第32話 僕がクラスメイトに絡まれる訳がない!

 そんな僕の肩をガシッと掴むやつがいる。


「離してくれ、健! 僕は行かないと……」

「あ〜〜ごほんっ!」


 健とは違う声に気付いて後ろを振り返ると、いつの間にか数人の男子生徒達に囲まれていたのだった。


「ど、どうしたの……かな?」

「どっかの漫画のようなセリフの途中に悪いんだけどさ、時任…………坂口の話はどこまでがマジな話なんだ?」


 そのクラスメイトは何故か泣きそうな顔で僕に訴えてくる。

 確か名前は……た、た、そうだ! 武田君だ。正直あまり話をした記憶はない。


「い、いや……あはは」

「笑ってごまかすな! はっきりと付き合ってるかどうかお前の口から言え!」

「そうだそうだ!」


 周りにいる武田君の友達からも突っこまれてしまう。


「ご、ごめん。……う、うん、そう。……立花さんとつき合ってるんだ!」

「そんなはっきり言うな! この野郎!」

「そうだそうだ! はっきり言い過ぎだぞ!」


 え〜〜〜〜っ!

 じゃあ、どうしろって言うんだよ!


「くぅ〜、何て事だ! 俺達モテナイズから裏切り者が出てしまうなんて……くそ」

「い、いや……そんな仲間に入った覚えがないんだけど……」


 何、モテナイズって……この前も聞いた記憶があるけど、ひどいネーミングだ。


「しかも、つき合う彼女が生意気にもあの立花だと!! あの、学年妹にしたいランキング1位の……ふざけやがって」


 そうなの? それは知らなかった……。確かにかわいいもんな〜。


「……………………」

「はっ! な、何? みんなして、そんなじ〜っと見て」

「ふんっ! 緩んだ顔しやがって! リア充死ね!」

「そうだそうだ、武ちゃんいいぞ!」


 君達は何なの?


「ちょっ、別に僕が誰と付き合おうが関係ないでしょ! そんなんだったら武田くんも誰かと付き合えばいいんだよ!」

「んなっ?!」


 それを聞いた武田君は、赤い顔をして体をプルプルと震わせる。


「ど、どうしたの?」


 すると、武田君の友人達が僕にコソコソと耳打ちしてくる。


「時任、少しは相手の顔を見て物を言いやがれ」


 余りに声が小さく聞き取れなかった僕は、聞き返した。


「どういう事?」

「武ちゃんは、女の子に告って振られた数がクラスの女子の数で足りないんだぞ」


 クラスの女子の数よりも多くフラれてるって、僕はあまりの衝撃的なカミングアウトに武田君に哀愁を感じずにはいられなかった。


「ご、ごめん、武田君! 武田君がそんなにフラれてるなんて知らなかったんだ!」


 僕が言葉に周りが反応して、一斉に武田君が注目の的になる。


「おまっ! お前は馬鹿か!」

「えっ? 何が?」


 武田君は周りからの視線を感じたのか、「時任は面白いことを言うな。あははっ」そう言って乾いた笑いを放つ。


 正直、笑っている顔が怖い!

 そばにいた武田君の友人達は顔が引きつっていた。


 えーと、ここは話を合わせておいた方がいいかな。


「本当? 面白いジョークだった? 僕はそれ程面白いとは思わなかったけど」

「いっ?!」


 顔が引きつる武田君の友人達。


「あはは〜…………その通りに面白くないわぁぁ〜〜!!!!」


 武田君は僕の胸ぐらを掴んで、頭をぐらぐらと揺さぶってくる。


「えええぇぇぇ〜〜! せっかく合わせてあげたのに!!」

「全然! 有り難くねえ!」


「た、武ちゃん! 落ち着いて!」

「これが落ちついてられるかい! ってか、お前らも顔とかフラれた数とか……余計な事言うんじゃない!」


 そう言って友人達の頭にゲンコツを落とす。


「いだっ〜。 た、武ちゃ〜ん」

「うるせえ! しかし、時任……外見からして大人しそうな奴だと思っていたら、結構な悪魔だな」


「な、何で? 別に悪気があって言った訳じゃないんだよ!」

「なお悪いわ!! こ、この野郎……」


 あぁ、僕も殴られるなと思っていたら


「ちょっと待て! 武田とモブキャラ共!」


 かっこよく健が仲裁に入ってくれた。


「け、健……」

「坂口ちょっと待て! 何だよその武ちゃんとモブキャラ共ってよ!」


「えっ? お前達、名前ついてると思ってたの?」

「俺達名前ないの?」


「少し黙っててくれ、モブキャラ共」

「武ちゃ〜ん……」


「何だよ坂口。止めるつもりか? 俺だってここまでコケにされたら怒るに決まってるだろ!」

「いやいやいや、別にコケにしてないから」


「おめえは、黙ってろ!」


 僕を睨みつけてくる。


「まあ、落ちつけ落ちつけ。そして、冷静に俺の話を聞けよ」

「な、何だよ!」


 健は何故か芝居かかったように話し始める。


「おほんっ! 立花の周りにいる女共……なかなか良いと思わないか?」


 急にヒソヒソ声で、女子達に気付かないように親指を向けながら話す。


「特に良く一緒にいる女……鷺沢だっけ? いい身体してやがるしよ。へへっ……胸なんてぶるんぶるんじゃねーか?」


 武田君は僕の胸ぐらから手を離し、健の話を聞いている。


「坂口……お前一体何が言いたい?」


 健は得意気に胸をはりながら


「俊一を通して女を立花から紹介してもらうんだよ」


 健のやつ、とんでもない事を言ってきたぞ。

 そんな言葉に乗っかるやつなんているわけ……。


「坂口…………お前…………天才だな!」


 武田君は嬉しそうに、健のことを感心したようすで見ている。


 こ、ここにいたよ。


 アホだ! よく考えたらこんな無茶な話し通る訳ないでしょ?

 そう思いを込めて武田君の友達……モブキャラ? に視線を送る、が…………。


「うおおお〜〜!! その考えはなかった!」

「坂口…………お前すげえよ!」


 アホだ! アホが三人もいる!!


「ふふふっ…………さすが俺様。最高だろ?」

「マジすげえ、最高だぜ!」

「ほんとほんと!」

「お前が神様に見えるぜ!」


 4人だね。

 呆れてしまい、突っ込む事もできない。


「という訳だ、時任!」


 僕の肩にポンと手を置く武田君。


「紹介任せたぞ、心の友よ!」


 君はどこのガキ大将だよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る