第16話 僕は本当に婚約者を説得出来るのか?!

 そんな事を考えている僕に、藤咲さんは泣きはらした瞳を向ける。


「何よ、早く電話に出なさいよ!」

「い、いや……」


「早く!」

「はい……」


 死刑台に向かう囚人のような気持ちで僕は電話に出る事にした。


「はい、もしも……」

『ああ〜〜〜〜〜〜ん?!!!!!!』


 耳を劈く様な大きな声に、僕は携帯を耳から遠ざける。それを見ていた藤咲さんが声をかけてきた。


「ど、どうしたの? な、何かすごい大声が聞こえてきたんだけど!」

「い、いや……大丈夫」


 携帯の通話口を抑えながらそう藤咲さんに言って、電話してきた香川さんに返答する。


「ど、どうしましたか?」

『どうしましたか? じゃないでしょうが〜〜〜〜っ?!!! お、お嬢様が……お嬢様泣いておられるじゃありませんか〜〜?!!! あ、貴方と言う男は……ほんっ〜〜と〜〜にクソ野郎ですね!!』


 く、くそ野郎って……。やっぱりどこからか見てるのか?


「あ、あのですね、落ち着いて僕の話しを聞いて下さい」

『…………』


 携帯の向こうから無言のプレッシャーを感じる。


「よ、よく……僕にもよく分からないんですよ! な、何で藤咲さんが泣いているのか」

『黙りなさい! そういう所がクソ野郎なんですよ!!』


 …………うっ……。

 言葉の棘が……いや、言葉のナイフが僕の胸に突き刺さる。


『いいですか時任様? この際、貴方が鈍いのはどうでもよいとして、今一番重要な事は貴方の目の前でお嬢様が泣いている事です! 至急なんとかしなさい!!』


 僕はうなだれながら何とか返答する。


「……とおっしゃいますが、僕に何をしろと言うんですか?」

『それは自分で考えなさい! とりあえずお嬢様が泣き止まない時には、貴方の体に風穴が開くって事を理解しておく事ですね!!』


 えーっ! そんな投げっぱなしな〜〜!!


 僕は香川さんの理不尽な答えに頭を抱えた。


『分かりましたか? クソ野郎!』


 そう言って香川さんは一方的に電話を切った。


 ま、本気まじでどうしよう。

 藤崎さんの機嫌の悪くなった理由が分からないからなだめようが無い。かと言って、このままだと、僕の身体に複数の風穴が開くのは確定だ。

 いったい、どうすれば…………。

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