第26話 僕は親友が何を考えてるのか分からない!
あの後、僕は教室に入らずにしばらくの間屋上で時間を潰した。そしてみんなが登校して教室がいつものように、ざわざわした状態になっているであろう頃合いを見計らって教室へと戻る。
結局、立花さんに昨日の事を謝る事だってできていない…………。
だってそうでしょ?
二人が楽しそうに話しているところに、のこのこと入って行ける訳がない。それはあまりに自分が惨めで情けない。
そりゃあ、ただ楽しそうに話をしているだけだとも考えたよ? だけど、健が女の子と楽しそうに話しをしている所なんて、今までに一度だって見た事がない!
大切な親友だと思っていたのに…………。
よりにもよって、どうして僕が気になっている女の子と一緒にいるんだよ!
いや、いい! 立花さんも望んだ事なんだろうから、それはいい…………あ〜、くそっ! やっぱり嫌だ!
そして、何よりこんな事を考えてしまう僕が嫌だ。
朝の二人を見てから、負のスパイラルに陥ってどんどん悪い方に考えてしまう。
ふと、昨日の飲み物を取りに行って戻って来た時の、立花さんの真っ赤な顔をして慌てていた時の事がよみがえってくる。
その時はないなと思っていたけど、やっぱりあの時……。
「…………おいっ!」
「はっ!」
健から肩を掴まれて我にかえる。
「また、ボケッとしやがって! 一体どうしたってんだよ!」
「…………」
「おい、まただんまりかよ! 一体何だってんだよ!」
僕は黙って、肩に置かれてる健の手を掴んで下におろす。
「うるさい!」
僕は大きな声で叫んだ。
教室で雑談に花を咲かせている生徒達が一斉に何事かと振り返る。
僕は周りの生徒達に向けられる視線に、自分が放った声が想像以上に大きかったことを物語っていた。
健はひどく驚いた表情をしている。
「お、おい、俊一!」
「ご、ごめん!」
そして、僕は教室を飛び出した。飛び出したといっても、僕の行きつく場所は屋上しか無い。
屋上で大の字に転がって空を眺める。
……一体僕は何をしてるんだ。
そう……頭の中では理解しているんだけど……。
僕がうだうだ考えていると、いきなり携帯電話が鳴り響いた。着信画面を見てみると……香川さんの名前を表示していた。
ちっ! こんな気分の時に!
「はい!」
「時任様……ですよね?」
変な事を聞くなよ!
「俺の携帯なんだから当たり前でしょう」
「俺って……しかも別人のように低い声……何かありましたか?」
「何もありませんよ。それよりどうかしましたか?」
「お嬢様の事ですよ。あれからしっかりとフォローされたんですか?」
はあ? 何言ってんだ、この人?
「何も知らないんですか? 藤咲さんなら学校にも来てないですよ」
「はい? どういう事ですか!」
「ぷっ?! あははっ……あんなにお嬢様お嬢様って言ってるのに……香川さんも大した事ないですね」
「な、何ですって! あ、貴方、お嬢様に対する私の忠誠心を馬鹿にするつもりですか!!」
「あはは……だってそうでしょ? 何も気付かなかったって事でしょ?」
「ど、どういう事ですか! 貴方一体何を言ってるんですか!」
やれやれ……。
「貴方のお嬢様なら、今頃、他の男とよろしくやってるんじゃないんですかね〜」
僕はなげやりにそう答えてしまう。
「えっ! 言ってる意味が良く分からないんですがね。他の男? よろしくやってる?」
香川さんの言葉に僕はイライラしてくる。
「他の男の腕に抱かれてるんじゃないかって言ってるんだよ! この馬鹿!」
…………。
言ってしまった後に、先程健にも言ったような後悔を覚えてしまう。
「あ、あ、あ…………」
携帯越しから香川さんの震えるような声が聞こえてくる。
僕…………殺されるかも。
そう冗談じゃなく思ってしまう。
「時任様! な、な、何てハレンチな事を!」
ハレンチ? ハレンチっていつの時代の言葉だ? 思ってもいない言葉が返ってきたから、呆気に取られてしまう。
「だいたいお嬢様に限って、そんな事ある訳ないでしょう!」
「そう思いたいのなら、そう思えばいい…………とにかくもう終わったんだから、ほっといて下さい! じゃあ、さようなら」
「ちょっ、待ちなさ……」
香川さんの言葉を待たずに、僕は携帯電話を切った。そして、電源を落とす。これ以上色々言われる事が煩わしくなったからだ。
また、どこからか監視してるのだろうが、まあいいや。どこからでも撃って来いってんだ!
しかし、どこからも玉は飛んで来なかった。
昼休みが終わり教室に戻った僕は、何人かの視線を浴びながら自分の席に着いた。
僕は健の席に視線を向けると、健もこちらを見ていてお互いに目が会う。
だけど僕はすぐに視線を逸らした。
下校時間になり、さっさと一人で帰ろうと思っていた所で思ってもいない人物……立花さんから話しかけられる。
「と、時任君?」
教室ではあまり話しかけられた記憶はないので驚く。
思った通り、クラスの何人かの生徒達がこちらを見ている。
「立花さん……」
立花さんは教室で話すのに緊張しているのか、やや声が小さい。
「一体どうしたの? 健ならもうそろそろ帰ると思うよ」
健の席を見ると、健は帰る準備をしているところだった。
「ふぇ?! 坂口君? 何で? どういう事?」
立花さんは、可愛いらしく首を傾げながら聞いてくる。
別にそんな隠さなくてもいいのに。
僕の胸がズキリと痛くなる。
「い、いや、ごめん! 何でもないよ! そ、それより何かな?」
僕は自分の動揺を悟られないように立花さんに答えた。
立花さんは一度俯いて、何か声を出してから僕の方に向き直る。
その瞳は何かの決心を固めたような強い意志のこもった瞳だった。
何だろう?
何故か立花さんの瞳を見ていたら、逃げる事が許されないように感じる。
正直、健と立花さんの二人を見ていたくないから、すぐにでも帰りたいんだけど……。
「俊一君!」
突然、立花さんは大きな声で僕の名前を呼んだ。下の名前で……。
「は、はい! 何でしょうか?」
ビクッとなり、思わず敬語になってしまう。
クラスに残っている生徒達が一斉にこちらに目を向けてくる。
「何だ何だ?」
「昨日に続いてまた時任かよ!」
「最近、こういう事って言ったら時任だよな〜」
「えっ! 立花さんが!」
「これってもしかして……キャア〜〜!」
ったく、周りがうるさいなー。
もう立花さんもこんな場所で何を考えてるんだ。健が見てるかもしれないのに。
そう思い健の方を見ると、そこに健がいてこっちを見て微笑んでいたのだった。
えっ? な、何でそんな風に微笑んでいるんだよ!
「し、俊一君?」
顔を立花さんの方に戻すと、不安な表情で僕の名前を呼ぶ立花さん。
「ご、ごめん! と、とりあえず……話す場所を変えないかな? ここじゃ話しずらいし……ね」
僕の言いたい事が伝わったのだろう。立花さんは頷いてくれた。
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