死戦の地中海(Bloody Mediterranean)

ドキュメント世界大戦5(Report of report 5th)

ドイツ帝国機密報告 83 / コードSDN4481510MN-DS

機密区分<国家機密>

対合衆国陽動作戦「鉄杭アイゼンファル」の戦果及び波及事項について


総統代行へ謹んでご報告申し上げます。

対合衆国陽動作戦「鉄杭」は成功裡に完遂いたしました。


本作戦により合衆国及び英日軍は、長期間にわたりカリブ海及び南米に拘束されることでしょう。連合国側の人的損失も莫大なものになり、補填のため北米大陸のオンタリオ方面より連合国は兵員を移送しております。北米戦線の脆弱化は免れないでしょう。パナマ会議によって、停戦が決議されたとはいえ、戦力の完全回復には数年かかる見通しです。


中米地域における合衆国の策源地も損耗し、物資の大半を喪失しました。特にグアンタナモ基地が被った損害が致命的で、カリブ海の航空及び海上優勢を保持できなくなりました。これは我が軍にとって僥倖となります。この機会を逃すことなく、ハバナに強固な拠点を築き、同地を恒久的な支配下に置きます。


また、これらに加えてパナマ運河の交通量は著しく低下し、船舶の隻数に換算して1日10隻程度となりました。これは往時の50パーセント以下にまで落ち込んだことを意味します。我々は日本の駆逐艦に感謝すべきかもしれません。かの艦はパナマ運河の破壊に少なからず貢献いたしました。もちろん、これらの戦果全ては閣下の麾下にある武装親衛隊の工作によるものです。日本人は踊らされたにすぎません。


残念ながらパナマ会議の阻止は失敗しましたが、この責は現地の実行部隊が負うべきものだと判断します。彼らは日本軍の第十三独立支隊に対する妨害工作も、不十分な戦果のまま終えております。反面、バティスタの暗殺及び魔導機関の技術資料奪取は成功しているため、今回に限り、処分は保留とし、戦力の補強と監督の強化を行ったうえで、名誉回復の機会を与えるべきではないかと愚考いたします。


最終的な戦果は未確定ですが、我々は貴重な時間を手に入れることに成功いたしました。


(中略)


……続いて、「鉄杭」が及ぼした波及効果について、ご報告いたします。


まず南米における工作も順調に進んでおりますので、ご安心ください。アルゼンチン政府との秘密協定も滞りなく結ばれました。また、こちらとは別にブラジル政府に対して積極的な介入を行う用意も出来ております。同国は日本が接近してきており、また国内における日系移民の影響も無視できません。場合によっては実力行使による排除も検討に加えるべきかと考えます。


英国政府の動向も懸念されます。「鉄杭」によりカリブ海に一定の戦力を誘引することができましたが、北アフリカおよびジブラルタル、マルタ、キプロスの駐留部隊は未だに健在です。これらはバルカン半島における我が軍の行動を制限するものです。


ここにおいて我々が取るべき行動は明白かと考えます。すなわち地中海における連合国の影響力低下、望ましくは無力化です。幸いなことに、我々は神の火を手に入れております。また月の子も我々との協力関係を維持しております。現状を最大限に活かすためにも、バルカン工作の前倒しいたします。


追伸

海軍より<ヨイヅキ>をロストしたと報告がありました。最終的な捕捉位置はバーブーダ島北西40海里。針路は北北西とのことです。至急、Uボートによる警戒線を北大西洋に展開するよう進言いたします。


ハイル・ヒトラー。

ハイル・ハイドリヒ。


アルフレート・ヘルムート・ナウヨックスSS中佐 対米工作担当



戦争は限度など守りはせぬ。抜き身の剣の行く手を制し、それを塞ぐなど、容易にはかなわぬ。

セネカ『狂えるヘラクレス』



海だ、海だ

クセノポン『アナバシス』



昔トロイアがあったところは、今は麦畑になって、プリュギア人の血で肥えた土が、鎌で刈り入れられるばかりに、生き生きと穂が伸びているでしょう。

オウィディウス『名婦の書簡』



目標は地中海

ムスタファ・ケマル・アタテュルク


◇========◇

次回9月2日(木)に投稿予定

ここまで読んでいただき、有り難うございます。

引き続き、よろしくお願いいたします。

弐進座

◇追伸◇

書籍化に向けて動きます。

まだ確定ではありませんので、

実現のために応援のほどお願いいたします。

(主に作者と作品の寿命が延びます)

詳細につきましては、作者のTwitter(弐進座)

もしくは、活動報告(2021年6月23日)を

ご参照いただけますと幸いです。

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