カリビアン・ロンド(Round dance) 18
六反田はしげしげと写真を拝むと、テーブルに戻した。
「それで、君らは何をお望みだろうか」
グラスを揺らす。スモーキーな香りが鼻先に広がった。
「我々はナチス・ドイツの打倒を望んでいます」
「そうだろうね」
「昨年、彼らは北米へ派遣した科学者を本国へ呼び戻し、大幅に軍を再編しました。今や装甲師団だけでも30個近い規模まで回復し、それらは全て旧ポーランド国境沿いに配備されています。この意味はあきらかです」
「レニンBMが回答だ。なぜレニングラードへ反応弾を撃ち込んだのか。そいつの意味を考えれば、自ずとたどり着く。要するにバルバロッサの再来というわけだ」
「
「まさかとは思うが、我々に冬将軍の代わりを務めろとは言うまいね?」
「まさか」
「ならば安心したよ。寒いところは得意じゃないんだ。まあ、ドイツの侵攻開始の時期を考えるにロシアは夏だろうから、まだマシか。いずれにしろ無理筋な話だな」
「ええ、我々とて正面からドイツ軍に対峙する余裕はありません。東部戦線は魔獣とBMの働きに期待するほかないでしょう。我々にとっての天敵が彼ら最大の障害となるわけです」
「ドイツが反応弾頭を何発持っているかで、だいぶ話がかわってくるな。やれやれ厄介な不確定要素だ。貴国らは把握しているのかね」
アルフレッドは首を振った。
「残念ながら。しかし、通常兵器だけではBMの破壊は困難です。特に内陸部のBMの破壊には、反応弾は必須でしょう」
「だろうな」
六反田はグラスを飲み干した。さて、ロシアのBMはいくつだった。
「だいたい話の筋は読めてきた。貴国らにとっても、喫緊の課題は北米戦線の安定化のはずだ。合衆国本土のみならず、カナダを抱えているからな。そして合衆国はいわずもがな。つまり欧州で、はた迷惑な火事場泥棒が現れても、そいつはやりたい放題。そういうことだろう」
アルフレッドは苦笑しつつも、肯定した。
「しかし、やはり我が国は見過ごすことはできない」
「わかった。では聞こうか。我々に何をさせたいのかね?」
アルフレッドは立ち上がると、六反田を促した。グラスを持ったまま、ついていく。彼はすぐそばにある世界地図で足をとめた。
「あなたがたには巡行をお願いしたい」
指先がパナマからカリブ海、大西洋を横切った。そのままジブラルタル、マルタをなぞり、到達点は──。
「バルカン半島か」
アテネで止まっていた。
「はい。我々はギリシャ亡命政府と東欧諸国に呼びかけて、バルカン解放作戦を実施します。ああ。もちろん、
六反田はヤクザのような含み笑いを浮かべた。
「かなうならば星すらも併合したい、かね」
アルフレッドは心外とばかりに肩をすくめた。
「いいえ、滅相もない。ただやるべきことが多さに比べ、できることが少ないのです」
かつて帝国主義時代を切り開いた植民相セシル・ローズの言葉で応酬されていた。
ローズの時代、アフリカ大陸は列強諸国による熾烈な領土争奪戦が繰り広げられていた。ローズはカイロ、ケープタウン、カルカッタを鉄道でつなぐ植民地政策を推進、アフリカにおける大英帝国の版図を拡大させた。英国は他の列強に先んじてアフリカを切り取り、その影響力はBM出現後も継続している。
六反田は東欧をかつてのアフリカ大陸に重ねていた。
ドイツに東欧全てを切り取られる前に、英国はバルカン半島に楔を打ち込むつもりなのだ。
「なるほどねえ。バルカン半島ならば地中海経由で兵站を維持できるか」
「それに加えて、我が国は現地の抵抗組織とも通じています。さきほどのお見せした誘導弾の資料も彼ら経由で入手したのものです」
「そいつはすごい」
「アドミラル六反田。あなた方には同盟国軍として、この解放作戦に参加していただきたいのです。あなたと、あの魔導駆逐艦ならば内陸にあるBMにも対抗可能です。なによりも、現地における我々のプレゼンスをドイツは無視できなくなる。彼らは東欧の支配が容易ではないと悟るでしょう」
「理に適っているな。しかし、それだけ大層な案件となると相応のお代をいただくことになる。貴国らに、その用建てはあるかね?」
アルフレッドは、いくつか条件を提示した。英国情報部の極秘資料の開示、
六反田は悪代官のように、それら一つ一つを吟味した。
「いかがですか、アドミラル?」
「どれもこれも大変魅力的だ」
その双眸をぎらつかせながら、六反田は言った。
「それでは──」
「しかしながら、今回は見送らせてもらいたい」
室内に沈黙が訪れた。
◇========◇
次回2月21日(日)に投稿予定
【重要】
近々タイトルの一部を変更しようかと考えています。
「レッドサンブラックムーン」は残しますが、副題の「大日本帝国~」部分の変更を検討中です。
3月までに結論を出そうと考えています。
ここまでご拝読、有り難うございます。
よろしければ、ご感想や評価をいただけますと幸いです。
(本当に励みになります)
弐進座
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