第6話 新たな出会いと未知との遭遇⑤
「で、説明してもらおうか神田さん」
朝のホームルーム前に八尋は由佳莉を屋上に呼び出し、昨日のことを改めて聞き直そうとしていた。
ゴブリンを倒した後、普通の寺田ベーカリーに戻った世界を見て一安心の八尋だったが、緊張感が急に解れたせいかどっと疲れが滝のように湧き出て、気になることは山のようにあるがとりあえず帰宅することにしたのである。
もっとも、香菜は、
「アンタたち何しに来たのよ!!」
と怒鳴ってはいたが。当然の反応だ。
「そうね、どこから話せばいいのかしら」
由佳莉は顎に手を当て考える。
黙ってさえいれば本当に美人なのにこの高校の男子が言い寄らない理由は昨日学んだ気がする。
「そうね、まず正体から話しましょうか。私はこの世界とは違う世界から来た魔導士よ」
綺麗な黒色の髪が夏の涼風でなびかせながらそう言った。
「あー、そういうアレね。うんうん、今そういうのが流行ってるんだねー、へー」
なんとなく理解しちゃ負けな気がした。
「ちなみにアンタもこの世界出身じゃないわよ」
「オッケー、そんな気がしてたんだよね――、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ? ぼ、僕も?」
「驚きすぎよ、半分ウソよ」
「ツッコミどころ多すぎてどこからツッコむのが一番被害少ないのか少し考えさせて」
「アンタの中には私と同じ魔導士としての血が混ざっているわ。先祖が魔導士でこの世界の人間と結婚したのかしらね。だから半分は魔導士のようなものよ」
なんてこった。
「大体そういう魔力概念を受け継がれた人間は生まれた時が一番魔力を持っていて、日がたつにつれ徐々に消えていくのよ。もしくは、魔力を一気に使用したら」
ふむふむ。
「その魔力って結局なんなの?」
「その人自身の力よ。ただ、魔力玉(プール)っていう――まあ魔力版の心臓ね、それは魔導士ごとにも異なっているのよ。魔導士には脳内のイメージで水晶玉のようなものがパッってでてくるんだけど、その中に液体があってそれが魔力なの」
「ってことは僕もその水晶玉をイメージできるの?」
「そうね、試しにイメージしてみて。肩の力を抜いて自分の中にある水晶玉をイメージしてみて」
一度大きめの深呼吸をしてなんとなく目をつぶる。水晶玉をイメージって言われても実際にそんな高価なもの見たことないんだよね……。なんとなく透明な球体って感じかなぁ。
すると、八尋の脳内が何かを認識する。物理的には見ることができないが暗闇の中に神々しく輝く球体があった。
大きさでいえばバレーボールくらいではあったが、その中にはさきほど由佳莉が言っていた液体のようなものも入っていた。満タンギリギリぐらいまで入っているそれは昨日のレーザー光線と同じような綺麗な水色をしていた。
「神田さん、なんとなくわかっ――、ってうおっ?」
「魔力玉はどのくらいの大きさだった?」
さすがに巨体であったゴブリンを倒したとはいえ、目の前に美少女がこちらの顔を間近でガン見していたらビビる。
「えーっと、基準が分からないからなんとも言えないけどバレーボールくらいの大きさだったと思うよ」
その言葉を聞き、由佳莉は安心したかのように息を吐く。
「そう、よかったわ……。あ、言い忘れたけどその魔力玉が大きいほど魔導士としては優秀な証だから」
「ねえ、それなにが良かったのかな? 雑魚って再認識したってこと?」
「えっ? そ、そうね。ちなみに私は東京ドームくらいの大きさだから安心して」
「でかすぎるよねそれ!! ってかそれって神田さんに比べて僕の原子並みじゃん?」
よくよく考えたらもうそれ水晶玉の例えまったく必要なかったよね……。
「さすがに東京ドームは言い過ぎたけど、自転車のタイヤくらいよ私は」
「なぜかすごくショボく見えてきたよ……」
「うっさいわね、文句ばっかりじゃないの」
ムスっ、とそっぽを向く由佳莉はこうして黙っておとなしくしておけば今頃は学校内のヒロインだったろう。生憎、彼女にはそういう肩書はいらなそうではあるが。
「あ、でもこの横暴な態度は灰色の世界専用なんだっけ」
「なによ殺されたいの」
「冗談です」
なにもあの世界だけの話ではなさそうだし、以後気を付けよう……。
「――、フン。まあ、いいわ。そうね、まずその灰色の世界について話そうかしら。あれは、アンタの幼馴染の心の中とは昨日説明したわよね」
「うん、そうだね。未だに理解できないけど」
あんなトンデモ体験をしておいてやっぱ夢オチでした! ってなったら今の僕の気分はどれだけ晴れやかだっただろう。
「ならあそこの浮ついてるカップル――、そうね男に潜入詠唱をかけて」
屋上から見える景色の一部である登校中の学生カップルがよく見えた。男女もいい笑顔でどこからどう見てもお似合いのカップルであった。
しかし、よく見ると八尋の友達である山谷裕太であった。
「アイツ、彼女いたのか? 朝からイチャイチャしやがって……。え、潜入詠唱って?」
由佳莉は今日何度目か分からないため息をつく。
「そこからなのね……、昨日幼馴染にかけたでしょ。詠唱にはほかにも種類があって『攻撃詠唱』『防御詠唱』、それと一部の『特殊詠唱』があるのよ。それはまたいずれ教えるわ。とりあえず、入りなさい」
一気に難しい言葉を聞かされ脳内処理が追い付かないが、渋々頷く。
「「バディスタ!」」
すると、昨日同様に一瞬で世界の色合いが変わる。
「あ、あれ、ピンク色……?」
だが色合いはかなり変わっていた。香菜の時は灰色であった世界も、今はピンク、というより桜色をしていた。
「そうね、あの男の心の中は絶賛ピンク色というわけよ」
いつの間にか入っていた由佳莉が予想通りと言わんばかりの顔をしながら言う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます