60

時間が大幅に遡る。

「ブリキ三兄弟、あの武装JKをなんとかしてみなよ!ぼくらの宮廷道化師を名乗るならさ!」分かりやすく三人のブリキ、サイバービースト達元米軍サイボーグ兵士に煽るようにカーネイジが言う。武装JKと呼ぶのは、スクイッドの頭部と左腕を電磁加速散弾銃で吹き飛ばしたサイボーグの少女だ。

するとその内の一人、雑魚ロボット兵士のような見た目のキルストリークが前に出る。背中にブレードをマウントし、手には大型拳銃と呼ぶにはやや大きく、それでいてコンパクトなリボルバーのような銃を握っている。

「じゃあ、俺がやるッスね。無理そうだったら王様に押し付けるんでそのつもりで」

「そこは俺たちじゃないんだなナード」「王様は俺たちがどこまで出来るのかを知りたい、俺たちも王様が本当に強いのか知りたい、ウィンウィンって奴じゃないッスか?」

なるほどと思いながらサイバービーストが王様、カーネイジの方を振り向くと。

その王と呼ばれているウェステッドたちはいつの間にか姿を消していて、その直後に地面がなくなったような浮遊感の後、視界が暗闇に包まれた。

ヤクモが五人を回収し、別の世界へ移動させたのだ。キルストリークを残して。

「それだったら俺も回収して欲しかったんスけど!」貴方が死にそうになったら回収する。そんな声のイメージが彼の電脳を駆け巡った。

ワタシも、貴方たちがどこまで出来るのかくらいは気になっている。イメージはさらに続ける。もっとも、どうやら相手もそこまでやる気はないみたいだけど。

「へ?」とスクイッドの頭部と腕を撃ち抜いた少女の方を見ると、彼女は何処からの通信を受けたかのようにこめかみのあたりに指を置いている。

ずっと向けていた電磁散弾銃も銃口というか先端は下を向いていた。

続けてイメージは、全身がボロボロになったプラモ少女のような女を担いだ椎奈の姿が浮かぶ。

彼女が相対していたアンジェリカというシスターは、目的を達成したみたいね。

あのシスターが、貴方の目の前にいる彼女と連絡を取っているのは確認できた。

カーネイジは怒るでしょうけど、まだ彼女たちが何を目的にしているのか分からない。不可解なことに、ワタシは追跡できなかったの。蒼天に、ミハイルので見てもらうしかなさそうね。

「機械の目玉を信用するのはまずいと思うっスよ」

とキルストリークがぼやいたのと、さっきまで殺意も何もない雰囲気だったサイボーグことレイが人間の肉眼では捕捉できないような速度で両腕に内蔵された高周波ブレードを展開してキルストリークに飛びかかったのと、振り下ろされた刃をブレードで防いだのは一瞬で同時のことだった。

「一切の動作音がない。よほど未来のものを使っているか、高級品ッスかね」

ブレード同士が火花を散らし金属が嘶くような音を鳴らしながら彼は言う。

しかしレイは答えない。ただ、まっすぐ彼の顔を見つめている。

鍔迫り合いをレイが制して刃をずらすと、ずっと握っていた電磁散弾銃を彼の頭部に向ける、が直後に斜め下から砲弾に匹敵するサイズの弾丸が加速レールの銃身を貫いた。それにより銃身が真っ二つに寸断される。弾の主は彼の右手に握られた大型拳銃のような火器だ。

続けてキルストリークがお返しとばかりにレイに弾丸の主、ハンドキャノン(気分によってハンドガンとも呼ぶ)を向けて発砲。銃声と言うにしては過剰な轟音が響く。

放たれた50口径弾をブレードで叩き落としながらレイが距離を取る。

切り払われたのを構わず彼は続けて撃ち続け、その度に彼女がブレードで弾く。

六発目がブレードではなく大きく振り上げられた足で弾かれたのを見て、今度は彼から高速でガシャガシャと金属音が鳴り、音と同じくらいの速度で彼女との距離を一瞬で詰め、青白い電撃を放つブレードを振るう。それを彼女は左肘と左膝で挟んで受け止め、空いた右腕のブレードがすかさず突き出される。

彼を横から貫こうとした瞬間、彼が青白い光に包まれて消失した。

「!?」突然の現象に彼女の表情が若干驚きの形を取った。

そして青白い放電と光と共に再びキルストリークが剣を振るいながら姿を見せた。

しかし刃が拳に弾かれる。レイは全身サイボーグ型のイマジナリアン。両腕にブレードを内蔵しているだけでなく、拳と腕の中の人工筋肉もより高出力かつその出力に負けないよう頑強な素材で組まれている。ロボット兵士の出力で振り抜かれた剣の一撃を拳で弾き返すことができるほどの出力を実現するほどに。

すかさず何処からともなく引き抜いた拳銃を連射するが、至近距離でも流石に拳銃弾程度ではキルストリークの躯体にダメージを与えることはできない。

一マガジン程、十数発の弾丸を撃ち込んだところで怯ませることしかできないと判断して放り捨てて、拳と刃を構える。

対するキルストリークは剣を両手で握り構える。バチバチと青い火花を不定期に放つ刀身は、機械歩兵が振るうには十分な性能だと示しているかのようだ。

キルストリークことロン・キャスターにとって、この剣は特別な意味を有している。

具体的には、ただ誰かに褒められたかった、認められたかった足掻きの形。

人はそれを承認欲求と揶揄していたが、彼にとっては誰もが求める、与えられる当たり前の経験だと思っていた。その果てが今に至る前の自分だった。

そんな思考が一瞬だけ電脳を走って無に消え、人為的な極限状態にスイッチが切りかわった瞬間、膝あたりのアクチェータが軋むような音を一度だけ出してレイに切りかかった。

それに彼女は拳を繰り出した。繰り出したというより、突き出したというべきかもしれないが青白い軌跡を残しながら振り下ろされた剣の一撃を弾くには十分な速度と威力だった。続けてチャージし続けていた電磁散弾銃の銃口を剣と共に打ち上げられて無防備になった彼に向けようとして、彼が消えた。

先程と同じ青白い光、放電現象のような挙動をする光に包まれるようにして消えた。

レイはあの剣が現象、一時的な空間転移能力を発動していると予想していた。

それは正しいのだが、彼はもう一つ発動装置を持っていたのだ。今度は距離を取って背負っていた(というより体に直接くっつけていた)ライフル銃を構えて引き金を引く。

推定5.56mm弾がレイに殺到したが、続けて能力を見せたのはレイの方だった。

肉眼、あるいは低性能のカメラアイでは彼女が突然ぶつ切りにされた映像のように瞬間移動したように見えただろう。それは人間の眼球に非常に近いカメラアイを備えたキルストリークでも、彼女が右に左にブレるような動きをしながらこちらに高速で接近してくるようにしか見えない。

恐らくはイマジナリアン固有の技術か、別の世界で発見された技術によるものか、その機能を搭載したサイボーグまたは人間は超感覚を得て、そして肉体がその通りに駆動する。それは常識外の速度での移動という形で現実に起きた。

とにかく、発射された弾丸は彼女に命中することなくすべて回避された。

乱射、大口径弾は当たらないか当てても効果がないと彼が判断したところでレイがまたも拳を前に出した。直後突き出した右腕の掌側が開き、中から彼女が投げ捨てた拳銃よりも大きな銃口が姿を見せ、そして火を噴いた。

内蔵式のグレネードランチャーだ。先程使った装置の再使用が可能になる前なのでキルストリークは横転して回避。爆風や破片が多少彼の躯体に傷をつけるが、関節部は無傷で済ませた。

そこにレイが両腕からブレードを展開し、大きく飛び上がりながら刃を振り下ろした。機械化されたカマキリの大鎌にも見える刃はよく見ると赤く赤熱していた。

どうやら高周波あるいは超高熱で対象を焼き斬るもののようだ。

体勢が崩れていた彼は腕に内蔵しておいたスタンバトンを咄嗟に取り出し、瞬時に展開して刃を防ぐ。が剣と同じ素材で作られているとはいえ強度はずっと脆いためか火花を散らしながら、次第に刃がバターに押し付けた熱したナイフのようにバトンにめり込んでいく。が、彼の出力はレイの高出力に太刀打ちできるものらしく、辛うじて拮抗状態を作っていた。そこに彼はもう一方の腕からもバトンを取り出し、噛ませるように二本でブレードを押さえて押し返そうと力を入れる。すると一瞬だけレイが怯んだので、隙を逃さないよう胴体目掛けて蹴りを入れる。

生身の人間であれば内臓破裂は免れないほどの蹴りだったが、彼女は大きく吹き飛ばされただけでダメージはない。ただ内部の動作装置が多少ひずんだり、傷つくのは避けられなかったが。次はキルストリークがかなりの低姿勢で地面を高速で這うヘビのような動きで彼女に迫ってくる。

再びレイがグレネードランチャーを展開して発射するが、今度は発射された砲弾を舐めるように回転して回避される。爆発を背景に、彼の姿が一杯に広がる。

そこでレイの脚が突然開いた。それと同時に飛び出したのは、今まで見せてきたのと同じ折り畳み式のブレードだ。彼女は両脚にも同じものを仕込んでいたのだ。

隠し腕のような通常の腕と同じように動かせれる義肢とは違い完全に奇襲用の装備。

だがそれは既に彼に読まれていた。最低限の動きで彼の腕と身体の間を通り抜けさせられたブレードを、彼は腕で挟み込むとそのまま引き千切りながらへし折った。

痛覚など繋がっていないものの、土壇場の一撃を回避されたことにレイが激しく動揺する。距離的にグレネードランチャーは使えない、ブレードを今繰り出そうにも間に合わない、よってレイが使える手は、文字通りを繰り出すことだった。

が、二度見せた消失現象で消えた彼を彼女の拳が彼を捉えることはなく、代わりに彼女の胴体から刃が飛び出した。空間転移で瞬時に背後に回った彼が握る剣が、その突き刺すには向かなそうな見た目に反して真っ直ぐ彼女の胴を貫いた。

まるで鮮血のように炎と火花が迸り、レイが両手両足を振り回して暴れる。

その火事場の馬鹿力のような、あるいは息絶える寸前の最後の炎のような勢いは刃を突き立てたキルストリークを振り回して彼を振りほどくが、胴に刺さった剣は抜けない。キルストリークが地面を転がるが、彼は素早く起き上がる。

彼女は彼に目もくれずに刺さった剣を引き抜こうと全身でもがいている。

剣のエネルギー展開スイッチが押されたままなので、下手に刃に触れると彼女の腕が焼けとけてしまう。そのせいで彼女の身体は徐々に崩れるように溶解していき、それが引火するように何かしらのエネルギーと誘爆。

焦りと怒りに満ちたような表情をキルストリークに向けた瞬間、彼女は下半身と彼の剣を残して大爆発した。


「レイ・ブレストプレッシャー407号機の反応が途絶えました」

脱出したアンジェリカが、倒れているレフィーナに告げる。

常人であれば瀕死の重傷でありながらも、彼女は人間らしく苦しみながらその言葉に目を、顔を向けて反応する。

「今回のレイはよくやったようですが…駄目だったようですね」

「安心してくださいレフィーナ。レイ408号機は既に要請済みです」

その言葉にレフィーナは顔を違う方へ向ける。そういうことではないと言いたげに。

「それにしても、貴方は相変わらず頑丈ですねレフィーナ」

「レイと同じくらい貴方たちは消耗率が高いのですが、第一ロットの一号機…101号機の貴方は稼働してから何度か機能停止はしても反応消失にまでは至らないのはなぜなのでしょう。それが分かるかと貴方をベースに第二、第三ロットと作ってみたのですが、貴方のようにはいかないばかりか、貴方の特性に飲み込まれるように暴走するものが出てくるようになりました」

「流石の貴方もその様子では暫く活動は難しいでしょう。ご苦労様でした」

アンジェリカが形ばかりの言葉をかけた。本人は本心からなのだが、消耗品扱いであるレフィーナにとっては形だけの感謝のように聞こえていた。それも、どうでもいいことなのだが。


一方のキルストリークは、崩壊していく都市を走っていた。

「運動能力を見たいって言いだしたのはどこの誰ッスか!?」

<それはカーネイジの要求だ。殺人アンドロイドを倒した程度では満足できなかったようだな>

「王様も姫様も要求値高すぎるんスよ…!」

そうぼやきながらも、彼の躯体は戦闘後にもかかわらずロボット兵士としては申し分ない運動性能で崩れていく道路を、倒壊するビルを駆け抜け、走って上っていく。

「ヤクモ!次のビルで飛ぶんで回収よろしくッス!」

その言葉と同時に、彼は言った通りにビルを登り切り、空中に飛び出す。

直後彼の眼前が十字に裂け、空いた不可思議な空間に飛び込んでいった。


そうしてキルストリークが脱出した先は、先程のサイバーチックな都市とあまり変化のない、しかし天井のない都市だった。

そこには彼の上官のサイバービーストもいれば、身長180cm以上の黒ドレス女こと藤森椎奈、そんな彼女に抱えられてもがくサイボーグ少女と。

「蒼天!叢雲までいるなんて聞いてないわよ!」

「私だって貴女がまだ生きてるとは思わなかったわ」

スクイッドと呼ばれているイカの被り物をした少女と近未来の作業服か宇宙服のような服に身を包んだ狐耳の女性が言い争いをしていた。

椎奈とクロエは知らないのだが、彼女もまた王の一人と呼ばれている。


叢雲桜花むらくもさくら。序列は八番目。

カーネイジとミグラントのの一人だ。

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