせしました”という表情かおの彼に俺は手を挙げて訊く。


「司書の先生は、他人ひとのバーコードで借りるのになんか言わなかったか?」


「“友達に頼まれました”って言ったらにこやかな笑顔で手続きしてくれたよ」


 司書の先生の特技を忘れていた。それは、本に関する記憶だけは恐ろしく良いってこと。説明すると――千何百人といるこの学校の児童の1人、Aくんが“友達に頼まれた”と言って何千冊とある本の1冊、Bという題名の本を借りるとする。約1週間後、CくんがBという本を返しに来る。すると、司書の先生はCくんを“友達に本を借りてもらった子だ”と思う。当然の如く、Aくんが本を借りてからCくんが返しに来るまでに数多かずおおくの人が本を借りたり返したりしている。中には誰かに借りてもらったり返してもらったりした人もいるだろう。そんな人たちも含め、司書の先生はそのへんのことを全部記憶している。本が好きだとそうなるのか。すご。

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