第15話 僕は婚約者を説得出来る?

 僕が教室を出る時にクラスメイト達のざわざわした声が耳に入ってくる。


「えっ?! こ、これってどういう事?」

「いや、私に聞かれても……何がなんだか……」

「な、何で藤村さん怒って教室出て行ったの?」

「それも謎だが、その後、何故、時任は藤村さんを追いかけるようにして教室を出て行ったんだ?」


 そんなの僕にも分かんないよ! 逆に僕が教えて欲しいよ!


 教室をひとつ、ふたつと過ぎ、下駄箱のある所まで来るが、藤崎さんの姿は見えない。


「くそっ! もう外に出たしまったのか!」


 僕は急いで靴を履き替え、校舎の外に飛び出す。

 校門の所まで来て、左右を見ると、藤崎さんが歩いている姿があった。


「藤崎さん!」


 僕の声を聞いて、藤崎さんは僕から逃げるようにして走って行く。


「…………」

「藤村さんてばっ!」


「…………」

「ね、ねえ! き、聞こえてるんでしょ!む、無視しないでよ!」


 そう言って息を切らしながら逃げる藤崎さんを走って追いかける。

 そして、僕は商店街に入る手前の所でようやく追いついて、何とか藤咲さんの前に回りこんで行く手を遮る。


「……ま」


 藤咲さんの小さい声に思わず聞き返す。


「えっ、何?」

「邪魔って言ってるのよ! 馬鹿!!」


 いきなり、手をグーに握って殴りかかってくる。

 僕はその手を手のひらで受け止める。


「そこまでして怒る事ないだろ! 大体、何に対して怒ってるのか分からないし………」


「う、うるさいうるさいうるさーい!!?!うぅ〜……っ……」


 いきなり激しく声を荒げたと思ったら、握っていた手を開いて顔を覆い泣きだした。


「えっ? ……な、何?」


 いきなり道の真ん中で藤崎さんに泣かれて僕はパニックになっていた。


「ちょっ?! ふ、藤咲さん? な、な、何で泣いてるの?」

「う、自惚れないでよ馬鹿! べ、別に泣いてなんてないわよ!!」


 藤咲さんは大声でそう叫んだ。

 僕はオロオロしながら周りを見渡した。買い物帰りの主婦達や学生達が周りで僕たちのやり取りを好奇な目で見ていた。


「いやね〜、最近の若い子達って……」

「本当よ〜。こんな道端で……一体何考えてるのかしら?」


「おい、見てみろよ! 面白いもんやってるぜ」

「何々……うおっ! ひゃ〜こんな所で喧嘩なんて……しかし、あんないい女泣かせるなんてあの男……相当のクズだな!!」


「ねえねえ! ちょっと見てみ〜。マジウケるんですけど! こんな所で修羅ばってるし〜」

「えっ……ぷはっ?! 何アレ? ……しかも、男のあたふたぶりが笑えるし〜……情けな!」


 うっ……何でこんな事に……。


「ふ、藤咲さん?」

「な、何よ! ……うぅ……」


 泣きながら僕を睨んでくる藤咲さん。


 その時だった。

 突然僕の携帯の着信音が鳴り響いた。


 こ、こんな時に誰だよ!


 少しイラつきながら着信画面を確認する。

 えっ! 香川さん!

 その画面を確認にした僕は、一瞬にして体の温度が下がっていった。


『当てますから……当てますから……当てます……』


 頭に繰り返しこだまする香川さんの声。


 僕は辺りをキョロキョロと見渡す。そんな僕の焦りとは関係なしに、電話は催促するかのように鳴り続けている。脳裏にこのまま切るかという選択肢も生まれたのだが、後が怖すぎると思いそれもできない。

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