第34話 僕の初デートは

 スマートフォンで時間を確認すると、約束の時間の15分前だった。

 よし!

 遅刻せずに相手を待たせることなく。出足でつまずかなかったぞ。


 しばらくすると、走ってくる1人の女の子が。


「ごめんなさい。ま、待たせちゃったね」


 息を切らしながら僕の目の前に立つ立花さん。


「ほ、本当にごめんなさい!」


 そう言って頭を下げる。


「………………」

「し、俊一君? 怒ってる?」

「……へ?……あっ、ご、ごめん! ううん、全然大丈夫だから」


 僕は怒っていたわけではなく、立花さんの話が耳に入らない程、立花さんの姿に目を奪われていた。


 髪はショートボブをポニーテールにしリボンで止めて、上は白色のニットセーターに下は紺色のショートパンツ。そして、ブーツを履いている。


 僕の学校で見る立花さんのおとなしいイメージと、私服姿の活動的なイメージの違いに、ぼーっと見惚れてしまった。


 めっちゃくちゃ似合ってて可愛い。


 えっと、こんなときは何か気の利いた言葉を言わないと。


「た、立花さん!」

「は、はい!」

「か……可愛いと思います!」


 声が裏返ってしまった! そのうえに思いますってなんだよ! ダサッ! カッコ悪!


「あ、ありがとう」


 だけど、僕の言葉を聞いた立花さんは、顔を赤く染めて微笑みながらそう言ってくれた。


 その立花さんの姿を見て、僕はドキドキと鼓動が高鳴るのだった。


「それじゃ、とりあえず歩こうか」

「うん」


 と、2人で歩き出そうとした所で、何故か立花さんは辺りをキョロキョロと見回している。


「どうしたの? 立花さん?」


 そう僕が言うと同時に離れた所から「きゃっ!」「うおっ!」と言った変な声が聞こえてくる。


「んっ?」


 なんか声がしたぞ?

 少し気になった僕はそちらに視線を送ろうとしたのだが……。


「俊一君、行こう!」


 立花さんから服の裾を引っ張られ、少し気になったけど歩き出す。


 立花さんに「どこか行きたい所ある?」って聞いたら僕にまかせるって事だったので、僕が計画していた予定通り、映画館に行くことにした。


「立花さんの見たい映画は?」

「う〜んと……ごめん、最近何の映画が話題なのかよく分からなくて……」


「それなら最近よくテレビで宣伝されているこの映画でも見ようか?」

「うん、分かった」


 ここでも立花さんは周りをキョロキョロと見回している。


「ねえ? 立花さん? さっきからどうかしたの?」

「ううん、ごめん! 入ろうか」

「う、うん」


 なんか嫌な予感がする。

 でも、映画も始まっているし、あまり気にしないようにしよう。


 僕が選んだのハートフル系の映画だったのだが……うん、ものの見事に映画の内容が頭に入ってこない。

 と言うのも、隣に座る立花さんが気になってしょうがないのだ。


 特に横に置かれた指先を……握りたい衝動にかられてしまう。

 ああ〜〜〜、僕は一体何を考えているんだ〜〜〜。


 心の中の僕の天使くんと悪魔くんが囁く。


 天使くん。

 しっかりと映画を見よう! じゃないと会話する時に大変だよ!


 悪魔くん。

 へっへっへ、会話なんて適当に合わせろよ! チャンスは今しかないかもしれないんだぜ! この暗がりの中、指先を握るだけじゃなく、太腿も触っち…………。


 ない! それはないわ!

 僕の理性が悪魔を握り潰した。


 さりげなく隣の席を見てみると、ジ〜っとスクリーンに釘付けになって真剣に映画に見入っている立花さんがいた。


 この映画を選んで正解だったかな?

 僕も馬鹿な事を考えてないで映画に集中しよう。




「あ〜、結構良い映画だったね」


 にっこりと微笑む立花さん。


「うん、最後の終わり方も良かったしね」


 そうここまでは、最高だった。

 嫌な胸騒ぎなんて気にしすぎだと思っていたのだが。


 映画館を出て、立花さんと一緒に夕食をとろうと思っていた時、僕の目にあの人の姿が飛び込んできた。


「ど、どうして……」

「ど、どうしたの俊一君……あっ?!」


 僕の目の前には、藤咲さんとあの時の男がいた。

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