第29話 僕は親友に謝りに行ったのだけれど

はあっはあっはあっ……。


 息を切らしながら健のマンションに着いた僕は焦る気持ちを押さえきれずに、チャイムを鳴らすし続ける。


 ピンポーン……ピンポーン……


何度目かのチャイム音の後、扉の開く音が開かれる。と同時に、僕は頭を真っ直ぐ膝につく位に下げた。


「ごめん、健! 僕が悪かった! 本当にごめんなさい!!」


 僕は殴られる事を覚悟で謝った。


「…………」


 健からの反応がない。

 やっぱり、すごく怒ってるのか。


 と、思ってたところに、予想外の声が聞こえてくる。


「残念だけど〜、健じゃないよ〜私」

「はい?」


 声に驚いて顔を上げると、目の前には色白の肌にくっきりとした目鼻立ち、美人だけど幼い可愛いさを残した女性が立っている。


「さ、早希さん!」


 健のお姉さんが笑いながら子首を傾げている。


「いきなり詫びを入れるなんて。どうしたのかなぁ?」

「いえ。ちょっとあって……」

「んーん? まあ、いいわ」


 ここで、これまでの経緯を説明すると長くなりそうだったので、お姉さんには悪いのだけれどごまかす事にした。


「でも……久しぶりね〜俊ちゃん。……何だかちょっと見ない間にずいぶん男らしい顔つきになったんじゃないの〜、ふふっ」


 早希さんはいたずらっ娘のような表情で片目を瞑り、僕をからかってくる。よく見みると、料理中だったのか片手にはおたまを持っていた。


「い、いえ、そんな事は……忙しい時にすみません!」

「あら〜いいのよ〜別に」


 凄く楽しげな表情で、僕にそう言ってくる。


 早希さんは健から何か聞いてたりするのだろうか? すごく怒ってて早希さんに、僕が来ても会いたくないって言ってたりして。


 少し探りを入れてもいいかな。


「相当機嫌が悪そうでしたか?」

「う、う〜ん、どうだろう? 慌ててたような気はしたけど〜、ふふっ」


 早希さんはこの話を楽しんでいるように見える。


「とりあえず、こんな所で話すより中に入って話す方が良いわよ」

「そうですね。お邪魔します」


 中に入ると、いい匂いがしてくる。やっぱりご飯を作っている最中だったようだ。


「俊一君はご飯て食べてきたの?」

「いえ、まだです」


「良かった〜……それなら一緒にどうかな〜」

「い、いえ、おかまいなく。用事を済ませたら帰りますんで」


「もう! 遠慮なんかしなくていいってば!」


 早希さんの食べてかないと帰さないわよ的なオーラに気圧されて、食べて帰ることにした。


「そ、それじゃあ、お言葉に甘えます」

「そうこなくっちゃ」


 満面の笑みで頷いてくれる早希さん。


 う〜ん、健はどうしてこんな素敵なお姉さんが苦手なんだろうか? 僕は早希さんに合うたびに思っているのだけど、健がお姉さんを苦手な理由は何度聞いても答えてくれなかった。


 玄関を上がり、すぐ横にある階段を登ると、健の部屋の扉かある。


 早希さんに聞いたら、健は帰ってくるなり自室に籠もって出て来ないとの事だった。一緒に行ってあげようかと言われたが、それは断った。

 今回の健との事は、僕が悪いんだから、しっかりと謝らないといけない。


 トントントンと部屋をノックする。


 ………………。


 何回ノックしても返事がない。


 仕方ないので、ドア越しに声をかけてみる事にする。


「け、健。話しがあるんだけど……」

「………………」

「健!」


 少し強めに声を掛けてみるも返事がない。


 僕と話がしたくない程怒っているのかもしれない……。


 とりあえず、ドアノブを回してみる。

 すると、ガチャッとドアノブが回る音がした。

 開いてる……


 中を覗き込むと部屋の中は真っ暗だった。

 確か僕の部屋と、そんなに変わらない広さだったと思うんだけど。


 部屋の真正面に置いてあるパソコンのモニターだろうか? その明かりだけがこの真っ暗な部屋で見える唯一のものだ。


 いや! 部屋の主が見えた! パソコンに覆い被さるような黒い影、健の背中だ。


 少し慌てながらも、足元や周りにゲームや漫画の本が散らかっているようなので、僕は踏まないよう足元に気をつけながら健のところまで進む。


「け、健、今日はごめん。僕は……とんでもない勘違いをしてしまって、本当にごめん」

「…………」


「むしのいい話しだとは思ってるんだけど、許してほしいんだ」

「………………」


 何の反応も無い。

 や、やっぱり相当怒ってるのか。


「け、健……」


 情けない声を出しながら、僕は健をジッと見る。


 ……? よく見てみると、健の耳にヘッドホンをつけている。

 よ、良かった〜……無視してる訳じゃないんだ。


 もう一度謝罪の言葉を伝える為に、僕は健の肩に手を置いた。


 健が気付き椅子ごとくるりとこっちに振り向いたのだが、そのモニターの明かりに照らしだされた健を見た僕は心底驚き叫んでしまった。


「ぎゃああああ〜〜〜!!!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る