第7話 新たな出会いと未知との遭遇⑥
「と、いうと?」
「そのままの意味よ。女の子と付き合って登校することは昨日とは意味合いが違うの。心情をごまかすことなくそのままこの世界は映しているのよ。そして、ここはその人の脳内イメージで保管している場所なの。だからホラ」
由佳莉は屋上の端を指さす。端といっても八尋達がたっているその場所ではあるが。
「え、アレ、屋上ってこんなに小さくなかったよね?」
「そうね、少なくとも倍の面積はあったわ。でも、これは彼の世界。彼の中では屋上はこのくらいの面積なのよ」
「な、なるほど」
辺りを見渡してみると確かにいろいろ変わっているところがあった。校庭がわずかに大きかったり、校門は狭くなっていたりしていた。
「じゃあ、この色にはどんな意味があるの?」
「色ボケしている、といえば分かりやすいかしら」
「一度あの野郎分からせておかなきゃね……」
どうやってユウタを捻りつぶすか今から楽しみにしよう。
「こういう鮮やかで明るい色をしている人間は大丈夫なの。“マーレ”はこういう人間には入ってこない。問題はこれと逆の陰気で暗い色をしている人間のところよ」
「昨日の香菜みたいな灰色ってことか」
「そうね、彼女の色は“マーレ”からすれば定番の拠所ね。明るい色が幸せだとしたら、暗い色は不幸。あいつらはそういう人間の心の中に入り、住み家にしたり操って自分の中の魔力を蓄えたりしているのよ」
「その状況はやっぱりマズいの?」
素朴の疑問だが、ここは聞いておかないといけない。
「そりゃ、アンタの家にゴキブリいたらイヤでしょ?」
「最悪だね、今でも戦う気力は起こらないね……」
「それと同じことよ。でも、ゴキブリにしたら住みやすい家だからそこで暮らしたくなるのは当然でしょ。ただ、それだけじゃないのよ。“マーレ”はその人間から少しでも魔力を奪おうとするのよ。そして、アイツらは鈍い系の色の世界――、アンダーグラウンドと呼ばれる人間の心の中に虱潰しに侵入しているのよ」
「……、今ザックリと聞いたばかりだけどなんとなく“マーレ”の連中は悪い奴ってのはわかったよ」
「それだけが分かれば今はいいわ。さて、それじゃあ一度ここから出ましょうか――、と言っても出方を教えてなかったわね。アンダーグラウンドは昨日みたいに敵を排除した瞬間に自動的に戻るけど、正常なココは『ゲート』という脱出詠唱をすればもとの場所に戻るわ。ちなみに、今長々と話したけど、外の現実は一秒たりとも動いていないわ」
「精神と〇の部屋みたいな?」
「下んないこと言ってる前にここから出るわよ」
そうして、二人は詠唱をする。
瞬く間に辺り一面が桜色の世界からいつも通りの風景が広がる。
「あ、ホントだ。まだホームルームまで時間があるね」
腕時計を確認しつつそう答える。
「なによ、疑ってたの?」
いや、そういうわけじゃないけど……。
「さて、次はカップルの女の人に入るわよ。もしかしたら面白いことが起こるかもしれないわよ」
「え、面白いことって?」
「まあいいから早く詠唱しなさい」
「さっき出たばっかりなのに……、バディスタ!」
狙いを裕太の彼女の方に向けながら言う。
というか、これどういう仕組みで人の心に入り込んでるんだろ? と疑問に思ったのと同時に世界がまたもピンク色に染まる――――、と思いきや昨日、香菜の心の中に入った時と同じ灰色であった。
「アンタ、これどういう意味か分かる?」
またも後ろから由佳莉は声をかける。
「え、どうして裕太と同じ色じゃないの?」
「私はそれをあなたにクイズしているのよ!」
試験監督にでもなりきっているのであろうか、なぜか得意げに問題を出してきた。
「ヒントは心情が世界の色に関係していることよ」
「んー、心情かぁ……。ピンク色は幸せって感じだったから、今は不幸ってこと?」
「そうね、不幸って言い方はちょっとキツ過ぎる気もするけれど……。概ねはそれでいいわ。詳しく言えば、暗い系の世界は『アンダーグラウンド』と私たちは言っているわ。アンダーグラウンドは憂鬱、思い残し、罪悪感――、など枚挙にいとまがないけれど、介してマイナスな心を持っているとなるわ。そして、ココは昨日みたいな敵が潜んでいる可能性が大いにあるから気を付けて」
「え、じゃあ戦闘態勢にならなきゃ!!」
由佳莉は片手で準備をしようとする八尋を止める。
「いいえ、ここにはいないわ」
「なんでわかるの?」
「アンタは昨日が初めてだったから分からなかったんだろうけど、“マーレ”達からは特有の臭いが発せられてるのよ。それはアンダーグラウンドにいても普通の世界にいても感じられるわ」
あの臭いだけは一生慣れないわ、とぼやく。
「そ、そうなんだ……。いないと分かれば安心だね」
「それより、彼女の心情の話よ」
「あっと、そうだね。彼女はユウタとラブラブだったじゃん、少なくとも今の心情は明るい系の色だと思うけど」
ふふ、と不敵な笑みを浮かべる彼女に少しゾクっ、とする。
「それは、彼女はそういう風に思っていないってことよ。さっきの男の方は勝手に早とちりして勘違いしてるバカってことね」
八尋、と名前を呼ばれ背筋がなぜか伸びる。
「女は怖い生き物だからあんまり逆らわない方がいいわよ」
「は、はいっ!!」
警告なのか自分を人より優位に立たせたいのか分からないけど、この場ではなぜか彼女に大人しく従おう、と決意を固めるのであった。
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