第69話 「私だったらそんな思いさせないよ」

 今回は莉歌目線の一人称となります。



 ******


「あぁ、そうそう。あのカップルっぽいの。わかります?」


「はい、大丈夫です」


「もし釣れそうな顔じゃなかったら、割引券作戦に切り替えてください。男性の方は怪しがると思いますが無視してもらって構いません。あと、成功した後は元々の占い師の足止めお願いします。こちらの要件が終わりましたらすぐに連絡しますので、それまでなんとか持ちこたえてください。それではまもなく作戦開始です」


 よし、ここまでは順調、順調。


 ***


「あの、鈴木先生の席はこちらですか?」


「えぇ、あなたは?」


「私、鈴木先生の一番弟子のイチカと申します。先生の休憩の間、勉強がてらに座ってて良いと言われまして……」


「え、そうなの?でも……」


「あ、お客様ですよ!」


 そう言ってささっと空きブースに逃げ込む。

 と同時にカップルが真ん中の席に座った。

 もちろん金で雇ったエキストラさんだけど。


 よし、後はあの二人が無事に釣れるのを待つのみ。

 と、さっそく連絡あり。


「成功しました。女性の方が率先してそちらに向かっています」


「ありがとうございます!では後程」


 さ、ここからが本番。


 ***


 その場しのぎはできるけど、バレないかが心配。

 顔、知られちゃってるからなぁ。


 なんて考えてたら凄い勢いで座ってきた。

 朝倉彩音がめっちゃ興味深々って感じで見てくる。

 ダメだ、笑ってしまう。

 それに……うわぁ~めっちゃ見てくる、孝太郎君。

 そんなに私の占い師コスがお気に入り?

 後で写メ送ってあげるわ。


「さぁ、この中から三枚裏返してください」


 まぁ、どれを裏返されてもタロットなんて全然わかんないんだけどね。

 とりあえずそれっぽい顔で裏返されたカード見つめとけば、雰囲気はでるだろ。


「むぅぅ。これは……あなたに関係ある人物のことが出てます」


 誰にでも当てはまる適当すぎる内容に自分で笑ってしまう。


「あ、あのぅ、まだ何も言ってないんですけど」


「黙って。私はあなたがここに来ることを予見してました。もちろんあなたが言いたいことも全てのわかっています。見えました。心して聞いてください」


 いやいや、なぁんにも見えてねぇし。

 やばい、自分の適当すぎる台詞に吹き出しそう。

 てか、朝倉彩音がめっちゃ真剣にこっち見てくる。

 だめだ、落ち着け、私。

 それにそろそろベルが孝太郎君に電話するはず。


「あなたから去っていく人物。それが私にははっきり見えます。それに……」


「ごめん、ちょっと外す」


 お、ようやく席を立ったか。

 事前にこれするの話してないからきっと怒るだろうな、孝太郎君。

 でもね、全てあなたの為なのよ。


「あなた。あの男性が好きなんでしょ?」


「え、あ」


 うわぁ、めっちゃわかりやすい反応。


「隠しても無駄です。私にはわかります。私のカードは嘘をつきません」


 占う以前にその焦った態度みたらバレバレだけどね。


「実は、色々ありまして。好き、だと思うんですけど。その、私以外にも先輩を好きな人がいるんじゃないかなと思ってまして。その人には勝てないかなって。だったら今の関係のままで諦めた方がいいのかなって」


 ん?いきなりどおした!

 私まだなんにも占い師的なこと言ってないんだけど。


「うん……じゃなかった。そ、そうですね。あなた以外にも先ほどの男性に気持ちを向けている女性はいます。ですが、あなたの引いたカードは違うことを予見しています。あなたの元を去る人物。それは男性です」


 あなた以外に孝太郎君に気持ちを向けている女性ねぇ。

 目の前にいるだけど?

 でもねぇ、好意って一度拒否したらもう向けてもらえないのよね。


「それって、先輩がいなくなってしまうってことですか?」


 はい、そうです。

 なんて簡単には言えないけど、まずは小林と別れるのが先でしょ?

 てか、この子、ちょっとズルくない?

 孝太郎君に気があるって明言しながら、でも小林とはズルズル。

 別れようとしてるみたいだけど、その気になればさっさと別れられるでしょ?

 それかよっぽど自分に自信があるわけ?

 なんかイラついてきた。


「誰のことを指しているかわかりませんが、あなたの元から男性がいなくなるのは確実です。私のカードは嘘をつきません」


「わ、私はどうしたらいいんですか!」


 でた!

 そんなこと自分で考えろよ。

 あんたがぐだぐたしてさっさと小林と別れないからこーやって私があれこれ手を回さなきゃいけないんでしょ?

 ほんとこーゆー被害者ぶる女嫌い。


「『好機』を掴むのです。『好機』はあなたの前にぶら下がっています」


 とりあえず適当にそれっぽい答えでいいや、もう。

 なんかほんとにイライラしてきた。


「『好機』がぶら下がる……は!『四畳半』ですか!」


「うっ!……え、そ、そう」


 は?なに?意味わかんないこと言わないで!


「令和ちゃんが鍵なんだ。きっとそうだ。ありがとうございます!」


 知らねぇよ、誰だよそれ。


 あ、いいところに孝太郎君戻ってきた。

 ベルとなに話したかはわかんないけど、顔をみたらわかる。

 これは怒ってる顔だ。

 とりま、孝太郎君に伏線だけ張っとこう。


「あ、あなたを想ってる人物がすぐ側にいます」


 うん。ここにね。


「お気づきになりませんか?」


 そう聞かれて孝太郎君はどっちが孝太郎君のことを想ってると思うんだろう。

 私か、それとも朝倉彩音か。


「はい。全く」


 おい!

 そこは朝倉彩音が孝太郎君を意識するような台詞を吐けよ!


 孝太郎君が席を立ち、続けて朝倉彩音も席を立った。


 私もやることやったし、さっさとずらかろ。

 もう一仕事残ってるし……。


「ありがとうございました。おかげでいい経験ができました」


 とりあえず隣の占い師さんに社交辞令。


「勉強熱心なんですね」


「はい!鈴木先生によろしくお伝えください」


 全然面識ないけどね。


 ***


 占い師コスから急いで清楚なお姉さんに衣装チェンジ。

 ベルのやつはターゲットを見失ったとかで騒いでどっか行くし。

 私はというと、約束の時間をわざと遅れて、待ち合わせのフードコートへ向かう。

 そこで待ってるのは小林優真。

 孝太郎君はまだ私とこいつが接触してるって気づいてないようだ。


「おまたせ、優真君。待った?」


「いえ、全然大丈夫です」


 嘘つけ。こっちはわざと遅れてんだから待ってたに決まってんだろ!


「ほんとは待ってたんでしょ?正直に言いなさい」


「……はい。気合い入って早く着いちゃいました」


 キモい。

 こいつ何舞い上がってんの?

 こっちは全部演技なのに。

 まぁ、今日で最後にするつもりだからこっちも気合い入れていかないとね。


「ねぇ、彼女さんと上手くいってないってほんと?」


「え!どこからそんな話を?」


「嘘よ。最近、全然元気ないから探ってみただけ」


 リアルに探りに探って全部知ってんだけどな。

 まぁ、長話も疲れるからさっさと落として終わらせるか。

 この日のために、これまでの仕込んできたんだし。


「私だったらそんな思いさせないよ」


「え?」


「私だったら、優真君を悲しませたりしないのにな。って」


 ちょっと重い女かな?

 だる。


「ごめん、あの、なんだろ。私ったら何言ってんのかな?」


 ここで顔を恥ずかしそうに赤く染めれたらいいのに。

 残念ながらこいつには、全くときめかない。


「優真君が彼女さん諦めて私なんて選ぶわけないか……あはは、ごめんね」


 と、いいながらうつ向いて舌を噛む。

 ……痛ってぇー!

 痛いから涙がでてきた。

 とりあえず涙目の上目遣い。


「ごめんね。なんかしらけちゃったね」


 気丈に振る舞いながら、涙目でわざとらしく鼻をすする。

 潤んだ目で見られて、心に響かない男はいない。


「莉歌さん、あの、俺実は……」


「ダメ!それ以上は言ったらダメ」


 なんだこのくさい芝居は。

 我ながら演じてて吐き気がやばいわ。


「莉歌さん!俺、莉歌さんのこと……」


「ダメ!聞きたくない!」


「莉歌さんのことが、好きです!」








 ……はい。落ちました。



 小林優真が私のクソ芝居に熱をあげてる最中、向こうの方で何かの人集りができてる。

 なんか誰かが倒れたっぽいけど、そんなに注目することか?

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