第3話 知っている事は話したい人の性(サガ)

 今日も疲れている。仕事に追われ休む暇もない。目の前がデスクなら救いもあるが、今日も頭が少し大きめの坊主で黄色い帽子をかぶった小学一年生男子が目の前にいる。帽子のゴムひもがよれよれで役に立っているのかは定かではない。

 どうした今日はごきげんだな。そうか図工で車を作ったんだった。それを軽快に道無き室内で走らせる。人身事故に気をつけろよ。席に座っていると

「先生んとこ赤ちゃんいる?」

 と急停止してきた。最近妹か弟かが知らんができたからだろう。当然の成り行き。

「いないよ」

 と一言笑顔で返す。

「え?なんでいないの!?ぼくんちいるよ」

 目は不思議な物を見ているかのように輝く。

「じゃあ、私に赤ちゃんちょうだい」

 と冗談を言ってみた。

「ダメだよーぼくんちの赤ちゃんだよー」

 と車を反対向きにしてどこかに行った。勉強しろよと後姿を見送ったが、また帰ってきた。何か用事かと構えていると

「赤ちゃんってね小さいよ」

 そう言い残して坊主は再びエコカーを走らせた。先生のお家には赤ちゃんはいませんが、赤ちゃんがどういうものかはわかっているつもりです。

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