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「この強硬手段の取り方は…シスター・アンジェリカ…」
「チロルタリア。合流に手間取って申し訳ありません」
あちこちで火の手が上がる街を見下ろしているのはメイドだ。
しかし、そのスカートからは触手のようなものが覗いている。何なら彼女自身どこか不安定な様子である。
はっきり言ってしまえば、まるで何かが人間のフリをしているような。
そんなメイド、チロルタリアに装甲を身に付けたシスターが声をかけた。
椎奈を何度も呼び間違えては自ら訂正する怪しいシスター、アンジェリカである。
「できればもう少し早く迎えればよかったのですが。レフィーナとセリスの両方でトラブルが起きてしまいまして」
「こちらこそ、反応に気を取られてしまいこうも手間をかけさせてしまいました」
互いに言ってそれぞれ挨拶をする。チロルタリアはスカートの裾を持ち上げて、アンジェリカは両手を組んで祈るように。
「それで、間違いないのですか?」「はい。間違いなく聖堂の一部が発見されました。しかし、この世界…地下空間での発掘作業は不可能です」
チロルタリアがそう言って、二人の前にモニターを表示する。
「この地下都市は小惑星の内部をくりぬいて作られた宇宙都市です。ただ、シスター・エリシアの事前調査により複数の近い属性の世界が重なり合っているためか、現在は城下町の地下の異界として存在しています」
「なので強硬手段を取った調査は不可能ではありません。ただ…聖堂の外殻部分が確認できたのは最下層のエネルギー生成層。あなたが投入した掘削突入ポッドが現在進行形で立とうとする度に破壊しているあそこ一帯が都市のエネルギーを生成する発電機構で埋まっています。通過はできますが、マップデータを常に参照できるドローンがなければ即座に迷います。また、危険生物や警備ドローンが常時徘徊しており、これによりレイ602、725、383がロスト。ヨークは巨体過ぎて起動するだけでも劣化している都市の基礎構造にダメージを与え、下層部のスラムまで転落しました」
「エネルギー生成層の主動力は?」
「核融合のようです。幸いにも核融合炉自体は別の場所にありますが、あの墓標のように並んでいる巨大な蓄電機構が先程から破壊されるたびにエネルギーの行き場を失い、暴発しています」
ついでに突入ポッドの落着によって都市の基礎構造と何かしらの構造に致命的ダメージを与えたらしく、そこかしこで崩落または爆発を伴う火災が発生しています。と彼女は付け加える。
最下層とされる場所で、三脚で立ち上がろうとする度に一本失われていたため転がる突入ポッドが見える。
「このままではこの都市自体が物理的に崩壊。別の世界に埋められることで私達は運が悪ければ、いえ間違いなく全員生き埋めです。調査をするなら今しかないかと」
「少なくともこの日本…のような場所は三つ以上の世界が折り重なり、それぞれの一部が出ている状況でした。地下はこの宇宙都市東京が、地上は江戸時代辺りの文明とここより若干劣った文明度の都市の一部がそれぞれ出ていました」
「シスター・アンジェリカ、そんなことはエリシアの報告で分かっていたことです。…その全てが破綻せず活動していた、というのは分かりませんでしたが。彼女は今どこにいるんですか?」
「感覚を遮断するトラップにはまったという報告が入り、数日後に反応を確認したら膨張していたので自爆処理しました」
ベルクロアによれば48時間以内には再配置可能とのことです。とアンジェリカはあっさり答えた。
「ここに来るのが遅れた理由の一つです。世界Aを実効支配する妖怪たちが展開した結界が、世界Bの水力発電機構で何故か出力が向上し、結果的に侵入が出来なくなっていました。加えて、この世界の原生生物である水竜リヴァイアサンが何かに目を付けたのか縄張りを形成して海は常に荒れている状態になり、下手に私達が手を出すわけにはいかなくなりました」
「だから、あのウェステッド…例の奇妙な生物群がリヴァイアサンを討伐するか結界を破壊するまで待っていたと?」
はい。と即答。「フレデリカがいましたので、問題はありませんでした。いえフレデリカは既にいません。彼女によく似たウェステッド個体がいただけです」と同族でも言い間違えて訂正する。
「シスター・フレデリカの何があなたをそんなに執着させているのか…」
「フレデリカだからです。訂正の続きですが、ウェステッドの中でも上位個体と目される個体が多数確認できたため、突破は可能と判断したのです」
妖怪狩りを始めたのは想定外でしたが。こちらもサンプルを回収していたのでお互い様ですね。とアンジェリカ。
「…とにかく、リヴァイアサンの嵐、というより荒波が水力発電機構を過剰になまでに動かしたことで結界の出力が上がっていたため、安易に突破ができなかったのです。加えてセリスにやらせていた妨害者の排除、レフィーナに任せていた情報収集もあったのですが」
「目立ちたくないと」「それもあります。戦線らしき集団を確認したとレフィーナから報告があったので。とにかく、チロルタリアは先に帰還してください。調査とレイたちの回収は私が行いますので」
そうさせていただきます。とチロルタリアは言うと、次の瞬間には忽然と姿を消していた。
「レイ、ヨーク。活性化してください。都市が壊れても構いません。私が聖堂の調査を完了するまでウェステッドたちと都市の妨害勢力を鎮圧してください」
虚空に向かってそう告げると、アンジェリカは再び浮上して無駄な足掻きを続ける突入ポッドの向こう側へと飛んでいった。
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