12000年前だか13000年前のいくつめかの記憶-2
あなたが思った通りよ。わたしの次の標的がそこになった。
終わりになる訳がないのよ。わたしが眩しがって、耳を塞ぎたくなるような騒音の元なんて今の時代いくらでも、どこにでもあるんだから。
多分中国だったんじゃないかしら、煌びやか度合いは日本もどこも変わらなかったし、わたしにとっては目が痛くなるくらいに眩しくて耳から血が噴き出すくらい煩いのは変わらなかったわ。
やっと静かになったと思ったら全然変わってねえ、ぶっ壊してやる。そんなことを思いながらわたしは上陸して、カメラを向ける人、逃げる人を問わず踏み潰したりビルをドミノ倒ししたり、でかい塔をへし折って倒してたりしてて地面に潜って下からビルを崩した方が早いことに気づいてからは街ひと区画くらいは余裕で陥没させたところで当然の如く軍隊の攻撃を受けたけどまあ意味はなかったわね。
何せわたしその時には地下潜っては戦車隊の真下から飛び出したりしてたし。今時の戦闘兵器ってみんな喧しくて眩しいのよね。
地下10数メートル程度潜ってても余裕でどこにいるのか把握できたわね。あっちもわたしがどこから飛び出してくるかは分かってはいたでしょうけど。
三日目あたりからはもう飛行機が当たり前のように戦車隊ごとわたしめがけて爆弾落とすようになったわね。まあ結局意味はなかったけど。あらかた壊して回って、別の場所に向かったわ。
次はなんか北海道の比じゃないくらいクソ寒い場所だったから…ロシアだったかしら。
それからはもう片端からうるさい場所を目標に地面を潜って移動しては飛び出して黙らせていたわね。まだこの時は戦闘機に対抗する術もなかったから、30mmバルカン砲とか爆弾がそのままわたしに直撃してたから、潜ったり全力で走ったりして振り切ろうとしたけどわたしデカすぎて振り切りたくても出来なかったわ…。
そうして国ごとに違う戦闘機に撃たれながら東欧から欧州まで移動しては壊してを繰り返して、ドイツやフランスを壊したついでにイタリアに下りてヴェネツィアを本当に水の都に変えたりして、イギリスに上陸したこともあるわよ。エクスカリバーがあるとか聞いたけど、エクスカリバーで切られた覚えはなかったから剣は抜けなかったか持ち主ごとわたしが知らない間に踏み潰したのかしら。
え?物語だと返されてる?わたし前何かでイギリスの何処かに刺さってるとか聞いたんだけど…
その頃人間たちはなんか喧嘩してたみたいね。なんでか知らないけどわたし覚えてるもの。
あまりにもピンポイントで国を狙って襲来してくるから誰かが操ってるんだとか被害者の1カ国が言い出したみたいでね、それからはもう誰の仕業なんだって言い争いの毎日。
アメリカの新兵器って言い出してれば、どこかの原子力発電所の事故がきっかけで生まれた怪物だからそこが責任を取れって言い出したり。
まあ1番有力だったアメリカの新兵器説は、わたしがワシントンのど真ん中に現れたことで一瞬で否定されたわ。いやあ1番激痛の連続だったんじゃないかしら。言い争ってはいたけど地震とわたしが近づいてるかの違いも分かるようになってたから万全の体制を整えてたみたい。流石にワシントンのど真ん中から地面突き破って飛び出してくるとは思ってなかったみたいだけど。
テキサスだかどこか辺境に誘導するためにガスタンクに核物質満載した罠を用意してたみたいなんだけど、わたしがそれに手を出したのはワシントンが半永久的に静かになってからだったわね。
蒼天から聞いたんだけど、地中貫通爆弾って地面を文字通り貫通しながら地下施設を吹っ飛ばすためにあるらしいわね。
当時1番痛いって思ったの、それが10数発わたしの背中に突き刺さって爆発した時だったわ。
外殻は吹き飛ぶわ今までで1番血は吹き出すし肉は千切れ飛ぶわで、クソ痛えふざけやがってって思いながらね。
わたしの口からなんか出た。火炎放射のレベル50くらいのやつが人間どころか戦車もひっくり返るくらいの衝撃波を伴って吐き出されたエネルギーの奔流を吐きながら頭を持ち上げたわたしは、その攻撃ではるか上空を飛んでいたB-2爆撃機を真っ二つに溶断して爆散させた。
そのまま地面を薙ぎ払うようにエネルギー火焔を吐き散らしていくと、燃えるか大爆発するかのどちらかが起きて面白かったわ。飴細工みたいに戦車が溶けたと思ったら特撮ものみたいに大爆発するの、怪獣になったら一回くらい試してみるといいわよ。
多分おもしろいから。
続いて吹き飛ばされた背中が一瞬で傷が癒えてそこから無数の光線が放たれて、敵討ちに来た残り二機もバラバラにされて爆発したわね。まあその間ずっと口から火吹いて街を焼いて回ってたんだけども。
話は変わるけど、わたしって核物質で超エネルギーを得た怪獣なわけなんだけど。
どうも永久機関ならぬ半永久機関に近いものみたいで、一応老廃物のようなもの、まあ核廃棄物みたいのができちゃうようだったの。で、それって象の足が可愛く見えるくらいにはどえらい汚染源みたいで、ていうかわたしの血が、肉が、ぶちまけた炎が、ぶっ放した破壊光線の悉く、わたしの一挙一足ごとにアホみたいな放射線汚染が広がるおまけ付きだったのよね。そりゃ通りでわたしが通った後の国々が静かになるわけだなって思ったわね。人間どころか生き物も生きていられないような状態にされたんだもの。
なんで半永久機関だと老廃物が出るか?知らないわよ、多分怪獣ってそういうのでないようになってるんじゃないの?わたしは出たから不完全かなと思ってるわ。
トドメに、わたしの中で無限のエネルギーを作っている生体原子炉。
もしわたしが死んだ場合、生体原子炉は制御不能になり、まるで人間に渡さないかのようにメルトダウンを引き起こす。そして核戦争をしでかしたかのような深刻な高濃度の放射能汚染を引き起こすだろう、と人間は気づいてしまったみたい。
つまり、わたしを迂闊に殺せなくなった。無闇に殺せば、わたしから汚染が撒き散らされて世界中が核戦争をしていないのに昔の終末論のような核の汚染に苦しめられることになるのだから。
人間がなんでかわたしが来た場所に戻らなかった理由は汚染なんだけど、当時のわたしは分からなかったけどせいせいしていた。
世界中がやかましくて眩しかったのよ。ウンザリするくらい。
だからわたしのせいで静かになるのは万々歳って感じ。まあ、アメリカで終わりなわけがないわよね。
ドバイのでっかいビルひっくり返したり、エジプトのピラミッドぶっ壊しながら街も壊したり、インドのガンジス川遡って宮殿とか瓦礫に変えたり、ゲーミングカラーに輝く仏像に体当たりしながらタイで暴れたり…イスラエルとかイランあたりにも行ったわね、砂漠とか大丈夫だったのかって思うかもしれないけど意外といけたわ。それに行けなくても海とか川から行くだけだし。
しまいにはネパールとかブータンあたりも潰しに行ったわ。理由?急に喧しくなったからかしら。
多分難民とかが山岳あたりならわたしが来ないと思ったんでしょうね。で、その辺の国もああだこうだと難民受け入れるでしょ?そしたら人が集まって、騒がしくなって、わたしの耳に聞こえるくらい喧しくなる。
そしてわたしが来る。山突き破ってわたしが降ってきたの、超驚いたでしょうね。なんか変なところ出ちゃったくらいの気持ちだったんだけども。
こうしてわたしは人間が騒がしくする場所はあらかた静かにさせたあたりで、ようやく人間も一塊になったのと、自分の主義主張を通そうとするにはわたしを何とかしないといけないことに気づいたみたいね。
とはいえ、わたしが暴れたことで無法地帯になったり弱肉強食と書いて自分が食べるだけの社会が生まれたりしてたんだけども。先に言うと、わたしが死んだ後、それらはどうなったのかしらね。
わたしが足を踏み入れていない場所とはいえ、風なり雨に乗ってわたしが撒き散らした汚染はいくらでも飛び回るから安全じゃなくなってるはずなんだけど。
その頃、人間もようやくわたしがどうやって自分たちを見つけてくるのか、わたしが耳障りに思う音、眩しくて苛立つ光がなんなのか分かったみたいなの。まあそんなの使い道なんて一つしかないと思うんだけど。
人間はわたしを殺す計画を完成させた。わたしが深海から来たから「オペレーション・ディープワン」なんて名前が付いたその作戦は、どっかの島か国のど真ん中で超巨大な猫みたいにゴロゴロしたりちょっかいかけれくる人間を蹴散らすなりしてたわたしに動かせれる全戦力を投入して可能な限り弱らせて、船に乗せたわたしをおびき寄せる機械を動かしてわたしを海に誘導。
そしてとある海域までお引き寄せたら最後の決死隊ならぬ決死艦隊使ってわたしを押さえつけたら、撃てる核兵器全部わたしに叩き込んで殺す。と単純明快な手順だった。
山崩してわたしを生き埋めにしたり(効果なし)、わたし用に作られた対怪獣地雷数百個を踏ませて木っ端微塵にしたり(片足が千切れたけどこれも効果なし)と規模のでかい作戦が立案されてきた中で最後らしい規模の作戦だった。
経済も軍事力も壊滅状態、世界中に難民が溢れてて、政府の知らないところで生存圏のために争いが続いていた。もう限界だったんでしょうね。これで勝てなければわたしに負けを認めることになる。
わたしが何を眩しがって、何にうるさいと叫んでいたって?
そうね…例えば電波。電磁波とか。人間が培った文明社会の中でもコンピュータとか電波関連全般かしらね。わたし、それが目で見えるし音で聞こえてたのよ。
だから戦闘機がどこからきてどこから来るのかも分かったし。
生き物が発する電流にも反応してたんじゃないかしら…?
とにかく、人間社会そのものに反応していた。なんでかしら…。
まあそんな感じだから先進国から途上国まで、文明社会が大体ありそうな国には飛び込んでは吹っ飛ばしてたわね。申し訳ないことをしたとは、今は思うのだけどね。
でもあの頃のわたしは、気が狂いそうになってたし先に言っちゃうとわたしこの後死ぬから、おあいこということにはできないかしら。
毒ガスは使われなかったのかって?そういえばそんなものはなかった気がするわ。
多分わたしを殺せる量の毒ガスを用意するとなると、自分たちもタダではすまないと思ったんじゃないかしら…。
結論から言うと、わたしはそれで死んだ(負けた)。
どこなのか知らない大地で寝っ転がってたわたしめがけていろんな国のいろんな爆弾が降り注いでわたしが飛び起きたところから作戦は始まった。
この頃になるとわたしも自分の視界を調整できるようになったから自分に降り注いでくる光がはっきり見えていたわ。今思うと、きれいだなって思った。その後痛えって叫んだんだけども。
わたしが吐いた火焔が舐めるように戦車の戦列を焼いて、背中から放射された光線が戦闘機を次々と八つ裂きにしていっても、人間は戦い続けた。突貫工事としか思えない、いえ生存をかけたど根性で作り上げた陽電子砲だのレールガンまで持ち出して、全部わたしに向けて撃ちまくってきた。
わたしの怒声が人や装甲車をひっくり返して数キロくらいまで吹き飛ばしていく横を戦車が走る。
バラバラに溶断された爆撃機が火の玉になって落ちてくる下を無人機と共に戦闘機が飛ぶ。
ごちゃごちゃ着込んだ人間がボロ雑巾みたいになってる人間を跨いで駆けてくる。
次第に苛立ちよりもめんどくささが勝り出してきたわたしの背後に対艦ミサイルだと思う、特段速いミサイルが突き刺さる。振り向けばそこには軍艦。中には骨董品みたいな船もあったと思う。
それらが砲弾やミサイルを撒き散らしながら離れていく。わたしがどうしても反応する音を鳴らしながら。そんな目に見えた罠にあっさり引っかかってわたしは後を追った。
どこまで泳いだのか、船が停まったので真下から体当たりして浮上したわたしの前にいたのは、最後の艦隊。艦砲射撃、無理くりくっつけたロケット砲台からありったけのロケット弾が発射され、ミサイルが飛んできて、全てを叩き込むという意思があった。
とはいえ海が本場のわたしを止めるために、結局は空母が沈み、戦艦や重巡洋艦が沈み、イージス艦が真っ二つにへし折られ、最後に残った艦がわたしに体当たりをかまして船体で押さえつけてきた時、わたしは見た。
抑止力として残していたであろう無数の弾道ミサイルの描く軌跡。その先端の光。
次の瞬間、わたしの1番最初の記憶に匹敵する閃光と衝撃と熱がわたしを包み込んだ。
核エネルギーで活動していたわたしだけど、流石に核兵器には勝てなかったのか、それとも、過剰なエネルギーを浴びすぎて身体が持たなかったのか。今でも分からない。
役目を終えて共に沈む船、先に沈んだ船が見える中、わたしも深海に落ちていく。
あれだけ鮮明だった、地中貫通爆弾が10数発背中で炸裂してもなお明確に見えた視界が暗闇に消えていく。頭部でこれでもかと榴弾が炸裂しても聴覚が失われないのが不思議だったけど、それも徐々に薄れていく。
わたしは死ぬ。だけど、不思議とわたしはそれを受け入れていた。
だって、あれだけ煩くて眩しかった全てが遠ざかっていったからだ。
ああ、やっとわたしは再び安らかに眠れる。そう思ったのを最後に、わたしの意識は途絶えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます