12000年前だか13000年前のいくつめかの記憶
わたしは今どうなってるかというと。
カーネイジに「海を宥めさせるためにお前とブリキ共を生贄に捧げる」とか言われてそのブリキ3人組と簀巻きにされて海に沈められたところかしら。
3人は早々に抜け出して浮上していったんだけど、わたしは別に苦しくなかったので海を荒らしてる魔物が生贄として沈められたわたしを狙ってきたらタタキにしてから帰ろうと思っていた。
というか、表面はありえないくらい荒れてるのに水中は水流の流れを全く感じないんだけど。
もう少しこう、上下左右にかき混ぜられるようなものじゃないかなって思ってたんだけど。
その辺は多分上がった3人がカーネイジに話してるでしょう。
魔法とか魔術とかに疎いわたしでも、水面のあれは人為的もしくは魔為的なものだと分かる。
生贄を捧げれば解除される仕組みか、この嵐を作っている術者を殺せば解除されるでしょう。
そんなこんなで30分ほど経過。気づいたらわたしは海の底でガラス越しじゃない水族館を楽しんでいる。
自分でも不思議なくらい息が続いているんだけど、どうやらわたしは水中で呼吸ができるらしい。
こんなこと多分上のカーネイジはもう気づいてるだろうし、次は寝てる間にでも底なし沼にでも放り込まれるんじゃないかしら。
まあ、そうされても多分わたし生きてるんじゃないかしら。沼と海は違うだろうけど。
そうしたら次は酸の沼とかマグマとかに沈められてそうね。そこまでやれば流石に死ぬでしょ、わたし。
それでも死ななかったら?宇宙空間にでも放り出されそうね…。
もしくはコンクリに漬けられるか。それぐらいされれば流石に死ぬと思うけども…
ぶくぶく。ごぽごぽ。水と泡の音は、いつしかわたしを眠りに誘う。死ではなく、当たり前の眠りを。
わたしは夢を見ている。顔が分からない家族との団欒でも、やはり顔が分からない同級生との色のない青春の夢ではない。これは夢じゃない。わたしの記憶だ。
はじめに光があった。同時に爆音と全身がバラバラになるような衝撃もあった。
わたしはこの時を12000年、もしくは13000年前のことだと思った。何故かは分からない。
とにかくわたしは光、そして爆発と衝撃を伴ってやってきた。
何かあった気がするけど全然覚えてない。そういえば12000年前ってアトランティス文明が跡形もなく消え去った頃だったっけ。じゃあその原因わたしだわ。わたしなのか隕石なのか知らないけど、わたしが落ちた衝撃で大陸ごと吹き飛んだんでしょう。
そしてわたしは深い海の底に沈んでいった。それから12000年の間ずっとわたしは深海にいた。
何もしなくてもお腹も空かないし、たまにつまみ感覚で深海魚や異様にでかいサメをかじるだけで過ごせた。
ある日わたしがいつものように深海を這い回っていたとき、その頃のわたしには分からなかった見慣れないもの。今のわたしにはそれがドラム缶の集まりだってのがわかっている。を見つけた。
見たことないものを見つけたわたしはバカ正直に新しい餌かと思って齧り付いた。
今ならバイオハザードマークとか核のマークとか言われてるそれがデカデカとある黄色いドラム缶の大群を、わたしはあっけなく噛み砕いてあっさりと飲み込んでしまった。
これで死ねればよかったんだけど、わたしはこれを食べるとパワーアップする生き物だった。
いや、今までが本調子じゃなかったんだろうな。いわゆる省電力モードでずっと動いていたみたい。
一気に残り5%くらいだったバッテリー残量が一瞬で200%くらいまで急速充電されたわたしは全身が思いっきり軋むような感覚と共に長い間棲みついてた深海を後にした。
音が聞こえたの。光を感じたのよ。一瞬とかじゃなくて、それを飲み込んで力がみなぎった瞬間に。
今まで聞いたことがないくらいの騒音がわたしの聴覚をつんざいて、今まで感じたことがないくらい眩しい光がわたしの視覚に殺到した。
突然夜中のロックフェスかクラブハウスに転送されたようなものよ?超うるさいし超眩しいったらありゃしない。
ねえ、あなた。もし自分の住処の周りで突然超がつくほど喧しくて眩しくなったらどうする?
それが近所の隣人のものだったら、とりあえず行くか行かないかは別にして注意したくなるものでしょう?
そう、わたしは近所に苦情を言いに行っただけよ。
まあ、それがーーー
わたしがいた世界に怪獣が存在するって分かった日で、日本が最初にその餌食になった時だった。
目の前に広がる光と音の塊に向けて、わたしは思いっきり怒鳴った。
煩えぞ、静かにしろって。その叫び声はわたしを見ていた人間たちや車をまるで突風に吹かれた葉っぱのように吹き飛ばした。
カクカクした岩よりもう少し硬い何か、いやビルを尻尾でなぎ倒したり、蹴飛ばしたり、なんか小さいものを、ぶっちゃけ人間を踏んづけて回ったり、クソでかいゴカイみたいな…電車を踏んづけたり先頭車両を噛み砕いたり。
怪獣映画で怪獣がやったことは大抵やったんじゃないかな…。だってそうすれば光が消えていくのを感じて、音も小さくなったり聞こえなくなったから。特にスカイツリーにしか見えない塔を根本からへし折ったときはだいぶ音と光が失われた気がするわね。
そしたらまあ、一際強い光が点滅して、ノイズが聞こえたと思ったら熱いか痛いか痛くて熱いのどれかがわたしの全身を襲ったの。怪獣は通常兵器派効かないとか聞くけど普通に痛かったんだけど。
眩しいし煩えのにその上痛いとかふざけんじゃねえ、ブッ殺す。わたしは間違いなくそう思った。
…自衛隊は最初に怪獣と戦い、そして最初にズタボロにされた軍隊となった。
全長200メートルくらいの巨大生物が熊か何かみたいなノリで猛スピードで突進してきたのを見た時、戦車兵とヘリパイロットは死んだと思ったでしょうね。まあその通りに死んだんだけど。
わたし?それまでその半分以下のサイズだと思ってたんだけどなんか200メートル近くまで巨大化してたのよ。核エネルギーってすごいわね。
鉄筋コンクリート製のビルをへし折った尻尾の一撃が戦闘ヘリを叩き落として、振り下ろしたわたしの手は戦車を一撃でペシャンコにした。というか戦車や装甲車はわたしが走っただけで蹴散らされていた。
そしたらはるか後方、わたしには遠くの方で光と音として見えていたし聞こえていたんだけど。榴弾砲とかロケット車両とかがわたし目掛けてでかいロケット弾だの砲弾をぶっ放したのを感じていた。
無論避けようとしたんだけど感じた2秒後くらいに全部わたしに直撃するし。クソ痛かった。
続いて戦闘機がクソ喧しい音と共に飛来してきたと思ったらミサイルを撃って、続いて爆弾を投下してくる。あれ避けれる怪獣って空飛べる奴くらいじゃない?全部当たるし全部痛いんだけど。
なんなら30ミリ機関砲でもうチクチク越えて痛い。
まあ、食らってもちょっと血や肉片が飛び散ったくらいですぐ傷は治ったんだけど。
超再生能力と言うべきかしら。まずわたしにはこの能力があった。痛いものは痛いけど死ぬものようなものじゃなかった。APFSDS弾とかHEAT弾とかいうなんか特殊な弾食らってもクソ痛え、でも治るわねで済んでた。
まあ航空機が落としたトーチカとかを木っ端微塵にできそうな爆弾とかも何!?超痛え!で済んだんだけど。
そもそもわたし、乾燥しないためなのかいつの間にか外殻を纏ってたから血が出るレベルのダメージってなかなか負わなかったのよね。この外殻、後にこの世界の人間が解き明かしたんでしょうけど劣化ウランと各種金属の自然製複合装甲みたいな性能だったみたい。劣化ウランと金属って複合装甲になれるの?ってのは置いておいて、これのおかげでわたしどんだけ撃たれても大抵はビクともしてなかったんでしょうね。
そのせいで段々と人間にぶち込まれるものの規模が大きくなったんだけども。
とはいえ痛いものは痛いので、やがてめんどくさくなったわたしは海に飛び込んで道を塞ごうとしたイージス艦二隻くらいを押し除けて日本を後にした。
その頃にはイライラが頂点に達するくらいの眩しさと音も聞こえなくなってたし。半分くらいは満足してたわ。
その翌日あたりに東京の次に大阪あたりで暴れたんだけどね。最後に北海道あたりで暴れ回ったんだったかしら。あっちはそんなにうるさくなかったんだけど、遠くの方から音と光が延々聞こえるのは癪だったから静かにさせに行ったわ。
やっと許容できるくらいの光と音にできたから新しい寝床としてここで寝るかーって思ったら。
あの時感じた喧しい光と音が、ずっと遠くの方から見えて聞こえてきた。
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