第35話 僕は何故かイライラしてしまう

「ど、どうしてここに?」


 藤咲さんが僕の言葉に返してくる。


「どうしてって……ねえ?」


 藤咲さんは媚びるように男に寄り添う。それを見ているだけで何故かイラっとする。


「はははっ……君は面白い事を言うな〜。映画を見に来たに決まってるだろう? それとも僕達は映画を見に来たら駄目なのかい? はははっ」


 男の人の小馬鹿にするような視線と声が僕に向けられる。


 くっ、何なんだよ! この男は!


「それよりも……いいのかい? 君の連れの子が心配しているよ?」


 立花さんは僕達を見てオロオロしていた。


「ご、ごめん、立花さん!」


「う、ううん。そ、それよりも俊一君。この男の人が、この前たかちゃんを連れて行った人なの?」


 不安そうに僕に聞いてくる。


「そ、そうだよ。この男の人だよ。ま、まあ藤咲さんも自分の方からついて行ったような気もするけどね」


 藤咲さんに視線を送ると、こちらも男の人と同じように小馬鹿にするような視線を僕に向けてくる。


「ふんっ。こんな男なんてほっといてさっさと行きましょう」

「ふふふっ、そうだね。……行こうか」


 そして藤咲さんの腰に手を回し寄り添い歩いて行こうとする。


「ま、待て!」


 ピタっと足を止めて藤崎さんが振り返る。


「何かな? 話があるんならさっさとしてくれない?」

「……」


 僕はなぜ呼び止めたんだ?

 僕と藤崎さんはもう婚約者でも無いのに、何も話すことなんて無いじゃないか。


「し、俊一君」


 立花さんが焦るように僕の服を引っ張ってくる。


「ど、どうしたの……うわっ!」


 周りには人だかりができていた。


「何かやってるぞ!」

「えっ? なになに!」


 どんどんと人が増えていく中、僕は藤崎さんに対して話すべき次の言葉が出てこないまま時間だけが過ぎていく。 


 すると、横から立花さんが「あの〜、良かったら4人で何か食べに行きませんか?」そう誘った。


 僕たちは、僕の予定していたデートコースを大きく逸脱して、映画館の隣に隣接しているハンバーガーショプに入ることになった。


「私はチーズバーガーセットで、俊一君はどーする?」


 カウンターの前に立ち、迷う事なく注文する立花さん。


「…………」

「俊一君!」


「……何?」

「店員さんがいるんだから、そんなムスッとした顔してないで早く注文しないと?」


 困ったような表情をしながら、僕の注文を待っている店員さん。正直何か食べたい気分じゃないのだが、しかたなく注文する。


「たかちゃん達はどうする?」


 顔を突き合わせて考えている藤咲さんと男の人。


「わ、私はあかちゃんと同じでいいわ!」

「ぼ、僕も彼と同じで大丈夫だ!」


 二人ともどうしたのか? どこかおかしい。

 混み合う中、何とか席を確保する。僕の隣に立花さん、僕の向かい側に藤咲さんとその隣に男の人が座る。


「…………」


 僕はさっきから納得できないでいた。

 立花さんがどうして藤咲さんを誘ったのか。僕がこんな最悪の状況の下、平気で食べれるわけがないことは分かっているだろうに。


 確かに、あんな場所でトラブルを起こしてしまい、あんは状況を作ってしまった僕が言える事ではないけど、それでもそう考えずにはいられなかった。


 もちろんそれは僕だけでは無く、藤崎さんも同じ思いをしているはずだ。


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