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「これどうするんだ?」言いながらサイバービーストがスクイッドの被り物を持ち上げると、それが突然動き出した。

「わぁっ!イカの被り物が動き出した!」キルストリークが声を上げる。

ビーストの手に吊るされた被り物はもがくように暴れだし、手を放すと地面に落ちて、そこから突如先程の少女が飛び出してきた。

「畜生、カーネイジまたやりやがったわね!」「王様じゃなくてあのサイボーグJKだよやったのは」突然の復活に驚くこともなく彼はスクイッドを撃った主を指す。

「あいつは何者?」「知らんが敵なのは確かだ、それで、あんたはどうする?」

「アタシの役目は顔見せとさっきまでいた世界への案内だけだ、それが終わったらこの世界からバックレさせてもらうよ」

「つまり戦わないと?それでもNo.3ッスか?」「アタシは戦闘向きじゃないんだ、そこのイカれ女一号と違ってね」イカれ一号と呼ばれたカーネイジはニコニコ笑っている。

「大体蒼天の頼みで仕方なくここにいるんだ、アタシはもうそいつらとはつるまないって決めたんだからね!」

そう叫んだスクイッドの左腕が吹き飛ぶ。今度こそカーネイジかと全員が思ったが、やったのは先程彼女の頭部を吹き飛ばした見た目女子高生だ。

「なんでアタシなんだよ!」「一番狙いやすいからッスかね」「ついでに脆そうだし」

「おい!アタシを撃っても効果ないって分かったならそこの金髪の女を狙え!」

千切れた左腕を押さえながらスクイッドは怒鳴る。

言われた少女、レイは分かった素振りを見せることなく再びスクイッドに銃口を向ける。

向けたまま、レイの動きが停止した。一行には分からないが、この時指令を受けていた。


「レイ、アンジェリカです。レフィーナとチロルタリアは撤退を完了しました。私は調査を行うので、あなたも頃合いを見て帰還してください」

アンジェリカがレイにそう告げると、二人の方を向く。

その時には既にクロエが腕を振り上げて迫ってきたところだった。

それを難なくはじき返す。続いてフレデリカが迫るがそれを脚部で抑える。

視界に表示したプログレスバーは順調に伸びている。位置検索が可能だということを示していた。

「うわの空でいなされてるわよ、なんとかなさいドラゴン女」

「お前が何とかしろ!私の世界にあんな重量級サイボーグなんていなかったぞ!」

「わたし生身なんだけど」怒鳴り合う二人と対照的に、アンジェリカは静かにそこに立っていた。

「協調できない所もフレデリカそっくりです。やはり貴方はフレデリカなのでは?しかし彼女にしては動きがまだ遅いですね。ブランクでしょうか」

「あのシスターは何を言ってるんだ?」「わたしをさっきから別人だと勘違いしてるのよ。今じゃ完全にわたしのことをフレデリカだと思うようになってるけど」

その声にアンジェリカが椎奈の方を向く。「ですが、やはりフレデリカじゃありませんね。彼女は貴方よりも顔が幼げでした」

「遠回しに老けてるって言われてる?」「原形を留めないレベルで全身整形した私に聞かれてもな…」

そうこうしている内にアンジェリカの視界に映るプログレスバーは全体の半分まで伸びている。「大体あなたサイボーグヒーローみたいなことやってるくせに重量級のサイボーグ見たことないってどういうことよ」「目の前の怪しいシスターレベルのサイボーグなんて正規軍人専用の軍用ボディしかないんだ、生前の私レベルで民間用ギリギリ、一部ギリギリアウトでやりくりしてたんだから」

ましてや、ただのヒーローのコスプレをしていただけのインフルエンサーとコメディアンばかりだったあの界隈で、実戦レベルのサイボーグなんて数えるどころか自分と、自分を殺した元軍人の彼の二人しかいなかっただろう。

だからこそ、目の前のシスターが異常なのだと分かる。そもそも彼女が人間でないことも。人間ではないから、では説明しきれないほどの出力と頑強さはそのまま技術の差を思い知らされる。今の自分も生前に比べれば月とスッポンに等しいほどの性能差だが。だからこそである。筐体からだ使のが分かる。それに気づいたところで、求めるままに言われるがまま肉体を置き換えていった自分に出来ることなど、あるのだろうか。

果たして彼は、自分を殺した彼は、頭部以外をほぼ機械の身体に置き換えた「親愛なる同胞ビッグブラザー」は彼自身を使いこなせていたのだろうか。


「とらえました」アンジェリカがいい加減煩わしくなったと思ったかと思うような正確さと冷徹さで思考を巡らせていたクロエを、手にした巨大な斧のような格闘武器で叩き飛ばし、そのままの勢いでフレデリカと延々呼んでいる椎奈に振り下ろし、地面に叩きつけた。

「貴方はやっぱりフレデリカじゃありませんね。そもそも貴方がこうして前に出てること自体異常だったのですが。貴方フレデリカなら、今吹き飛ばした彼女だけでなくもっと大勢の手駒をけしかけ、後方で操っていましたから」

「他の仲間は別件で出払ってるみたいだから、わたしとあの子だけで来たのよ」

地面に押さえつけられながら椎奈が言う。叩き飛ばされた(殴ったわけではないので)クロエはサーバーか黒い墓標のような蓄電池の列に突っ込んでいったようだ。

「別件…ああレイとレフィーナのことですね。貴方がいなくなったあとに、二人の選別が終わったのです。レイは見れば貴方も分かりますが、レフィーナは貴方が知ってるものではなくなりました。どうも初期選別の際に遭遇した人間の姿を改めて模倣したようで」

ようです、と言おうとしたアンジェリカが吹き飛ばされ、背後にあった白亜の、明らかに世界観を間違えている荘厳ささえ感じられる構造物に叩きつけられた。

やったのはクロエだ。身に付けた、身体に直接装着されている装甲が展開して青白い光を放っている。小惑星の中をくりぬいて築かれた都市を動かすエネルギーを吸収したのだ。

「ようやく調子が出てきたところだ」「エネルギー吸収してハイになってるだけなのに何が調子よ。とはいえ助かったわ。会話が終わったらわたし死んでたかも」

起き上がる椎奈。同じくらいのタイミングで、アンジェリカも叩きつけられた衝撃で寄りかかっていたように見えるが、あっさりと起き上がる。

怪しげな金属生命体を貫通するほどの破壊力だったはずの蹴りだったが、彼女が身にまとっている装甲を凹ませるだけにとどまっていた。

ロボットアニメやゲームの機械が駆動するような音を立てながらアンジェリカが起き上がる。視界のプログレスバーは既に100%に達しており、この建造物がどこにあるのかをアンジェリカに結果を表示していた。

「中々強烈な蹴りでした。ので、お返しします」「え」思わぬ返答にクロエが間の抜けた声を出したのと、人型兵器の脚部そのものな装甲脚が彼女の胴体に突き刺さったのは同時だった。

そのままアンジェリカとクロエが入れ替わったように彼女が着地し、遠くの方でエネルギーが爆発した。

それを呆然と眺めている椎奈を、アンジェリカは呆けた顔を掴んで鼻先がくっつきそうなくらい自分の顔に近づけた。

そうして顔を間近で、観察するように、舐めるように眺めてから、興味を失ったように離す。

「フレデリカ、私達は本来前線で戦えるものではないと忘れてしまったようですね」

「サイボーグドラゴン娘(年齢不詳)を豪快に蹴っ飛ばしておいてそれ言う?」

「パワードスーツのおかげです。私自身もアップグレードは重ねていますが、私単体では貴方と彼女の相手はできなかったでしょう」

貴方はパワードスーツは窮屈なのが嫌だと言って後方で指揮に徹していましたよね。と彼女は言いながら、まるで無重力で浮いたようにふわりと浮かび上がる。

「目的は果たせました。できればもう会いたくはありませんが、多分そうもいかないでしょう」

「その斧あんまり使わなかったわね」「貴方を破壊するのが目的ではありませんでしたので。それに出力を重視しすぎてまともに振り回せないんです」

でもちょっと振り回すだけで大抵の人は大人しく話を聞いてくれるようになるので重宝しています。と言って、アンジェリカは自分が開けた大穴へ飛んでいき、やがて見えなくなった。


「ヤクモ、生きてたらクロエも一緒にわたしを回収して。例のシスターは目的を果たした。…止めなかったのかって?どう止めればいいのか分からなかったから」

彼女一人となった中、誰もいない空間に彼女は話す。

「ここにもう用はない。わたしが大暴れしたお嬢様学校のように、妙に静かすぎるから、きっともうすぐよ」

「酷い目に遭った…顔も声も思い出せないが間違いなく母さんが私を燃え盛る火の海に引きずり込もうとしてくる夢を見た」ぜえぜえと息をしながら、全身が煤だらけのクロエが片足を引きずりながらやってきた。

「それは臨死体験って言うのよ。わたしたちって臨死体験できたのね」

「あのシスターは?」「目的を果たして飛んでいったわよ」「意気揚々と飛び出したはいいが何の意味もなかったな…相手もそもそも戦う気も、何か関わりがありそうな建造物を守る素振りすら見せなかった」

古い知人に出会ったような表情を浮かべていたシスターの顔が浮かぶ。

こちらを見ながらクロエが腕を鳴らしている。彼女の中ではまだ椎奈は殺人者だ。

「わたしとやりたいなら後にしなさい。もうすぐここは消えてなくなるから」

「そうしたらどうなる?」「最悪生き埋めになるわ」

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