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ウェステッド。


世界を滅ぼす怪物とも呼ばれているそれがそう呼ばれるようになった理由もまた定かではない。

誰が言い出したのか、どっちが名乗ったのか、ウェステッドにも対峙するものにも分からないのだ。

そもそも、ウェステッド自身が自分が何者で、何のために生まれたのか、あるいは現れたのか分からない。

ただ彼らがどうにか集まり、互いに情報を交換したことで共通点から分かることもあった。


まず、ウェステッドの多くが前世の記憶を持つこと。もとい生前の記憶を持っていることがわかった。

基本的に自分の前世がどんなものだったのか、どのような最期を遂げたのかまでは覚えていた。この時に、あるウェステッドが転生した結果ではないかと言い出したことでウェステッドは転生者の一つだと広まるようになった。

次に、生前の姿が人間でないものが多いことが上がった。

前世の記憶を思い返していくと、中には人間でないものが現れるようになった。

動物、魔物と呼ばれる架空の生物、宇宙人、自我を持ったロボットなどその種類は多彩だった。

そして何よりも、ウェステッドには二つの大きなものがあった。


一つ。ウェステッドたちが独自に定めた種類に応じた、本来持っていない、似たようなものを持っていたとしても自前のものよりも強靭な器官と呼ばれる部位。

もう一つは個体差が激しいものの、何かしらの超常現象と呼べるような特殊能力を有していることだった。

この二つがウェステッドをウェステッドたらしめるものであった。

しかし、それがなんだというのか。諦観にも似た感想が当時も今もウェステッドにある感覚であった。

結局のところ、何のために自分たちは一度死に、奇怪な存在に生まれ変わったのか分からないのだから。

存在する理由、言わば使命と呼ぶ目的がなかったのだ。

だが、その答えとされるものが一つあった。それを扇動する、先導者がいたからだ。


それこそが、世界を破壊するという使命。それをやってのけたと宣言したのが先駆者と名乗るウェステッドの集団だった。

「世界を滅ぼすことこそ我々棄てられの獣たちの使命。一度死に、世界に捨てられた我々こそが世界を捨てる権利と義務を持つのだ。そしてそれこそが、真なる創世主が我々に課した天命なのだ」

先駆者のリーダー、自身を第七の先駆者“アトラク=ナクア”と名乗る巨大なクモ型ロボットのウェステッドが、ある日ウェステッドが辛うじて集まれる場所で、そう高らかに叫んでいた。腕を掲げるように前脚に該当する脚を伸ばして、音割れするような音量で叫んでいる姿は、気が触れた蜘蛛が何かに威嚇するか、やはり気が触れたオスの蜘蛛が鳴き声で求愛行動をしているようにしか見えなかったという。


先駆者の宣言が理由かは置いておいて、彼の言う通り世界に対して攻撃を行うウェステッドは次々と姿を見せ始めていた。とはいえ何かの使命感に駆られていたり、崇高な目的があるというよりは、ナクアの第一印象のように完全に正気を失っているか、破壊衝動に支配されているかのようであったが。

そもそもどうすれば世界を破壊できるかなど、誰も分からなかったのだから。

だが暴れることで、その虚無感を忘れることができるのなら、と多くのウェステッドが自我を失ったかのように、世界へ襲いかかっていき、そしてその世界の住人の反撃を受け、死んでいった。

何らかの使命を受け取っていたと思われる先駆者たちも例に漏れず、第一の先駆者とされるフェンリルと名乗っていた狼人間のウェステッドが、狩人に惨殺されたのを機に、一人、また一人と先駆者とされるウェステッドが死んでいき、リーダーとして振る舞っていたナクアも行方知れずとなり、死んだと言われていない先駆者メンバーが生死不明となったことと、先駆者の名を知るウェステッドが死ぬか消息を絶ったことで、その名は忘れられ、彼らが受けていたという天命の詳細は結局分からないままとなった。


その一方で、また新たにウェステッドたちの関心を引いたものたちが姿を見せた。

彼らはかつて先駆者が自身の後に続くもの、創世主の寵愛を一身に受けたウェステッドの道標、棄てられの獣を従えるものと呼んでいた。


先駆者は、彼らを「王」と呼んだ。


呼ばれたものたちを困惑させ、時に悩ませたウェステッドたちの上位種とされるもの。

真に世界を滅ぼす権利と義務を与えられたと讃えられるもの。

神の寵愛を受けた、獣たち。


それこそ、ウェステッドの王と呼ばれる12体のウェステッドたちであった。


その彼らもまた、天命を受けていなければ生まれ変わった理由も知らなかったのだが。

だが代わりとばかりに彼らは戦っていた。足掻くように、生きた証を刻みつけるように、死してなお己が自身に刻んだ使命を果たすように。

世界に消えずらい爪痕を残していきながら、彼らは彷徨い、戦い、生き延びていた。

その姿を、他のウェステッドは見ていた。暴れて死ぬ勇気がなければ、自身で自身をもう一度終わらせる度胸もなく、ただ揺蕩うクラゲのように彷徨うことを選んだものたちが。


一人の王は、その生前から王となる覇道を進んでいたと言われている。彼にとって王を名乗るものは僭称者であり、神とは討伐するべき障害に過ぎないのだという。

ある王は、救いようのない世界から無垢な魂を救済すると宣い、大勢の子供の命を奪ったと言われている。

王の一人は、死んだ自身すら従えることで不死ならぬ不滅を実現したと伝わっている。

ある一人の王は、類稀な操縦技術を持った人型兵器のパイロットであり、戦い続けるために生み出された故に、大多数の人命を奪った怪物だったと伝わっている。

こんな感じで、王たちには壮絶な噂が囁かれるようになり、最後の王に至っては

、天体喰らいの機械仕掛けの姫と言われるようになった。


そして、一つの噂も生まれた。

王は、本来13体存在するはずだったが、最後の一体がまだ現れていない。

13番目の王が、真に世界を滅ぼす権限を持つ。

13番目の王が、我々を導いてくれる。

最後の一体が現れたとき、全てのウェステッドは解き放たれる。


根も歯もない噂にすぎない。そう、王の一体に数えられているウェステッドは言い捨てた。


そして現在も、13番目の王と呼ばれるウェステッドは現れていない。

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