第37話 僕は自分の気持ちに気付いてしまった

 僕は家に帰るなりすぐに自室に籠もった。


 自分の事が分からない。


 この前もそうだ。屋上から無我夢中で追いかけてしまった。


 あの二人の一緒にいる所を見ているだけで、心がざわついてイライラしてくる。


 僕は一体何を考えているんだ?


 ずっと頭の中で自問自答を繰り返し、気がつくと窓から朝の光が差し込んでいた。

 ぼーっとしたまま、朝食を取り、身支度をして学校へと向かう。


「よお、俊一! 昨日の……うわっ、お、おまッ!」

「やあ、おはよう健。相変わらず元気だね」


 途中で健に会う。開口一番、そこまで驚かれるとは、相当ひどい顔をしてるのか。


「…………デート失敗だったのか?」


 健は気付かっているのか、遠慮気味に聞いてくる。


「大失敗だったよ。ものの見事にね。逆に気持ちいいくらいだよ。はっはっはっ」

「そうか……」


 健は苦笑いを浮かべ、それ以上突っ込んで聞いてくる事はなかった。


「藤咲さんに会ったよ」

「ふ〜ん、元気そうだったか?」


 あまり興味なさそうに聞いてくる。


「うん、男の人と一緒で幸せそうだったよ」

「ふ〜ん、男とね〜。そりゃまた嫌なタイミングで会ったな」


 何かを考えているようなしぐさをする。


「まあね……確かに嫌なタイミングで会ったよ。しかも、一緒にご飯まで食べる事になったしね」

「ご飯? 一緒にご飯を食べたのか? 男と一緒にいる藤咲とか?」


「そりゃそうだよ。藤咲さんだけ誘って、来る訳ないじゃん! それに誘ったのも立花さんだしね」

「ま、マジか、そこまでするか〜あいつ」


 驚いた表情を見せ、何かに感心しているようだった。


 あいつ?


「とにかくそんな事もあって最悪なデートだったってわけ!」


 こちらをじっと見てくる健。


「何?」

「それでお前はどんな気分だったよ?」

「どんな気分て……いや、だから最悪だった……」


 そう答えても、僕をじっと見てくる健を見ていると、自分の心の中を見透かされているような気分になる。


「どうして最悪な気分になったんだろうな? 俊一」

「どういう意味だ? 健」


「だってそうだろう? お前は立花と既に付き合ってるから、今更あの女が誰と付き合おうが目の前でイチャつこうが、イラつく事はないと思うぜ」

「……………………」


 学校に向けて歩いている足を止める。健の方に向き直る。


「健はさ……もしかしたら分かってたりしたの?」


 はっきりと言わないけど、健は僕が何を言おうとしているか分かったみたいだった。


「まあな……というかお前と近くにいるやつなら誰でも分かると思うよ」


「そ、そう……僕は寝ないで一晩中今までの自分の行動を振り返って考えてみて、ようやく朝方……この結論に達したよ。もう、嫌になるくらい肯定と否定の繰り返しだったけどね……ははは」


 疲れた笑いを健に見せてしまう。


「ったく、面倒くせえ奴だなお前は。でも、まあガキん時の嫌な思い出があるし、しゃあねえのかもな」


 僕はようやく答えを出した。




 藤咲さんの事が好きなんだと……。

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