51
死屍累々となった港で、戦いに巻き込まれなかった長屋の中に集まる。
中に入ってたら隠れていた妖怪に椎奈が襲われるも「どこ触ってるのよこのスケベ妖怪!」という怒号と共に真っ二つに引き裂かれたことで使えなくなった。
ということで呼び出されたのが一行をここに連れてきたヤクモである。
「正直ヤクモだけでなんとかなると思うんだけどね」とミグラントが溢すが、一行の目の前の空間の裂け目は何も答えない。
本当に生きている存在なのか?と彼女(一応女性扱い)を前にすると誰もが思う。
ただ、裂け目から除く紫色の空間が数回光ったと思ったら軽い頭痛、例えるなら針でつつかれたような痛みと共に彼女の言いたいことがダイレクトに送られるので、意志はあるのだろう、と判断する。
ヤクモの言葉は音ではなく映像で脳裏に浮かび上がる。
もっとも、抽象的なものではなく明確に何を伝えたいのかははっきりしている。
あとは受け取った側がどう解釈、理解するかだ。
映像はどう見ても日本にしか見えない大陸を上空から映したようなところから始まる。北海道と鹿児島あたりから、つまり左右の端から緑から灰色に変わる。
これはどうやらこの日本のような大陸を日本に照らし合わせるとどこまであるのかを示しているようだ。―――映像が一瞬乱れ、日本大陸ではない、違う形の大陸になる。映像を間違えたのだろう。
「江戸相当の都市」という印象が付随した赤い点が表示される。この大陸、あるいは国の首都だ。と誰もが想像する。
赤い点にズームイン。いつ撮られたのか、あるいは今まさに蒼天が撮影しているのか、町の様子が写っている。絵に描いたような江戸時代か戦国時代あたりの城下町が写っている。勿論町全体を見下ろせれるような城も。
次に。ワタシがあなた達に求めているものは。
声が浮かぶ。ヤクモの声だろう。
映像は大陸ではなく三枚の写真になる。
見るからにデカいムカデ、天狗っぽい何か、タヌキ。
「龍百足、と呼ばれる妖怪百足の親玉が、ここから少し行った先の廃城に住み着いて生活している」
「天狗は天狗山と呼ばれている山に潜伏している」
「狸は自分が占拠した城に住み着いている」
「この三体を、ワタシは食べたいと思っている」
「ワタシだけではどうにも手がかかる。何故か奴らはワタシを知っている」
「戦線がいるのかもしれない。ワタシ達ウェステッドを語る上で欠かせなくなった敵勢力だ。世界全体が敵だとはいうが、明確な敵勢力は現状彼らだけだ」
「戦線の姿は見えないから杞憂に過ぎないのかもしれないけど。それでも大妖怪である三体はワタシだけでは倒すのは難しい」
だが、今はチャンスだ。そんな声が浮かんだと同時に再び映像が変わる。
何やら複雑なグラフが増減する様子と、先程交戦した妖怪たちがグラフに合わせて苦しんだりまるで衰弱死したり、正気を失って仲間同士で争い合うような様子が浮かぶ。
「この大陸固有の魔力…霊力なり妖力が、何故か江戸相当の首都に吸い上げられている。このせいで大妖怪たちも力を大幅に失っているようだ。自分の縄張りから先はほぼ切り捨てているといってもいい。完全に巣に籠っている」
「実はこの三体は前菜に過ぎない。本命の鬼の女王なる存在は、別次元の世界に逃げてしまっている。その封印を守っているのがこの三体だ」
「大妖怪を撃破してくれれば、あとはワタシだけでなんとかする。その間支援ができなくなるから、あまり危ないことはしないように。主にカーネイジ。椎奈の耐久テストは今しなくてもいい」
「その後は何故霊力が首都に吸い上げられているのかを調査しよう。世界を壊すのがワタシたちの仕事だと言うが、ワタシはそうは思えない。とはいえやることもない以上、異変が起きてるのなら調べて勝手に解決するのも悪くないと思っている」
脳に刻んだ以上、簡単には忘れることはできない筈だ。よろしく頼む。
女性が頭を下げるようなイメージが浮かんだあと、裂け目ことヤクモが消える。
「あんな饒舌に喋れるなら普通に喋ってもいいと思うんだけどねアキチ」
「シャイなんだろう。あるいはナードみたいに早口なのかも」
「そんな早口で喋ったことないッスけど…」
「そんなことよりも、なんでぼくは名指しなんだよ」
「前科しかないからだろ。それで、どいつからやる」
「龍百足なんて大層な名前つけたムカデの親玉からでいいんじゃない?」
「お前の背中からも出てるんだけどな、いや腰か」
「これ、ムカデのような触手って呼んでるけど何なのかしらね」
「今更感」
ただ素早く動く時とかになんかスタビライザー的な感じで上手く走れたりするのよね。とゆらゆら触手を揺らしながら椎奈が言う。
妖怪百足に比べると大きさは勿論違うが甲殻の色合いが違う気がする。ただのでかいムカデに対してこちらはむしろ人工物のような色合いだ。質感が違うのかもしれない。
ずるずるとあの身体のどこにしまわれていくのか分からない長さの触手が彼女の身体に吸い込まれていくのを見ながら、ひとり、サイバービーストが空に向かってヤクモを呼ぶ。
「害虫退治から始めることになった。そいつの城まで案内してくれ」
ぼくの意見は?とカーネイジが槍の石突でビーストの背中を突くが無視された。
声の直後、全員を一人ずつ空間の裂け目が飲み込んでいき、後に残ったのは妖怪の死体だけとなった。
およそ30分後。”龍百足”潜伏先の城。
半ば廃村のような城下の至る所で火の手が上がる。たまに爆発も起きる。
全長約10メートルほどの金属の巨人が木造の家屋を破壊しながら手にした銃形の火砲を使用する。発射された90mm榴弾はヒュルルと風を切るような音と共に飛翔し、その先にいた妖怪百足の群れを爆炎で吹き飛ばした。
刀や矢は勿論のこと、火縄銃でも弾いてみせた甲殻でも流石に90mm榴弾が発生させる熱と運動エネルギーには敵わなかったらしい。
虫らしからぬ黒い血飛沫を噴き出し、全身を焼かれてムカデが悲鳴を上げる。
生き残ったムカデたちに左手の57mm機関砲を向けて発砲。連続してガンかゴンと表すような轟音とともに砲弾が発射され、妖怪の身体能力でも再生しきれないような大穴を胴体に幾つも空けられてムカデが沈黙する。
爆発と砲撃に巻き込まれるのは妖怪だけではない、人間も混じっている。
この世界の妖怪は余り人間を積極的に食べないようだ。とヤクモは言う。
彼らは霊力の源、霊脈から妖力なり魔力なりを得て生活が出来る。というより
正確には肉体を持ったエネルギー生命体に近いらしく生命維持(存在維持)には霊脈(時には龍脈と呼ばれる)が欠かせない。
霊力を有している人間を捕食する事でも維持は出来るらしいが、得れる量に個体差が大きすぎるらしい。
そしてその霊脈は作物や妖怪以外の生物にも深く関わっているのが、あたりの荒廃した様子でサイクロプスは理解する。
竜退治を終え、どこか自分の巨体が入れるほどの湖か池で海水を洗い流そうと思ったところに、大量の水を被せられてから蒼天に連れてこられたのだ。
大きすぎて人間サイズには手に負えなさそうなものを中心に倒していけ。
それだけ言って蒼天は飛んでいってしまった。
母を守れ、奴らをこれ以上進ませるな。
そんな叫び声がムカデの群れの方から聞こえてくる。何十男か何十女くらいのきょうだいがバラバラに破壊されているというのに怯まないのは妖怪ならではなのか。
しかし、相手が妖怪でも人間でもやることは変わらない。
それでいい。
武器を構え直した瞬間、目的地の城の一部が爆発した。
正しくは何か巨大なものが城を突き破った。今自分が対峙しているムカデよりも一回り程巨大なムカデだ。おそらくヤクモの目的の親玉だろう。
城に突入した人間サイズのウェステッド、自分と同じように王に連れてこられたものたちが城に潜伏している親玉をどうにかして城から追い出す。それが作戦だ。
ここからも聞こえるような怒声のような甲高い音が響く。声の主は親玉。
背中に背負った折り畳まれた機械が背中でガチャガチャと変形し、自分が両手に握っている火砲よりもやや大きめの大砲になる。大砲は右肩に乗るように前方に砲身を向け、グリップの形をしたコネクタを握る。
誰もいないコックピットのモニターに表示されるロックオンサイトの枠が緑から赤になったのと引き金が絞られるように発射命令がコネクタに送信されたのは同時。
轟音。そして衝撃波。それは砲撃を止めようとして鋼鉄の巨人に襲い掛かったムカデたちが吹き飛ばされるほど。そうして誰にも邪魔されることなく発射された砲弾はまるで竜のように身体をくねらせて落下を始める親玉のムカデに命中。
本来なら選ばれた戦士や武器でもなければ傷一つつかないであろう甲殻を容赦なく砕き、その内の肉と臓器を破壊しながら貫通。すぐ先の城壁に激突して炸裂する。
親玉のより重厚な甲殻さえも、電磁加速砲の出力からしたら脆かったのだろう。
十数メートル近い巨体の内、三メートルほどが爆風でちぎれ飛ぶ。ヤクモの要望通り、頭部に当たる箇所から三メートルほどだ。
身体の大部分を失ってもなおもがき、叫ぶムカデを、一際大きく開かれた裂け目が飲み込んでいった。
まるで、一口で食べてしまったかのように。
その後生き残りのムカデを掃討し、続いて次の妖怪退治へ移った。
後にヤクモから親玉ムカデについての報告が頭に直接送られた。
元々は高名な龍だったようだが、信仰を失ったことで妖怪に変貌。
この大陸で起きた「最後の妖怪退治」なる妖怪と人間との大戦争を生き延びた大妖怪の生き残りだったようだ。
しかし、たった今終わりを迎えた。元々霊脈が真下を通っていたことでこの土地に住み着いていたようだが、同時にヤクモがいう「別の世界への封印」を施すための楔としてここを守っていたらしい。それも今彼女によって破壊された。
休憩もほどほどに次に送られたのは天狗山と呼ばれている天狗の根城だった。
百足城を攻めていたメンバーが来た時には、山が燃えていた。
クラスター爆弾の大雨によって山の至る所に建てられていた天狗たちの建物は住人ごと倒壊し、炎に沈んだ。
だが。
「蒼天、お前目標も爆砕しちまったんじゃないのか?どこにもいねえぞ」
≪そんなはずはない。本拠地には手を出していない≫
ほぼ遠足感覚で目標の天狗の居城に辿り着いた一行の前には、どこにも天狗の主と思しき天狗もいなければ、そもそも生きている天狗がいなかった。
既に何者かが侵入して、天狗たちを皆殺しにしていたようで天狗の無惨な、しかしほぼ一撃で倒された死体となっていた。
そしてその天狗の主は影も形もなく、代わりにおびただしい量の血だまりと何かがかきむしったような傷が柱や床に残っているだけだった。
「死体のない殺人事件、なかなかミステリーね」とはいえ道中には状況を知らなかったらしい天狗がいて、それらと対峙して全て叩き斬った椎奈がしたり顔で言う。
封印は確認できている。これより破壊する。
少し呆れたような、ため息の後のような声が聞こえた気がした。
この調子なら、いや急がないと最後の一体も横取りされるかもしれない。
「ちょっと休みたいッスけど?」
キルストリークの声を飲み込むように一行が裂け目の中に消えた。
その数時間前。天狗山、妖怪の城。
城内は血の海になっていた。天狗たちは皆切り捨てられるか、大口径の砲弾で撃ち抜かれ無惨な死体で転がっている。
その天守閣、天狗の親玉である鞍馬が座す間ではひときわ大きく年老いた風貌の天狗が全身を黒いワイヤーのようなものに貫かれ、今まさに外へ引きずり出されようとされていた。
「貴様、何者だ、ただの西洋の尼ではないな…そもそも、人間なのか?」
問われているのはシスターだ。修道服に身を包みながらもその豊満過ぎる胸を隠せていない。その横にいるのは謎の多い金髪の冒険者の少女、レフィーナ。
城を守る兵士たちは全てのこのレフィーナに倒されたのだ。彼女は手を握ったり放したりを繰り返して何かの調子を確認するかのような動きをしている。
シスターは質問に答えず、わざとらしく指を鳴らして何かに合図する。
直後、鞍馬の妖怪の身体能力をまるで無視するかのように彼が引きずられていく。
彼は叫びながら床や柱に爪を立てるが、爪が剥がれるか割れる前に床が裂け柱が削れた。そして外に飛び出した彼は自分を引きずっているものの正体を見た。
それは装飾が施された路面電車(鞍馬には鉄の牛のようにも見えていただろう)のように見える。しかしそれは宙に浮いており、窓や扉に当たる場所から鞍馬を貫いているワイヤーのようなものが伸びていて、それが巻き取られていた。
本来空を飛べるはずの彼は何もできないかのように宙でもがきながら、飛行物体の中に引きずり込まれていった。
それを見届けたシスターはレフィーナと共にその場を後にした。
次に一行が送り込まれた城では、レフィーナたちよりも先に辿り着いていた。
もっとも、シスターは別にヤクモの邪魔をするために来ていたわけではないのだが。
いつもやっていることをやったにすぎない。
そしてここでは狸だけでなく狐とも交戦していた。もっとも、誰も彼もまともに戦えるものはいなかった。霊力、妖力が不足して満足に動けないのだ。
中には人間サイズの狐か狸になっているかのように獣化しているものもいた。
ただ、ウェステッドたちは容赦なくそういったものを蹴散らしていった。
世界を滅ぼす敵だというならその通りに遠慮なく暴れてやろうじゃないか。
そんなやけくそのような勢いが彼ら全てにはある。それしかないのだと刻み込まれたかのように。
そうして辿り着いた狸の親玉は、もはや巨大化しすぎて引きずり出せる気がしなかったが。本人が何かを呟いたり念力か何かで椎奈がしっちゃかめっちゃかにされたことを除けば問題なくヤクモの胃袋に収まった。
そして今。やることがなくなった一行は首都とされる町の中にいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます