第39話 僕は婚約者を取り返せるのか?
もしかしたら、立花さんとはぎこちない関係になるのかもしれない。でも、これは僕の撒いた種だ。
だけど、これで終わりじゃない。
まだやるべきことが残っている。
藤崎さん。
どうやって藤咲さんを取り返すか……いや、そもそも、取り返す事は可能なのか?
たぶん、取り戻せる確率は極めて低いのだろう。
それにあの男の人から渡されたパーティーチケット。
その内容を少しでも知りたい。情報が欲しい。
僕は、昼休みに健の誘いを断って一人になり、ある人に電話をする事にした。
かかってくる事はあってもかけた事がない電話番号。香川さんに電話をする事にした。
正直あれ以来音沙汰がないし、もしかしたら電話に出ないかもしれない……そう思っていたのだが。
「…………」
「時任です!」
少し間をおいて。
「誰だか分からなかったので、思い出すのに時間がかかりました。最低の時任様ですね」
相変わらずだ。
「僕は香川さんの毒舌は、忘れないと思いますがね」
「ふふふっ、言ってくれますね。で、貴方の方から電話をしてきたのですから、余程の理由があるんでしょうね」
「はい、藤咲さんの事なんですけど……」
「ほっほ〜……今更お嬢様の事で電話なんて……貴方のせいで学校にも通わなくなったお嬢様の事でどうしましたか?」
怖いくらいに低い声でそう言ってくる。当たり前だが相当怒っているようだ。
「その事は…………すみません。謝る事しかありません」
「ふんっ! まあ、貴方にはそれぐらいしかできないでしょうが……で、何ですか?」
「実は、ある人物から12月24日のクリスマスの日にパーティーがあると聞いたのですが………」
香川さんの息を呑む音が聞こえる。
「あ、貴方がどうしてその事を……?」
酷く驚いているようだった。
「それって、どんなパーティーなんですか?」
「貴方が知る必要はありません! いえ、知ったら…………とにかく誰からもらったチケットかは知りませんが、絶対に来ない方がいい! 来たら貴方は後悔します! 分かりましたね? それでは!」
「あっ、ちょっ…………」
僕の声もむなしく、電話は一方的に切られてしまった。
でも、あの香川さんの話しぶりからして、たぶん、藤崎さんとあの男に関する何らかの発表があるのだろう。でも、今の僕に怖れるものは何もない!
12月24日クリスマスイブ
ついにこの日がやってきた。
僕はパーティーに合わせるように、着たこともないスーツを着て行く事にする。
母と妹は僕の格好を見て、今夜決めてこい! と親指を立ててくる。うちの家族は完全に何か勘違いしているんだろうなあと思う。
まあ、もちろん頑張るけど。
僕には似つかわしく無い服装のせいで、電車の中でも、やけに人の目が気になったのだけれど。
なんとか、チケットに書かれている場所ブリジットホテルに到着する。
周りにはいかにも上等な服を着てる男性や、コートに身を包んでいる女性がいて気後れしてしまう。でも、今日は絶対に逃げるわけにはいかない。
僕は入り口に立っている受け付けの人にチケットを見せる。
チケットを確認しながら、受付けの人はこちらを値踏みするように見てくる。
もし、あの男が渡してきたチケットが偽物だったらどうしようかと、嫌な汗が流れてくるが……どうやらそんな心配は杞憂だったようで、すんなりと通る事ができた。
ホテルの外観にも驚いたが、ホールに入ってからの内装の華やかさにも驚いてしまう。
正直、あまりにも場違いな所に一人で来た事に、心細くなり萎縮しそうになるが、自分に喝を入れパーティー会場に入ることにした。
パッと見た感じでも500人以上の人達が、この会場にいるのではないかと思われる。
会場に来ている人達はいずれも、タキシードやドレスを着た気品のある男女で、まるで映画のパーティーのワンシーンのようだ。
あまりにも場違いすぎる。
それらの人々は先程からすれ違うたびに、僕を怪しい目で見ながら通りすぎていく。
テーブルの方に目をやると、そこにはずらっと色々な食べ物が並んでいる。テレビでしか見たことのないような高級な食べ物なのだけど、全く食欲がそそらない……。
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