第67話 「SAN値ピンチでワロリンヌ」
青海川に孝太郎への想いを告げられ、亜弥華にうざいから消えろと言われた翌日。
休日を満喫すべく、彩音は一人でとあるショッピングモールにいた。
適当にウィンドウショッピングでもすれば気分が晴れるかと思ったが、一向に晴れない。
二人から目障りだと言われたことが大きな原因だが、それよりも青海川が孝太郎に未練があり、復縁を望んでいることにショックを受けていた。
自分には関係ない、自分には関係ないと何度も心の中で唱えるが、唱えるほどますます気になってしまう。
青海川と孝太郎の間に何があったかもわからず、今でも連絡を取っているかどうかもわからない。
もし、孝太郎も青海川と復縁を望んでいたら自分はどうしたらいいのか。
そうなる前に自分の気持ちを早く伝えなければ。
しかし、その勇気が出てこない。
考えれば考えるほど、昨日の青海川の目の死んだにこにこ顔が浮かんでくる。
それに亜弥華のイメージが崩れたのもショックだった。
亜弥華と孝太郎の関係も気になるが、やはり青海川と孝太郎のことの方を考えてしまう。
「おまたせ」
彩音がそんなことを考えてるとは露知らず、一人の男性がふらっと現れた。
孝太郎である。
もうすぐ千夏の誕生日であり、そのプレゼントを買う名目で彩音はこっそり孝太郎を買い物に誘っていたのだった。
孝太郎も青海川と亜弥華のこともあり、彩音の気持ちを引き留めるためにも二人の時間が欲しかったのだ。
「で、なに買うか決まったの?」
「いえ、まだなんにも思いつかなくて」
千夏へのプレゼントよりも、昨日の青海川のことで頭が一杯だった。
そのせいか、普段よりも元気がなく、声にも覇気がない。
「彩音、体調悪い?」
「あ、い、いえ。なんでもないんです」
「ほんとに?」
「……なんでもは、ないんですけど」
その時、彩音の横を同世代の女性が二人通りすぎた。
「てか、びっくりじゃない?ほんとに当たってるし」
「まぢであそこの占い当たるって有名なんだよ。特にタロットの人なんて人気で列ができるんだから」
「そうなの?今めっちゃ空いてたからラッキーだったんだ」
その女性達は、先ほど自分達が占ってもらった占いの結果をはしゃぎながら言い合っていた。
彩音はその女性達の来た方を見つめ、何を思ったのか早足で歩きだす。
「ちょ、彩音。待てって」
孝太郎は慌てて彩音を止めるが、すたすたと進んでいき、ある催事場所で立ち止まった。
ショッピングモールの片隅に催事扱いで設けられた占いのブース。
彩音はその看板を読みながら、なにやら真剣な顔で一人頷いている。
「先輩、ここ入りましょう」
「入って……何を占うんだ?」
「色々です」
「色々って」
「先輩」
真剣な顔で孝太郎を見上げる。
「先輩は、おみ先輩に未練があるんですか?」
「どうしたんだ、いきなり」
真剣な眼差しに彩音の本気度が伝わり、孝太郎も彩音を見つめ返した。
「ないよ。こないだも言ったけど、未練なんてない」
「でも、もし、おみ先輩が復縁を望んでいたら」
彩音が言い終わるより先に孝太郎は彼女の手を引いて、ブースの中へと入っていった。
「その答えが知りたいんだろ?」
彩音は黙ってこくんと頷いた。
それは暗に彩音から孝太郎へのアピールだったが、孝太郎は敢えて気づかないふりをする。
***
ブースには三人の占い師がそれぞれ衝立を挟んで横並びに待機し、真ん中の占い師は他の客を占っていた。
孝太郎は勢いよく入ったものの、タロットの占い師と目が合うや否や足を止める。
「彩音。左にいこう」
「だめです。右です」
孝太郎の掴み自分の行きたい方へ引き寄せた。
「今日の朝の占いで『迷ったら右』って言ってたんです」
彩音はさっと右のブースに腰掛け、続けて孝太郎も腰をおろす。
「さぁ、この中から三枚裏返してください」
占い師は自分のところに彩音達が座ることを予見していたかのように、すでにタロットカードを並べていた。
彩音が促されるまま無作為に三枚裏返すと占い師は難しい顔つきでカードを覗きこむ。
「むぅぅ。これは……あなたに関係ある人物のことが出てます」
占って欲しい内容を伝える隙を与えず、じっとカードを睨む占い師。
「あ、あのぅ、まだ何も言ってないんですけど」
「黙って。私はあなたがここに来ることを予見してました。もちろんあなたが言いたいことも全てのわかっています。見えました。心して聞いてください」
その答えを一言一句聞き逃すまいと、前のめりに占い師を覗き込む彩音。
「あなたから去っていく人物。それが私にははっきり見えます。それに……」
その時、孝太郎のスマホが鳴り、占い師の話を中断させた。
「ごめん、ちょっと外す」
孝太郎は通知先を見ると困った顔をし、そのまま席を立つ。
電話の主が誰かわからないままもやもやした気持ちでいると、占い師がそれを察したように語りだした。
「あなた。あの男性が好きなんでしょ?」
「え、あ」
「隠しても無駄です。私にはわかります。私のカードは嘘をつきません」
「実は、色々ありまして。好き、だと思うんですけど。その、私以外にも先輩を好きな人がいるんじゃないかなと思ってまして。その人には勝てないかなって。だったら今の関係のままで諦めた方がいいのかなって」
占い師がコールドリーディングするまでもなく、もじもじしながら気持ちを口に出し始める。
意外な告白に占い師の方が焦りだした。
「うん……じゃなかった。そ、そうですね。あなた以外にも先ほどの男性に気持ちを向けている女性はいます。ですが、あなたの引いたカードは違うことを予見しています。あなたの元を去る人物。それは男性です」
「それって、先輩がいなくなってしまうってことですか?」
「誰のことを指しているかわかりませんが、あなたの元から男性がいなくなるのは確実です。私のカードは嘘をつきません」
占い師の言葉にふと先日、亜弥華が言った言葉が甦った。
『──付き合ってすぐにこーちゃんは突然姿を消した』
それが事実なら孝太郎はいつか自身の元をいなくなるのか。
いなくなるとは、青海川の元へ行ってしまうということなのか。
彩音の中で不安な気持ちが膨らみかけた時、孝太郎が戻り席に座った。
「わ、私はどうしたらいいんですか!」
孝太郎がいては聞きたいことが聞けないと、彩音は慌てて声を張上げる。
「『好機』を掴むのです。『好機』はあなたの前にぶら下がっています」
「『好機』がぶら下がる……は!『四畳半』ですか!」
「うっ!……え、何?じゃなくて、そ、そうです」
その瞬間、再び亜弥華の言葉が頭に甦った。
『──でも『好機』は逃さないことね』
「令和ちゃん」
ぽそっと呟く。
「令和ちゃんが鍵なんだ。きっとそうだ。ありがとうございます!」
特に大事なことを言ったわけでもないが、一人で解決した彩音に占い師はぽかんと口を開けたまま孝太郎に視線を送った。
「あ、あなたを想ってる人物がすぐ側にいます」
占い師は何を思ったか、カードを引いていない孝太郎に対して予見し出した。
「お気づきになりませんか?」
「はい。全く」
孝太郎は占い師に冷たい視線を送ると彩音に行こうと目配せし、先に席を立つ。
納得のいく答えを得た彩音は占い師に会釈し席を立つと、孝太郎の後を追いかけた。
***
ショッピングモールのフードコート
お昼ご飯を食べようと空いてる席に着いたものの、何が気に入らないのか苛立つ孝太郎に声をかけられない。
もしかしたらさっきの電話の相手が青海川かもしれない。
やはり連絡を取り合っていたのだ。
そんな考えが彩音の中で独り歩きし始めた時、ヒールの足音が耳に入り彩音の横で止まった。
と、同時に周りがざわざわとざわつき始め、一斉に彩音達に視線を送る。
恐る恐る見上げるとそこには一人の女性が冷淡な面持ちで彩音を見下すように立っていた。
「SAN値ピンチでワロリンヌ」
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