第30話 僕は親友に恥をかかせるため行った訳じゃない!

「うおおおおお〜〜〜!!!!!」


 目の前で叫ぶ僕を見て健が叫ぶ。


 そして、僕達の叫び声を聞いた早希さんが慌てて部屋に飛びこんで来た。


「ちょっと! すごい叫び声が聞こえてきたけど、二人共一体どうしたの? って何でこんな真っ暗なのよ!」


 そう言って、早希さんは部屋の電気のスイッチを押そうとした。


「ちょっと! 早希さん、電気つけるの待って……」


 僕の言葉よりも先に電気をつけてしまう。


「何馬鹿な事を言ってるの? 点けないと真っ暗で何も見えないじゃない!」


 早希さんは僕にそう言いながら健の方を見た。


「………………」


 衝撃で早希さんは言葉も無く、目を大きく見開いて固まっている。そりゃそうだ。椅子に座っている健は上半身は至ってまともなのだけれど、下半身は何もつけておらず、フル〇〇状態だったからだ。


「ちょっ、姉貴! な、何勝手に人の部屋に入ってきてんだよ。しかも電気まで勝手に点けて! そ、それに俊一、お前まで……来たんなら来たって言えよ! それにいきなり大声出すんじゃねーよ。マジビックリしたじゃねーかよ!!」


 えっ?! ええぇ〜〜〜!!!! そ、そこなの?!


 どうやら、まだ自分のおかれている状況に気付いてないようだ。


「け、け、け、健! し、下……」


「あん? 下って……俊一お前何言って……………………いいっ〜〜!!!!」


 ようやく気付いた健は慌ててパンツやズボンを履き直す。

 健のその行動に部屋の中はし〜んと静まり返る。


 パソコン画面から…………おそらく椅子から勢いよく立ち上がった時に、ヘッドホンの線が抜けたからだろう。 女の子の声が聞こえてくる。


「け、健……早く……きて……お願い」

「ごめん。まさか……そう言うタイミングだったなんて思わなかったし……本当ごめん」


 早希さんは、一言も言葉を発する事無く部屋を後にする。出て行く際に、早希さんは一瞬フッと微笑んだ。

 もしかしたら、あまり気にしてはいないのかも?


 それなら、健にとって不幸中の幸いだと思ったのだが。


「まずい所を……まずい奴に……見られてしまった……」


 健は先程から、独り言をブツブツとつぶやいている。


「け、健……あ、あんまり気にしないで」


 気にするに決まってるのに、言葉が見つからない為に余計な事を言ってしまう。


「馬鹿野朗! さ、さすがにこの俺でも気にするに決まってるだろう!! しかも、よりによって姉貴に見られるなんて…………あ〜、マジ消えてぇ〜〜」


 こんなに頭を抱えて動揺している健を……僕は見た事ない。


「で、でも、その早希さんなんだけど、どこか微笑んでいたような気がするんだけど……そ、それに……僕達には未来があるのだから」


 僕はグッと親指を立てる。


「意味分かんねーよ! それよりも、マ、マジで、マジで姉貴笑ってたのかよ?!」


 な、なぜか、健の身体が震えているような気が……。


「そ、そんな風に見えたような気がしたんだよ」

「も、もしそうなら……いや、考えるのはやめよう。悪い事っていうのは考えれば考えるほど、連鎖して起こりそうだからな。だから、忘れる! 俺は忘れるぞ!!」


 うん、確かに分かる。それは分かるんだけど……今回の事は部屋に鍵をかけておけば良かったような気が……って、開けてしまった僕が言える言葉でもないか。


「で、俊一! こんな恥をかかせてまで俺に会いに来た訳だから、余程の事があるんだろうな〜、あぁ?」


「も、もちろんだよ! 健、今日は本当にごめん。ごめんなさい」


 僕は土下座する勢いで謝る。


「そこまで謝られても困るんだけど。それで一体何の話だ?」


 僕は今朝の事、立花さんの事について、健に話した。


「……訳なんだ! 本当にごめん!」


 僕は説明した後、もう一度謝った。


「…………お前は」


 健の拳がぷるぷると震えている。

 僕は殴られる事を覚悟する。


「お前と言う奴は、んな事で、俺の神聖な部屋にあの猛獣を入れるきっかけを作ったと言うのか〜〜〜!!!!!」


 へっ?


「はい? お、怒ってないの?」

「い〜や、怒ってる! めちゃくちゃに怒ってる! だが、今日のお前との事じゃねえ! あ〜〜くそったれ!」


 そう言って床をドンドンと叩く。


「な、何か色々ごめんね」


 健は僕をキッと睨んでくる。


「全くだぜ! 何だってんな事ぐらいで慌てて来るんだよ! 確かに、あの時は何であいつは怒ってるんだ! って思ってイラっときたけど、んな事でいつまでも怒ってるかよ!」


 ふんっと腕組みをして僕にそう言ってくれる。


「そ、そう。それなら良かったよ」


 僕はほっとして胸を撫で下ろした。


「お……お前ってやつは……くっ! ふぅ〜、もういいわ。んで、どうすんだよ?」


 髪の毛をクシャクシャと指で遊ばせながら聞いてくる。


「え? 何が」

「鈍感か! お前は! 立花との事だよ。告られたんだろ?」


 何だ、そんな事


「もちろん…………付き会うよ」


 一瞬藤崎さんの顔が頭をかすめたけど、それをかき消す。


「……………………そうか」


 な、何? 今の長い間は……。


「え、何でそんなにガッカリしたような顔してるの?」

「いや、ガッカリはしてねーよ。まあ、俺には関係のない話だからな」


 それなら、どうしてそんな眼で僕を見るかな〜。しかも、含みのある言葉だし。


「まあ、どっちにしろこれでハッキリするだろうよ」

「えっ?」


 何が? と聞き返そうとしたのだが……。


「まあ、頑張れ! 応援してるぜ!」


 そう言って健は僕の肩を叩いてきたので、聞くタイミングを逃してしまう。


「あ、ありがとう」


 気になる言葉だったが、僕は健の言葉にただ頷く事しかできなかった。


 次の日、僕は立花さんに自分の今までの思いを伝えて付き会う事になる。

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