第17話 僕は婚約者を家に誘ったりは…………。

 僕が困惑したような表情をしていると、それを見た藤咲さんは心配そうに声をかけてきた。


「どうしたの?」

「い、いや……」


 僕はどう答えていいのか分からず曖昧に返事をしてしまう。少し迷いはしたが、隠すほどの事でもないと思い、電話の相手が誰か説明する事にした。


「実は、今の電話の相手って香川さんだったんだよ」


 それを聞いた藤咲さんは、何故か驚き、目を見開いている。


「ど、どうして……?! どうして、鈴が俊君の携帯の番号を知ってるのよ!」

「はい?」


 落ち着きを取り戻したと思っていたのに、藤咲さんはまた急に怒り出した。まったくもって意味が分からない……。


「僕の電話番号って藤崎グループでシェアされてるんじゃないの?」

「はぁ〜〜? 何のこと? 私、俊君の電話番号知らないわよ!」


「えっ? でも香川さんが…………」

「うっさいわね! もういいわ! 知らないわよ、馬鹿‼︎」


 こんな感じで取り付く島がないといった様子である。


 まったく、このわがままお嬢様は……とは言うものの……ここで藤咲さんの機嫌を損ねると、香川さんから何をされるか分からない。

 下手したら本当に殺されちゃうかも……まったくもって、シャレにならない話である。


「じゃあ、私帰るから!」


 そういう藤咲さんを僕は慌てて引き止める。


「ち、ちょっと待ってよ!」


 そう言って藤咲さんの手首を掴んだ。


「きゃっ?! ……な、何よ!」


 よし。何とか踏み止まってくれた。とりあえず話を聞いてもらわないと。

 でも、こんな所で……そう考え辺りを見回すと、先ほどと同じように、僕達に好奇な視線を浴びせてくる通行人達がいる。


「何よ! 私機嫌が悪いんだから、話がないならさっさと手を離しなさいよ!」

「あ、い、いや、話はあるんだけど……」


 ん?

 僕って今、藤咲さんの手に力を入れてないよね。振りほどこうと思えばいつでも振りほどけるんじゃ……。って事は話を聞く気はあるって事だよね。


「あ、あのさ………」

「だから、何よ! 言いたい事があるなら……」


「家に来て話さない?」


 僕はそう誘った。

 さすがに、みんなが往来している場所で話す内容でも無いし、ましてや、香川さんが何処から見ているか分からない、危険な状況を何とかしたかったからだ。

 でも、よく考えてみると、ものすごく大胆な提案だったと思う。

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