第20話 僕が親友に相談をするなんて……。

「なあ俊一? お前、ここ最近ものすごく顔色悪くねえか? ちゃんと寝てんのかよ?」


 健は心配そうにそう言ってくる。今は学校の授業も終わり、僕達はいつものように屋上に来ている。


 確かに健の言う通り、最近の僕はあまり寝ていない。正直、風邪をひいたかのように、声が出にくくなり、体が熱っぽく、倦怠感もある。

 それもこれも、あの事があってからだ。


「全然大丈夫さ……」


「って、全然大丈夫じゃねえだろう! 何だその死人みたいな声は!!」

「死人て……ははは、死人の声とか聞いた事ないでしょ?」


「うるせえよ! 藤咲か?」

「……え?」


 考えてた人の名前を出されて、一瞬言葉を出す反応が遅れてしまった。


「図星か……ふっ、相変わらず分かりやすい奴だ」


 健はかっこでもつけてるつもりなのか、前髪を後ろにかきあげながらそんなセリフを吐いた。

 腹が立つが、こいつにはそんな仕草が妙に似合っている。


「な、何で、ここで藤咲さんの名前が出てくるんだよ! そ、そんな訳ないでしょ!」

「はっはっはっ、強がりいいやがって……何日になる?」


「強がりって…………い、一週間かな」

「ふむ……これは相当だな」

「うん……まあ……ね」


 僕達が今話している一週間て言うのは、僕と藤咲さんが口を聞かなくなった期間の事だ。……そう、あの頬を叩かれた日から一週間……僕達は会話をしていないのだ。


「いい加減話せよ? 一体どうしたら、あんなに引っ付いてた奴が急に冷たくなるんだ?」


 健は理由を言うように即してくる。

 理由っていわれても、あれしかないよな……。


「その理由についてなんだけどね。まず初めに言っておきたい事がある!」


 僕は健の両肩を掴みながら、強く言葉を吐く。そんな僕を見た健の表情は若干引きつっていた。


「い、一体何だよ?」

「僕は変態じゃない!」


「は?」

「僕は変態じゃない!!」


「い、いや、それは分かった。別にお前が変態だろうがどうだろうが俺には関係ねーし」

「くっ! ぼ、僕は変態じゃない!!」


「いや、だから……ちっ! 本当に面倒な男だな。ったく、分かったよ! お前は変態じゃねーよ。これでいいんだろう?」

「じゃあ、話すぞ! 実は僕、藤咲さんの胸を触ったんだ!」


「はい?!」

「だから! 藤咲さんの胸を触ってしまったんだよ!! こんな事何度も言わせないでよ!」


 健はキョトンとした表情をしている。


「は……はぁ〜……で、藤咲の胸を触った事と今回の話とどう関係するんだ?」

「君は鈍いな」


「お前に言われたくねぇ〜?!」

「何で? それじゃあ僕も鈍いみたいじゃない」


「いやいや。 そこ驚くとこじゃねーよ! なんで驚いた? 驚くお前に俺は驚きを隠せねえよ! しかも『僕も』って何だよ! お前が鈍いんだよ!」

「なっ、 だからどうして……?」


「ストップ! 分かった。もうその話はいい。早く話を進めろ!」

「…………」


 まったく持って自分勝手な男だ。

 しかし、僕って鈍いのかな……。


「で、藤咲の胸を触ったのは分かった。俺が聞きたいのは、それで奴がお前に怒るとは思えないんだよ。というか、むしろ…………」

「うん? 何? よく聞こえなかったよ」


 最後の「むしろ」の後の声が小さくて聞こえなかったのだ。


「いや、まあいい。とりあえず、その時の状況を教えてくれよ。いきなり胸を触ったって言われても、何がなんだか分からないぜ。それと触った後のお前の行動もな」


 僕は健に藤咲さんの事を詳細に伝えた。健は僕の話しを目を閉じて黙って聞いていた。


「……こんな所かな?」

「そうか……」


 健は渋い表情をしながら、話してきた。


「俺ってさ……女嫌いなんだよ」

「う、うん、それは分かるよ。というか、この学校の大体の人間は知ってるんじゃないかな?」


 健のやつ、いきなり何を言うんだ?


「だけど、今回ばっかりはそれでも……」

「それでも?」


「お前に問題があると思うぜ」

「そ、そうだよね……そりゃあ事故とはいえ胸を触った訳だしね」


 はぁ〜、まずい事をした。


「いや! 問題はそこじゃなくてだな。はぁ〜……ったく。えっと、あのな。その時、偶然とはいえ家に誰もいなかった訳だよな?」

「そうだね」


 そりゃ、偶然じゃなかったら、誤解を招くかもしれないのに誘う訳がない。


「で、それでも藤咲は家に上がってきたんだよな?」

「うん。どうやら僕の部屋に入るまで気付かなかったみたいだよ?」

「いや……お前」


 な、なんだろう?


「ねえ、何でそんな馬鹿を見るような目で僕を見るんだよ!」

「お、驚いた。そういう観察する目は持っているんだな」

「うるさいよ!」


 健は腹を抱えて笑いだした。


「はっはっはっ………本当に面白いやつだ」

「勘弁してよ」


 まったく。


「悪い悪い。俺が思うに、藤咲はお前の部屋に入る前に、家に誰もいないって分かってたんじゃないかと思うぜ。それなら、家に入って来た時に緊張してたのも納得がいくしな。で、そんな状態でお前が自分の所に倒れこんで胸を触ってきたと……まあ、あれだ……そうなるかもって考えてた可能性があるってことだ」


「そうなる?……って、まさか……」

「まあ……そう言う事だ……これはあくまでも俺の意見だからな。もしかしたらの話だぜ?」

「そ、そ、そんな訳ないだろう!」


 藤崎さんがそんな事を考えている訳がない。


「だから、もしかしたらだよ。でも、それだど俊一が叩かれた事も説明がつくんだよな」


 はい?

 全てに納得が言ったような表情をし、腕組みをしながら健は僕を見ている。


「え、どうして?」

「あのさ、お前、藤咲の胸を触った後、何て言った?」


「そんなのもちろん謝ったよ! 確か、ごめん! わざとじゃないんだよって感じでね。ちゃんと間違いだった事を強調したかったから、『間違っても、僕が藤咲さんに手を出そうなんてしないから!』って言った」

「そこだ!」


 指をパチンと鳴らし、人差し指を僕の顔に突きつけてくる。


「そこだって言われても……どこ?」

「どこって……」


 健は信じられないといった表情で、額に手を当て、頭をしきりにふっている。

 いやいや、そんな事言われても、今の何処に僕の落ち度があるのか分からないんだから。


「まだ、分からないって顔してるな。よーく考えてみろよ! 意識している異性に『間違っても手を出そうなんてしないから!』って言われたとする。そしたら、普通の人はこの人は自分に関心がないんじゃない? とか、自分に魅力がないのかな? とか思うんじゃねーの」


 そ、そんなばかな!


「あの、藤咲さんだよ! そんな可愛い性格の訳ないよ! いやいや、どう考えてもありえない!!」

「そうかな? それは、お前が勝手に作り上げているいる彼女のイメージなんじゃないのか?」


 そんな時だった。

 校門の方から騒がしい声が聞こえてくる。


「ん? 何だ?」


 健と二人で屋上の手すりに掴まりながら、校門の方に目を向ける。


「っ?!」


 僕は手すりから手を離して、無我夢中で屋上の扉までかけよっていた。


「お、おい! 一体どうしたんだよ?」

「ご、ごめん!」


 僕は急いで屋上の階段を駆け下りていた。

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