55
「フレデリカ?」
聞き直されてアンジェリカは驚いたように口を押える。
自分でもなんでそんな事を口走ったのか分からないかのように。
「あなたはフレデリカではありません。忘れなさい。いえ、どうせ破壊されるので問題ありません。とはいえ自己紹介はしなければいけません」
「初めまして、棄てられの獣。ああ、これはウェステッドを芝居がかって呼ぶ際の呼び方ですよ。あなたたちの中で知っている者は少ないのですが。とにかく、私はアンジェリカ。しがないシスターをしております」
言って、頭を下げるアンジェリカに対して同じように頭を下げる椎奈。
「藤森椎奈…見ての通りの特徴が取り柄の、その棄てられの獣の一匹よ」
「シイナ?フレデリカ、ネーミングセンスが普通だったのね。…失礼。どうやら異常が起きているようです。シイナ、シーナ、椎奈。覚えました。あなたはフレデリカではありません。よって破壊します。この世界で私達が探しているものがあるので」
「それを邪魔されるのは非常に面倒です。あなた達は邪魔をすることと足を引っ張ることを非常に好む集団だと聞いています。だから優先的に排除します」
それ多分一人しか該当しないと思うの。
と言おうとした椎奈が大型のパワードスーツの脚部に吹き飛ばされ、近くのコンビニに突っ込んでいった。
そしてその足を引っ張るか邪魔をすることで有名になったウェステッドことカーネイジが何故か天井を突き破って落ちてきたのを、図らずもアイスボックスに突っ込んだ椎奈が見た。
「藤森、それはもう古いんじゃないか?」
「あなたこそバラエティで見れそうな出方したわね、あなたの素行の悪さのせいでシスターが操るパワードスーツに蹴っ飛ばされたのよ」
「ぼくはこの世界で著名な冒険者に襲われてこのザマだ」
地面が揺れながら椎奈を蹴り飛ばしたアンジェリカが近づいてくる。
「さすがはフレデリカ。この程度では壊れませんね。…失礼、どうやら上手く防いだようですね」
「なんだあいつは、乳のサイズだけで言えばお前よりデカいがお前の知り合いか?」
「知らないけどわたし達を知っているしわたしをさっきから他人と間違えては訂正してる変わったシスターさんよ、罪を懺悔したら死という形で赦しを与えそうな」
「私は罪を赦せる立場におりません。私がかつてやってきた役目は、永遠に果たせなくなりました。おっと、ウェステッド指導者、最初の一人目のカーネイジですね。あなたのことは戦線から入手した情報で知っていますが初対面ですね」
「身につけているものと手にしているものを除けばぼくも挨拶をかわしたいところだが、何者だ」
先程と同じ挨拶をするアンジェリカにカーネイジが問うと、彼女が口を開く前にカーネイジにダイナミックな入店をさせたものが降りてきた。
大きなリボンをつけた少女。冒険者ギルドから現在行方を探されている冒険者レフィーナである。
「あなたを大分ポジティブにしたみたいな子が出てきたわよ、何者?」
「お前よりは位が高い冒険者だ。今は怪死事件の重要参考人としてギルドに追われてるんだが…戦って分かった、奴は人間じゃない」
「わたしたち側?」「いいや、別の生き物だが魔物や魔族じゃない」
それを聞いていたアンジェリカが口を開く。
「レフィーナは私の部下の一人です。そして魔族やウェステッドでもありません」
「イマジナリアンという言葉を知っていますか?フレデリカは知ってて当然…いえ今のあなたは知らない単語でしょう」
それを聞いたカーネイジが椎奈の方を向く。
「フレデリカ、お前アイツ知ってるのか?」「全く身に覚えも聞き覚えもないわよ、今だって言った端から訂正してるし」「ぼくもイマジナリアンって言葉は聞いたことがない。ヤクモなら知ってるか」
「あなた達が活発になる前から私達は活動していたのですが、入れ替わりに近い形で私達は活動を控えるようになっていましたので、知らなくても仕方ありません」
そういうとアンジェリカはレフィーナと、周囲で町の住人に襲い掛かっているアウトキャストを交互に見る。
「この世界で冒険者をやっているこのレフィーナという少女は、あそこで暴れている暴徒と同じ生物、存在と言いましょうか。彼女らをイマジナリアンとある世界で呼ばれるようになり、私達もそう名乗ることにしました」
「まあ見てもらった方が早いでしょう。レフィーナ、私は目的を達成してきます。レイとヨークも見つかりましたので、彼女らと合流するなり、単独で制圧してください」
そう言って、アンジェリカが空を飛ぶ。パワードスーツに搭載されたブースターによって上昇したのだ。それをさっきから同じ表情のまま見上げているレフィーナ。
アンジェリカの姿が見えなくなり、二人の方に顔を向けてもその顔は変わっていない。まるでそういう仮面をかぶっているかのようだ。
「あの子、気づいたんだけど表情変わってない気がする」「ぼくはコンビニに落ちてくる前に気付いたよ。ギルドで見かけた時はコロコロ表情が変わる可愛らしい女の子だったから、戦いになると表情が消えるタイプだと思ったが…」
彼女が両手を広げると、加えてもう1対の腕が肩の辺りから姿を見せた。
そしてやや大きめの剣とマチェーテのような幅の広い剣を構えた。
「どうやら人間じゃないのは本当らしい」
「わたしがもう一本短いの持っただけみたいなものじゃない、腕の本数を触手で補っていいなら数も一緒だし」
そう言いながら椎奈も剣を構え直す。そして次の瞬間には縮地でも使ったかのように一気にレフィーナ目掛けて突撃する。対するレフィーナも身体を低く下げ、獣のように、いやまさしく下半身がまるで人狼のように変化して直進した。
それだけではない。
「あら?」そんな間の抜けた声を椎奈が出したのと、レフィーナのどの腕よりも遠い距離からいきなり大剣もといクレイモアが椎奈の大剣を弾き、続いて巨人の小指ほどの質量の物体に殴られたかのような衝撃が彼女の脳を揺らしたのは同時。
それでも視界が歪まない彼女の眼は、レフィーナが丁度回し蹴りをしたように身体をねじっている姿を捉えていた。
「な?、?なにごと???」「言ったろ人間じゃないって、というかぼくもお前がやられてようやく確信がついた」面食らって後ろに引いた彼女にカーネイジが言った。
時期不明。
髪の毛が出ていることを除けば一般的な修道服に近い服を着ているアンジェリカと、もはや聖職者かどうかの問題ではないような、ボンテージのような服を着た白い髪の女性が等間隔に並んだモニターを眺めている。
彼女の名前はベルクロア。アンジェリカと同じ存在であり、彼女の部下の一人である。
「レフィーナの仕上がり度合いはいかがですか?シスター・アンジェリカ」
「申し分ありません。最終工程の選別も終わりが近いでしょう」
モニターに写っているのはレフィーナ、たち。同じ顔、同じ格好、同じ腕の本数のレフィーナたちが自分同士と殺し合っている。
その何人かのレフィーナの腕や足が、人間のものではないものに変化して同じように手足、時には身体までもが変化したレフィーナに襲い掛かる。
「彼女が会得した能力はなんでしょうか」「見ての通りの制御された突然変異です」
「…もとい、彼女が異世界で遭遇、接触した生物の遺伝子を取り込むことで肉体に反映させる能力と言えるでしょう。見ての通り、瞬時に腕を触手生物に変形させる、体型をゴブリンのような小型亜人種へ変化させるといった変態能力です。それを彼女が接触したことで学習した冒険者の戦い方と組み合わせると」
「俗に言う初見殺しができるようになる。ということですね」
「いうほど初見殺しは出来ていないのですが。ただ、いきなり間合いが伸びたり縮んだりして攻撃の間隔を掴めなくさせる、のはできているようですね。今は互いにネタが分かっているので膠着状態になった所に乱入されていますが」
「もっとも、彼女の能力はそれだけではないようなのですが。それは選別が終わった後にあなたにお見せすることができると思います」
現在。
選別を生き延び、晴れて第一ロットの素体となったレフィーナ101がその変態能力を発揮して椎奈とカーネイジに襲い掛かっていた。
下半身を人狼、あるいは狼型の生物に変化させて体勢を大きく下げてからの突進。
そこでクレイモアを握る腕を触手生物に変化させて振るうことでリーチを伸ばし、最後に何かしらの生物に変化し、その生物が持っていた尻尾で追撃を入れたのだ。
「どういう仕組みかはわからんがあいつ、ぼくみたいに変身する能力を持っているかそういう生き物だ。どっかの世界で一度見た生物に変化するシェイプなんとかっていう魔物に遭遇してミラーマッチをする羽目になったことがある」
「あなたの変身能力って小さい生き物に変化するだけじゃなかったの?」
「あれは潜入するときによく使っているんだ。アレ以外にも変身できるものはある」
「だけどあいつの戦い方は分かってきた。あっちが初見殺しならどっちも殺せてない以上あとはいかに慣れさせないようにズラして戦うくらいしかないだろう」
それで済めばいいのだけどね。と椎奈は言った。
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