第9話 新たな魔導士②
八尋はその後、一年一組の教室に行き夢乃の居場所をその場にいた一年生に聞いたところ、教室にはいないらしく、学生証を渡して素早く去った。
自分の教室に戻り、スマホを触っていたユウタの頬にビンタをしてストレスを解消し、昼の授業を受けるのであった。
そして、放課後。
今日、八尋と由佳莉は今朝屋上で話して以来一度も会話していない。もちろん話すタイミングは無数にあった。
しかし、由佳莉はクラスでは孤立しているため誰も寄らないのである。
何といっても一年のころにあの“アンダーグラウンド”の素の口調で物事をしていたとのこと。あれだけ強気な性格で迫られたら流石に誰だって怖気づいてしまうものだ。
八尋にとっては昨日掃除のときに会話した由佳莉が本当の口調であると思っていたが、アレはただの猫かぶりであろう、となんとなく自分の中で納得がいってしまったのは仕方のないことである。
ただ、由佳莉自身かなりの美人であることは間違いない。男を手玉に取ることだなんて赤子の手をひねるようなものだと思っていたが、ユウタに聞いてみたところ言い寄ってくる男は現在皆無らしく、それほど彼女の性格の悪さには秀でるものがあるみたいであった。
「四十秒遅刻!!」
「それくらい許してよ」
時間にも厳しく、四時半に校門前に集合との連絡をもらったと思えばこの様である。
「……、まあ良くないけど最初だし許してあげる」
「そりゃどうも。で、これからどうするの?」
そういうと由佳莉は先に歩き出し、少し後ろから八尋は付いていく。
「パトロールよ、“マーレ”がこの町にいないかどうかのね」
「え、もしそれで遭遇したら……?」
「もちろん戦うわ。大丈夫よ、昨日と同じようにすれば」
「えぇ……」
あんまり戦闘については覚えてないしなぁ、とかなり消極的な様子である。
そんな姿を見て大きなため息をつく由佳莉である。
「はぁ、まあ今日は出たとしても大した相手じゃないし、どうとでもなるわ。それよりも、今朝の話には続きがあったのよ。アンタ頭の中パンクしそうになっていたからあの時は少し早めに切り上げたけど」
「え、なんか噂では鬼のような性格って聞いてたけど意外と優しいところあるじゃん」
なぜか頬が緩んでしまう。
「べっ、別にそういう深い意味はないし――、って一応アンタのこと蔑んだ言い方のつもりだったんだけど……」
「あ、そうなんだね……」
蔑まれたのに気が付かなかったとは死んでも言えない。
「ところで今朝の続きって?」
「そうね、私について言おうかしら。私は神田由佳莉、上級魔導士よ。使える詠唱(ルーン)は現在一つもないため、戦闘スタイルは太刀一本の前線タイプにしたわ、あと、この町には高校入学とともに配属されたわ。だから、1年と少しってところね。高校卒業まではいる予定だからだいたい今が折り返しって感じね」
由佳莉はどこか馴れた口調で話す。
「じゃあ、次僕が――」
「その必要はないわ。だいたい知っているわ、明石八尋、17歳。5月21日生まれ。身長170.2㎝、体じ――――」
「知りすぎでは!?」
なんで知ってるの? 昨日話したばかりなのに。
「そうそう、パソコンのお気に入りの『新しいフォルダ2』はお母さんに見られる前に消した方が身のためよ」
「それ以上はやめて!!」
パソコンの中まで知ってるって何者だよ本当に。
「これくらいにして、私がこうやって調べてきた魔導省という場所には大抵のことが記されているわ。そこは魔導士を抱える巨大な軍団で、その軍団を“ヴォーノ”と総称しているわ。魔導省は特殊な“ゲート”を使わないと行けない場所にあるの」
そして、と一拍おき、
「私は今ある事件に巻き込まれて魔力が使えなくなっているの。そして、その特殊な“ゲート”は多分に魔力を消費する詠唱(ルーン)で私は魔導省に戻ることができなくなっているのよ」
「でもさっき卒業まではこの町にいるって」
「それは予定、って言ったでしょ。もし、私が魔力を取り戻すことに成功したなら魔導省に帰るわ」
「帰るんだ……」
なんだか少し心がギュッと締め付けられたような気持ちになる。
「とは言っても私にはそれだけの力がないわ。ただアンタ――、八尋と組めば可能性は大いにあるわ」
「僕と?」
「ええ、そうよ。いくら私が上級魔導士といえど、流石に魔力なしにあの『アモン』と戦えはしないからね……」
「ア、アモンって?」
「私から魔力を奪い、そして、八尋から記憶を奪い去った張本人よ!」
え、なぜそこで僕の名前が出てくる?
「僕は以前そのアモンと出会っているの……?」
「そうね、ただ私から言えることはこれくらいね。これ以上の説明は魔導省から止められているのよ。無理やり昔のことを私が教え込んでいったら、アンタは処理が追い付かなくなって最悪死に至るから、らしいわ。お偉いさん方はそういう判断をし、魔導伝達で――、メールのようなもので私はそう聞いたわ」
どういうことだ……、昔の僕はなにしていたんだ……? ふと思い出そうとしても、何一つ思い出すことが出来ない。思い出そうとすると頭の中にノイズが走って逆に腹が立つだけであった。
「そこで、こういう取引はどうかしら。私は魔導省に帰りたいけど『アモン』に力を奪われてそれが出来ない。アンタは記憶を『アモン』から取り戻したい。共通の敵がいる私たちなんだけど……、手を組んでみない?」
「……、その『アモン』ってやつを倒せばちゃんと記憶は戻るの?」
「ええ、昨日のゴブリンは下等生物だからアンダーグラウンドにいるだけで快感を覚えていたのだけれど、『アモン』のような高等生物――、通称、悪魔はそれだけじゃなく人間や魔導士から色んなものを奪い取るのよ。力の源や記憶、最悪なのは命を奪うものまで様々いるけれど、悪魔は昨日のように消滅させることが出来れば奪われたものは本人のところに戻っていくのよ」
「そうなんだ……、分かったよ、協力しない理由はないからね」
そうして、八尋と由佳莉はタッグを組んだのであった。
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