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「都市が崩壊する?」「町中の連中がそう騒いで大混乱ッス。どうも大黒柱的なものをさっきのでかいドリルが壊したんだか落ちてきた衝撃で壊れたらしくて、加えてあのドリル、一番下まで落ちた後立ち上がろうとしてすっ転んでを繰り返してエネルギーの伝達回路をこれでもかと壊してまくってるッス」

レフィーナを撃退したカーネイジに、オリーブドラブとカーキ色の雑魚ロボット兵士のような見た目のキルストリークが説明する。戦いが終わったことで気づいたことだが、先程から断続的に地面が揺れたり、何か大きなものが壊滅的に崩壊するような轟音が聞こえていた。

「そのせいでなんかエネルギーが暴走してるらしくって、なんか色んな所が爆発したり燃えてるッス」「妙に人気がないのは騒ぐ奴がいないだけじゃなくて避難してるからか、藤森がまた行方不明になったところにこれは少し厄介だな」

「ヤクモに頼めば脱出自体は問題ないス。椎奈だかディートリンデも多分自分で脱出するかヤクモが連れてくるッスよ」「挙動が怪しくなったうえに妄想癖まで拗らせだしたんだ、それに変なシスターがあいつを何度も別人と間違えていたのもある」

「変なシスターってなんスか」「格好は普通で背丈はぼくより若干デカいが乳が藤森よりデカい、パワードスーツを身に付けたシスターが藤森をコンビニに蹴っ飛ばしてきたんだ」

「愉快そうでよかったじゃないッスか、こっちなんてバグったゲームから出てきたみたいな動きするチンピラの群れッスよ」「藤森をフレデリカと言い間違えては訂正する怪しいシスターの代わりに冒険者のレフィーナを―――」

言って倒したレフィーナを指差そうとして、さっきまで所々焦げ付いて煙を上げていたレフィーナが影も形もなくなっていたことに気付いた。

「…さっきまであそこで倒れていたんだ」「王様何色の薬か知らんスけど飲み過ぎたッスか」「勝手に人を病人扱いするな」


<こちら蒼天。各員に通達。現在、地上とそこの空間が突然不安定になっている。原因は分からんが、恐らく記録や話で聞く世界崩壊が近いと思われる。世界が崩壊すると我々は別の世界に自動で移動するが地下だとどうなるかわからん。最悪地面に埋まる。ヤクモが回収の用意をしている。なるべくその場で待機していろ>

頭の中に響く声。上空で常に観測している蒼天からの報告だ。

彼が見ている映像が頭の中に流れ込んでくると、江戸時代辺りの街並みがぐわんぐわんと表せるように歪んでいる。これが世界の崩壊かは分からないが、明らかに長居してはいけない状況だというのは本能で分かる。

「よし、動いたろ!とかしないでくださいッスよ王様」「ぼくをいたずら小僧か何かだと思ってる?」「洒落にならないいたずら小僧だって聞いてるッス」

失敬なとわざとらしく頬を膨らませるカーネイジを無視するキルストリーク。

そんな二人に頭部が銃のような形になったサイボーグと、いかにも巨漢な一つ目のサイボーグが近づく。彼の上官、ガンヘッドとサイバービーストである。

「特にめぼしいものはなかったよ王様。さっきのドリルから飛び出してきた様子が怪しすぎる不良みたいな連中以外は、この街のサイボーグチンピラくらいだ」

「あるいはちょっと殴りづらいドローンやロボット兵士くらいだな。鬼の女王とかを倒しに行ったヤクモが一番面白そうなところを取っちまった」

「なんか使えそうなサイバー部品とかはなかったのか?」「なかったな。ていうか探す前にこんな大騒ぎが起きたからあるかもしれんが崩壊しそうだって言われたら探しに行くのも危ないしな…」

「今の身体で満足してるし、そんなに興味もないな」

「そんなことより、藤森を見なかったか?さっきまでぼくが戦ってるのを食べながら見ていたんだが」「見てないな、ガイノイドと間違わられて連れてかれたんじゃないか?」「この状況だし色々滾ってそうだし」

「もしそうなら無駄な死体が増えるだけだが、最近の挙動不審と妄想癖を鑑みると面倒事が増えるかもしれないんだ、ヤクモがいるから探さなくてもいいが…」

「じゃあさっさと避難するッスよ、ここだっていつ崩れるか分かったものじゃないし」「まあ逃げることもできないんだがなこれが」

焦るような素振りを見せるキルストリークに、あっさりとガンヘッドが言う。

「どういうことだ?」「大黒柱の中に階層のエレベーターがあるらしいんだが、そのエレベーターが動かなくなったとかで暴動が起きてる。探せば上に上がれる道はあると思うんだが、この状況だと使えなくなってるだろうな」

じゃあヤクモの転送待ちだな。とビーストが言って、一行の間に沈黙が産まれる。


その時天井、正しくは上の階層の一部が爆発と共に落ちるのをカーネイジが見た。

自分たちの真上が崩れたわけではないが、町一区画ほどの巨大な質量がその下の層を巻き込むように落ちて行ったのは、流石の彼女でも薄ら寒さを感じざるを得なかった。

「旦那、あんた今までどこにいたんだ?」その声に振り返ると、いつの間にか姿がなかった、正しくは蒼天に一人だけ呼ばれて別行動を取っていたミグラントがそこにいた。その後ろには、ビーストたちは知らないが自分たちは知っている顔があった。

セーラー服にタクティカルベストを身に付けた、彼女よりも小柄な少女。頭にはイカを模した被り物。

彼女はカーネイジが健在そうなのを認めると、分かりやすく嫌な顔をした。

「この状況では死なないとは思っていたが…まさか本当に死んでいないなんて」

「君も元気そうで何よりだ」「蒼天とミグラントの頼みで来たんだ、でなきゃアンタの顔なんてもう見るつもりはなかった」

険悪そうなムードに首をかしげるサイボーグたち。

「紹介するよ、王様って君たちが呼んでるウェステッドの一人、三番目の王様…むしろ女王とか姫様の方があってる気がするけど、スクイッド君だよ」

スクイッドと呼ばれた少女が三人を見て、頭を下げる。それから再びカーネイジをにらみつける。

「”過去にとらえる水姫”なんて大層なあだ名をクモに付けられた、被害者の一人だよ。あいつに一発ぶち込んでやりたくて、やっと居場所を突き止めたと思ったら死んでやがった」

「そして、君たちが知ってる王のウェステッドの史上初の協同…”10年前の敗戦”で酷い目を見た一人だ!死んだと思ったら生きてるとはね、イカじゃなくてプラナリアだったりしない?」「てめえ!」

わざとらしい挑発にあっさり乗って挑みかかろうとするスクイッドをまあまあと宥めるミグラント。

「四番目の闘争バカと六番目の決闘狂いは満足したかもしれないが、アタシはあんな目に遭うとは思ってなかったんだぞ!まさかお前と叢雲の二大キチ―――」

「今はそれどころじゃないだろ姫様、言い争いをしている間にここが崩れるかもしれないんだ」「何だって!?そこのイカれが何かしでかしたのか!」

「残念ながら今回はぼくじゃない。訳の分からん集団が巨大なドリルで落ちてきたんだ、その衝撃でどうやらここら一帯が崩壊しそうになってるらしい。構造的な欠陥だらけだったのかも」

「そのドリルってあそこで起き上がっては倒れるを繰り返してるあれか?」

指差す方向には、遠くで起き上がろうとしては倒れている物体。

「あれだ。壊しに行こうとも思ったんだがあそこ最下層な上にあれと一緒に挙動がおかしい不良が大量に降ってきて、その対処でいっぱいいっぱいだった」

「ぼくは冒険者のレフィーナ…君も名前くらいは知ってる「何でも屋」のレフィーナに襲われて撃退したはずなんだが逃げられた」

でのんびり近未来日本を味わっている間にそんな事になっていたとは…お前はとうとう冒険者ギルドにも喧嘩を売ったのか?」

「ギルドに喧嘩なんてとっくに売りまくってるよ、金剛級や金級だの、大層な名前や称号を持った冒険者のことごとくをぼくは殺してるんだから」

「待て、三つ目の世界ってなんだ?ここは妖怪が跋扈してるエド風の世界じゃないのか?」

「カーネイジ、お前教えてなかったのか?」「教える必要もなかったからね」

それを聞いたスクイッドは頭を掻いてから、口を開いた。


「この世界、色んな世界がごちゃ混ぜになって折り重なってるんだよ」


「なんだって?」「えっとね、この世界、カーネイジはゴミ箱世界って呼んでたんだけども、どうやらそれ本当みたいなんだよ」?マークが頭上に浮かんでいそうな声を出したガンヘッドにミグラントが説明する。

「ミルフィーユというか、一つの世界を基準に色んな世界が折り重なって見えてる部分が出てるみたい。その飛び出す世界の一部がセントレアが周辺諸国って呼んでるところだね」

「この世界の元の国はセントレア、帝国、教国、魔界とか暗黒大陸って呼ばれてるところ、んでここ極東の五つ。なんだけど極東部分を乗っ取る形で日本っぽい世界が三つくらい折り重なってそれぞれの一部が出てるって感じだったみたい。スクイッド君は三番目の世界にいたみたいだけど、どうやったの君」

自分達ウェステッドが何者で世界がどういう風に成り立ってるのかも正しく分かってないのにアタシが説明できるわけがないだろ、中世ファンタジーな港町で過ごしていたはずなのに気づいたら近未来の日本っぽい港に立ってたんだ」

「それでヤクモに呼び出されて現在進行形で崩れそうなここに連れてこられたのかよ」「そんな感じだ。蒼天がこの世界から出るぞ、なんて言うから何か手段が見つかったのかと思ったが…そもそもヤクモに頼めばこの世界から脱出なんていくらでもできるんじゃないか?って思ってアタシは聞いたんだよ」

そしたら、と彼女が続けようとしたその時。


彼女の頭が砕け散り、血飛沫と共にイカの被り物がビーストの足元に転がった。


「王様、何か言われちゃ困ることでも出来たか?」「教授~みんなが真っ先にぼくの犯行だって決めつけてくるよ~!」「君前科ありすぎるんだもん…?」

「むしろこれは蒼天によるものじゃねえの…?」<おれの仕業じゃない。理由は後で話すが…敵性反応を検知した、前方だ>わざとらしい声で教授に泣きつくカーネイジと速攻で容疑を否定した蒼天の声を聴き、三人が反応の主を見た。

バチバチと青白いスパークと硝煙のような煙を上げる未来の散弾銃のような銃をこちらに向ける、女子高生のような制服姿の少女がそこにいた。



巨大なサーバーのような長方形の物体が無数に並んでいる区画。

最下層で生成されたエネルギーを蓄電する機構がまるで墓標のように並べられている。

その果てのような場所…一部だけエネルギータンクがなぎ倒されたように壊れている場所にアンジェリカは立っていた。

「はい。レイが交戦。レフィーナは戦闘不能で離脱。了解しました。都市の崩壊が近いので、レイは目標を排除するか、私の命令が入るまで出来なかったら離脱の用意を。私はこれから調査を開始します」

虚空に向かって呟き続けるアンジェリカの目の前には、純白の建造物。

何らかの建物の一部だろうか、緩やかなアーチを描いたそれは明らかに異質な存在としてそこに存在していた。これが彼女たちが目標としていた「聖堂」の一部である。

あっさりと彼女はそれに触れると、近くの表面に四角い切れ目が入り、そこから何らかのコネクターやモニター、ボタンがついたパネルが出てきた。

「メンテナンスパネルがこんな近くにあって助かりました」それに手を伸ばした所で止まる。

振り返らず彼女は口を開く。

「フレデリカですね?レフィーナがやられたと聞いたのであなたが来るかもしれない。と思いましたが…しかし速い到着ですね」

フレデリカと何度も呼ぶ椎奈がそこに立っていた。ヤクモに転送させたのだ。

「ダメ元で貴方の元に連れて行けと言ったら運んでくれたわ」

「それは驚きですが、あなたはフレデリカではありません。フレデリカであったとしても、邪魔はされたくないのですが」

「都市が崩れているのは貴方のせいでしょ」「ええ、突入ポッドが思った以上に巨大な質量だったらしく、それが経年劣化によって老朽化した都市の基礎構造を破壊してしまったようです。確かに、私のせいですね」

「構築スケールを見誤ったようです。地底のダンジョンに使用することはよくあるのですが、今回のような小惑星内部の都市に用いる際は空気が抜ける以外のリスクを考慮するべきかもしれません」

「それで、それが貴方が探していたもの?意外とあっさり見つかったのね」

「見つけられなかった理由はこの世界が珍しいことに色んな世界が折り重なっていたためでした。似たようなものは他にもあったのですが、これ以外は全て外れでした」

喋りながら、アンジェリカは作業を始める。テンキーのようなパッドをリズミカルに叩き始める。タッチパネル式じゃないの?と椎奈が言うと、いざという時はアナログのおかげで助かることの方が多いのですよ。あなたは理解してくれませんでしたが。と返した。

「今から、これにアクセスしてこの大本が何処にあるのかを調べるのが私がすることです。そしてそれを実行しました。出来るかどうかは分かりませんが少し時間がかかるようです」

なので。と言ってようやくアンジェリカが椎奈の方へ振り向いた。

「久しぶりにあなたと遊べますね、フレデリカ」

手にしている巨大なブースター付き大斧を除けば、聖母のような微笑みだった。

それに対して椎奈が持ってきたのは、いつもの大剣ではなく都市で拾った巨大なヒートソードだった。本来持っていた大剣は、アンジェリカに蹴り飛ばされた時に何処かに落とした。

「さっきは不意を突かれただけよ」「さっきは急いでいたので構ってる余裕がありませんでした」

「貴方をしばき倒してフレデリカが誰なのか、貴方たちが何者なのかを聞かせてもらうわね」「あなたの内側にフレデリカがあるのでしょうか?あるのなら、摘出して持ち帰りたいところです」

そこにいたらまた一緒に仕事をしましょう、フレデリカ。その言葉を最後に、二人は口を閉じ、お互いの武器を構える。

と、アンジェリカが椎奈の後方を見て「?」な表情を浮かべた。

「何かあったの?」と彼女が聞いたのと、彼女を足蹴にして有栖川クロエが飛び出してアンジェリカに強烈な飛び蹴りを放ったのは同時だった。

前回は紫と黄色の装甲だったが、今回は白と青の黄の三色でヒロイックに仕上がった装甲を身に付けている。

サイボーグ化とドラゴンの膂力が合わさった強力な一撃のはずだが、アンジェリカは片手(とはいえパワードスーツの出力によるものだが)で彼女の脚を受け止めていた。そのままあっさりと振り払われ、クロエが起き上がった椎奈の横に立つ。

「レフィーナ…?ではありませんでしたね。フレデリカ、あなたの友達でしょうか」

「あいてて、何処の誰よわたしを踏み台にしたのは…っていつかのドラゴン女じゃない」


「私の名前はドラゴン女ではない!父さん正義の味方、本当のスーパーヒーロー、ユスティシアだ!」

「こと有栖川クロエでしょ。随分格好が変わったわね。前は汎用兵器みたいな色だったのに」

「あれは未完成だったのだ、今のこの姿が本来の姿なのだよ!」

「機械強化を受けた半竜半人の少女ですか。珍しい気がします。面白いものを友達にしましたね、フレデリカ。シスターですら私以外に友達がいなかったあなたが、駒を侍らせて戦うのはなんとも言えませんでした」

「あれはお前の知り合いか!?」「あのシスターさんはわたしを誰かと勘違いしては訂正してる変わった人よ。あとこの子は友達ではないわ、ちょっとした手違いで…わたしを悪党だと思い込んだメカドラゴン女よ」

だから私はドラゴン女ではないと叫ぶクロエを完全無視して改めて武器を向ける椎奈に、アンジェリカはどこか懐かしそうな顔をする。

「ぶっきらぼうな所も変わってませんね。人間を知りたい…と言っていましたが、何か分かったことはありましたか?」

「あなた訂正するのめんどくさくなったでしょ」「いいえ?貴方はフレデリカではありませんので。でも貴方を見れば見るほど懐かしくなるんです」


「だから、貴方をフレデリカの代わりにして久しぶりに遊ぶことにします」

「この世界が大変なことになった原因の悪党よドラゴン女、倒しなさい」

「お前も手伝え!私の記憶であんな出力出せる機動兵器なんてないぞ!」

ヒーローなんだから自分の十倍くらいある怪獣でも相手に出来るでしょうに、と思いながら椎奈、クロエ、アンジェリカが互いを見る。


そして、隙を突いた椎奈がクロエを掴んだと思ったら、アンジェリカ目掛けて投げた。

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