第24話 僕はまた間違えてしまう
「相変わらず何もねえ、つまんねえ〜部屋だよな〜……俺はコーラでいいぞ」
僕の部屋に入るなり、健はそう言ってくる。
「ねえ? 人の部屋に来ていきなり言う言葉がそれですか? って何気に催促してるし!」
立花さんは、遠慮しがちに僕の部屋を見回している。
そう言えば、藤咲さんもこんな感じで僕の部屋を見回していたっけ、って、なんで今、藤崎さんのことが頭に浮かんだんだ?
部屋に入って真ん中に置いてあるテーブルの奥に健、健と向かい会う様に僕、僕の右隣に立花さんが座った。
そして、僕が用意してきた飲み物をひと口飲んでから、健が口を開く。
「さてと、さっきの校門の所で起きた件について聞かせてくれ」
立花さんもその話しに興味深々なのか、目を大きく開いてこちらに身を乗り出している。
「はっきり言って、僕にもよく分からないんだよ?」
「お前が分からないってどういう事だ?」
どういう事だといわれても、藤崎さんとあの男がいたっていう事実以外、僕の知るところは無い。
すると、今度は立花さんが聞いてきた。
「たかちゃんと一緒にいた男性は誰なの?」
「さあ? でも、僕の目の前であの男の人に肩を抱かれていたから……そう言う関係なんじゃない!」
「…………」
「…………」
二人は僕の顔を見たまま黙っている。
もしかしたら、意識はしていないのだけれど、強い口調になっていたのかもしれない。
でも、どうしてこんなに僕の気持ちはざわついているんだろう?
だって、僕は藤咲さんの事は恐怖の対象であって、特別な感情はないはずなのに……。
それなのに。
さっき目の前で起きた光景を思い出すだけで、気分が悪くなってくる。
「………………俊一」
健は急に暗い表情をしながら、かすれた声で僕の名前を呼んだ。その声に思わずびくりとする。
「な、何? そんな声だして?」
「………寝取られだな」
「はあっ?」
えっ、何言ってんの? この人……。
「寝取られだ!」
「いやいや、何言ってんの?」
「だから、抱かれて心まで奪われたんだって言ってんだよ!!」
強く主張しながら、テーブルの上をドンドンと叩く。おかげで飲み物がこぼれてしまった。
「何してんだよ! あ〜もう! ジュースがこぼれたじゃないか! 立花さんごめんね。この男が何か訳分からない事……立花さん?」
立花さんは耳まで真っ赤に染めて俯いている。
「だ、抱かれ……たかちゃんが……ひゅーー」
ぶつぶつと独り言を言っている。どうやら健の言った言葉が、立花さんには過激だったのか、頭から湯気がでそうになっている。
「た、立花さん! き、気にしないで! この男が訳の分からない事言ってるだけだから! いや……本当、はははっ」
しかし、健の目にはこちらの様子は写ってないらしく。
「あ〜、やべえ。もしお前の言ってる事が事実だとして、本当に藤咲とそいつがそういう関係だとしたら…………」
だ、駄目だ。完全に自分の世界に入って僕の話しを聞いてない。
「滅茶滅茶興奮するじゃねーかあああ!!!!!!」
興奮て……変態かよ! あまりな言葉に突っ込まずにはいられない。
「健! いい加減な事を言うのやめなよ! 取られたもなにも、元々、僕の彼女じゃないし。それ以前に、もう向こうは僕の事なんて何とも思ってないよ!! ……って何その顔?」
健は目を細め、冷めた表情で僕を見ている。隣を見ると、立花さんが驚いた顔で僕を見ていた。
「おい立花! お前、今の俊一の言葉聞いてどう思うよ?」
「えっ、う、う〜ん、ちょっとね」
えっ? どういう事?!
「ははは……憐れな男だぜお前は」
「ちょっ、一体何が言いたいんだよ!」
健と立花さんは、お互いに顔を見合わせて渋い表情をしている。その二人だけの分かっているような空間に若干の戸惑いを感じてしまう。
な、何だよ二人して!
「やれやれ、本当にどうやったらお前に…………あああっ、そ、そうか! そういう手も……いや、しかし……」
健は何かを思いついたらしく大声を出したのだが、その考えがまとまってないらしく、両手で頭を抱えて顔を上下に振っている。
「な、何! どうしたの健?」
「い、いや、何でもねえ! わ、悪いな大声出して」
何だろう? 健にしては珍しく焦っているような……。
「し、俊一! 悪いんだけど、もう一杯コーラを入れてきてくれないか?」
「それはいいけど? 立花さんも飲み物をお代わりしてくるよ」
「あ、ありがとう」
そう言って、しばらく部屋を離れ、飲み物を持って自室に戻ってきた。
健の様子は部屋を出た時と変わらないのだが、立花さんが明らかに何かに動揺していて、顔が真っ赤に染まっている。
「お待たせ……」
二人の方にそれぞれ飲み物を置きながら話しかける。
「立花さん、どうかしたの?」
「はい、あっ、うんうん……えっ、ど、どうして?」
何やら慌てながら、両手を顔の前でバタバタとふっている。何かあったとしか思えない動揺っぷりだ。
ま、まさか!
僕は立花さんの顔から健の方に視線を向ける。僕が下に行ってる間に、健が立花さんに……。
「ん? 何だよ俊一。コーラ、サンキューな」
「え? あ……うん」
「さてと、それじゃ俺帰るわ。ふふふっ、姫ちゃんが俺の帰りを待ってるからな。じゃあ、頑張れよ俊一! 立花もそれじゃあな」
そう言ってポンと僕の肩を叩き、健は横を通り過ぎて帰って行った。
う〜ん、何もないかな。ていうか、姫ちゃんて……。
「し、し、し、俊君!」
もしかしたらって思ったけど……ありえないな。
「し、俊君!」
バンッとテーブルを叩く音が聞こえたかと思うと、立花さんがテーブルに両手をついて僕の顔を見ていた。
「えっ、ご、ごめん! もしかして話しかけてた?」
「や、あ、う、うん。えっと……」
両手を合わせてもじもじしている。何だか言いにくい事のように感じる。
「うん。どうしたの?」
声に出してみて、自分が意外にも女の子と二人きりなのに普通に話しが出来ていることに驚きを感じてしまう。
相手が立花さんだからかな? あ、でも藤崎さんとも普通に話せてたか(あれが普通の会話かどうかは知らんが)。
ん? ちょ、ちょっと待てよ! そういえば、今この部屋に……いや、この家に立花さんと二人きりなんだ!
健のやつ図ったな! 道理で帰り際、僕に頑張れよと言ってきた訳か。
しかし……いきなり、こんな場面を設定されても無理に決まってる! それに、こんな時なのに、何故か藤咲さんの顔が頭にちらついてしまう。
くそっ! 僕はどうしたいんだ! せっかくの機会なのに。
「ご、ごめんなさい! か、帰るね! それじゃ明日また学校で!」
そう早口で話して、立花さんは立ち上がり、僕の横を通り過ぎようとした。
「ちょっと、待って!」
僕は咄嗟に立花さんの腕を掴んでしまった。
「えっ?」
「……えっ?」
僕が勢いよく腕を掴んでしまった為に、立花さんは体勢を崩してしまう。
そして、そのまま僕の所に向かって倒れてきた。
「ぐはっ!」
「キャッ!」
………………。
「う、う〜ん……ごめん、立花さん。大丈夫だった?」
「…………」
「立花さん?」
と、そこでぼ〜っとしている立花さんの目と僕の目が合う。
!?
もう少しで唇が触れるんじゃないかと、思えるぐらいにすごい至近距離だった。
えーーーーーーっ!
冷静になってようやく、自分達の今の状況を理解し始めてきた。
腕を掴まれた立花さんはバランスを崩して僕の方に倒れてきた。ケガをさせまいと立花さんを受け止めようとした僕は、そのまま彼女を抱き止める形になってしまったのだ。
本当ならすぐに立花さんに声をかけて、今の状況を伝えて離れないといけないはずなのに、そんな心とは裏腹に、ドキドキと心臓の鼓動を高鳴らせつつ、僕は立花さんの身体に触れていたいと思ってしまったのだ。
「た、立花さん?」
「…………へっ?」
ようやく、僕の言葉が聞こえたのか、今の自分の体勢を確認して真っ赤に顔を染めている。
「キャッ! ご、ご、ごめんなさい。わ、私ったら一体何を考えて……し、俊一君大丈夫だった?」
そう言い、立花さんは立ち上がった。
「い、いや、僕の方は全然大丈夫! むしろ、気持ち良か…………じゃなくて」
「え?」
「あ、あの、さっきはごめん! 僕が無理に引っ張るようにしたから!」
「う、ううん。俊一君が庇ってくれたから何ともなかったよ!」
「ほ、本当に? それなら良かった」
「う、うん」
2人の間に沈黙の空気が流れる。
僕は沈黙に耐えきれなくなり、さっきの立花さんの言いかけた事を聞く事にした。
「た、立花さん!」
「は、はい!」
「さっき僕に何を言おうとしてたよね」
「えっ? あ、ああ、あれね…………私は……や、やっぱり駄目! ごめんなさい!!」
へ? 何が? そう頭の中で考えてる間に立花さんは僕の部屋を出て行ってしまったのだった。
あ〜〜、やっちゃった〜〜!
やっぱり、さっきの倒れた時の事が原因なのかな? それとも、あのタイミングで聞こうとしたのがまずかった?
はぁ〜、明日学校で顔合わせづらいな〜。
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