第3話 ロッカーの本

 その日の昼休み。


 返却期限が過ぎ去った本と督促状を手に俺は図書室へ向かった。


「よっ、セイ。今日もやるだろ、クラス対抗ドッジ。今日は天気良いしな」


途中、隣のクラスの加藤が話しかけてきた。


悪いわりい、今日は本返さなきゃ。用事が済んだらすぐ行く」


言いながら、彼に督促状を見せる。


「おー、督促状? すげぇな、初めて見たわ。よくなくさなかったよな~、こんな前の本。ある意味尊敬するかもしんない」


「いや、それがさ、借りた記憶のない本が今朝ロッカーに入ってて……。何でだろ」


事情を説明する俺に、加藤は素っ気なく


「ふーん」


と返しこう言った。


「じゃ、早く来いよな」


そして、踵を返し、小走りで彼は去って行った。


 少し歩くと、そこはもう図書室だ。


 カウンターで返却手続きを済ませる。この学校の司書の先生は“縁側に座って猫を撫でているおじいちゃん”という感じだ。年齢も、還暦は過ぎているだろう。


 そんな司書の先生に軽く謝ると、にこやかな笑顔でこう言って許してくれた。


「これからは気を付けての。友達が借りたから忘れとったのかも知れんがのー」


へ? 友達? “本借りといて”なんて誰かに頼んだ覚えはないけど、まぁいい。早く外に行ってドッジボールがしたい。


 俺は早歩きで本棚へと向かう。本の背表紙を見て所定の位置に戻す。そのまま図書室の出口に行こうとすると背後からこんな声が。


「髙𣘺誠人君。話がある。時間をくれないかな」


 振り返ると、御徒町がいた。


 御徒町秀人。俺の学年の秀才。同じクラスではあるけど、話したことはまだない。


 俺は初めて話す御徒町に、多少は緊張して返答する。


「えっと、ごめん、俺は加藤とドッジやる約束してるから──」


「君は今朝から小さな違和感を感じている。その訳、知りたくないかな?」


俺の話を最後まで言わせずに彼は言った。その台詞を聞いて内心ビクッとする。


 小さな違和感……。それって、下駄箱に入っていた“偽りのラブレター”やロッカーに入っていた借りた記憶のない本のことだろうか。もしそうだとしたら気になる。


──いや待て。俺が感じている違和感のことを、なぜ彼は知っている?これには何か裏があるのか?とすると──。いや、でも気になる──。


 1つの結論に完全に絞ることが出来なかった俺は、とりあえず口を開く。


「いや、大丈夫。約束破りたくないし」


「しかし、加藤君は約束なんてそこまで気にしないだろ?」


そう言われて、普段の加藤を想像する。


 放課後に遊ぼう、と誘ってきて、結局1時間待っても待ち合わせた場所に来なかった加藤。昼休みが終わってボールは片づけておくから、と言って片付け忘れた加藤──。


 図星だな。


 俺は彼に抵抗することを諦めた。

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