カリビアン・ロンド(Round dance) 10
爆発の瞬間、とっさに儀堂は伏せた。数秒の放心のあとで、恐怖と怒りが同時に湧き上がってくる。
市街地のど真ん中を爆破するとは、どういう神経なのだ。
爆心地から離れていたのだろうか。それとも威力は抑えられていたのか。さもなくば、自ら伏せるなどできようはずがない。その前に、吹き飛ばされているだろう。
自分の見積もりの甘さを罵倒したくなった。人目が多ければ、過激な手段を取らないだろうと思い込んでいた。畜生め、俺も優しくなったものだ。
よろけながらも半身を起こし、視力を回復させる。粉塵であたりの視界は悪化している。
狙いは、俺か?
殺害や破壊目的ならば、初撃で仕留めようとしているはずだ。
いずれでもないとしたら。
後頭部に一撃が加えられたのは、そのときだった。
意識が途絶える間際に、儀堂は気が付いた。
こいつは狩りだ。俺はまんまと罠へ──。
◇
目が覚めると、ほの暗い室内に儀堂はいた。
ぼんやりとした意識が徐々に感覚を取り戻し、後頭部に鋭い痛みが走った。思わず手を当てようとして、自分が椅子に縛り付けられていることに気が付く。
徐々に視界が鮮明になり、輪郭を取り戻していった。どうやら自分は拉致され、どこかの密室に拘束されているらしい。街の喧騒が聞こえないことから、地下なのかもしれない。あるいは郊外か。とにかく情報が欲しかった。
儀堂はあたりを見回した。椅子は床に固定され、首の旋回範囲しかとらえることができない。裸電球が一つだけぶら下がり、ゆらゆらと揺れている。天井には配線がめぐらされ、壁にはパイプ管がめぐらされている。他に手がかりらしいものはない。
一つだけ気が付いたことがある。さほど汗をかいていない。室温が低いのだ。空調の音が聞こえないことから、やはりどこかの地下ではないかとあたりをつける。
しばらくすると、断続的な足音が聞こえてきた。儀堂は意識を失ったふりをした。
後方から扉が開く音がする。そのまま複数の足音が室内に入り、立ち止まった。少なくとも3人以上の集団だ。
「起きろ」
日本語だ。特有のなまりがある。西洋人か。
しばらく無視して、相手の出方を伺うつもりだったが、強制的に中断された。
目の奥が焼き付くような光に覆われ、全身の神経が悲鳴を上げ、筋肉がのたうち回った。激痛に声を上げると、すぐに止んだ。
「起きたな」
肩で息をしながら、儀堂は返事をした。
「電気か」
「
フランス語だ。意外な正体に困惑する。拷問者は丁寧に仕組みを説明し始めた。
「お前の両手、両足に電極をつないでいる」
「ずいぶんと用意がいいな。目的はなんだ?」
回答はしばらくなかった。
しびれを切らして、儀堂は尋ねなおした。
「聞こえてないのか。いまどき奴隷狩りというわけでもないだろう」
相手が噴き出すのが分かった。ますます混乱してくる。
「ああ、すまない。目的だったな。はっきり言うが、特にない」
今度は儀堂が黙り込んだ。聞き間違いかと思った。
「ふざけているのか」
「いいや。目的はない。しいて言うならば、お前をここに監禁し続けることだ。それが目的だな」
「なんのために?」
「さあな。安心しろ。大人しくしていれば、傷めつけはしない」
男はそう言うと、部屋から出ていった。遠ざかる足音は一つだけだ。
室内には、まだだれか残っている。
「おい、お前たち──」
電気が流され、儀堂は気を失った。
◇========◇
次回1月24日(日)に投稿予定
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弐進座
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