鴻野山莉歌登場!?
第19話 「どーーーーでもええねん!!」
━━迷子発見の日から遡ること数日前━━
「うーん。いやー。この子もいいけど、この子も捨てがたいのよねー」
正直ほんとに毎回迷う。
そもそもなんで私が配役のコンサルなんてしなきゃなんないの?
孝太郎君が自分でやったらいいじゃない!
こんなの、私の仕事じゃないし!
そりゃ確かに謹慎中だし、篠原さんもめっちゃ怒ってたし、警察のお兄さんも全然話聞いてくれなかったですよ?
でもね、私、危うく殺されかけたの!
正当防衛だから私は悪くないの!
まぁ、でも、孝太郎君が助けを求めてるんだから。
てか、問題はギャラよ!ギャラ!
子役と大人のエキストラが同額ってどーなの?
「やっぱり迷子の定番って言えば、女の子より男の子よねー。女の子はちっちゃくてもしっかりしてるし」
私の名前は鴻野山莉歌こうのやまりか。
孝太郎君と同じ探偵事務所に所属する調査員。
……ってことになってる。
表向きは……。
机のスマホが光り震えて、私に応答を求めている。
発信者を確認せず出てしまったけど、だいたいわかる。
スマホの向こうからは聞き慣れた声。
「はい、鴻野山です」
「───」
「ええ。順調よ。シナリオは見た?」
「───」
「てかさぁ、これ私の仕事ぉ?」
「───」
「はいはい。で、話変わるんだけど」
「───」
「わかんない。調査中」
「───」
「ねぇ、ちょっと愚痴っていい?」
「───」
「あの金髪やねんけどさ、一発殴ったったらあかんの?まぢでうざいんやけど?」
「───」
「あ、ごめんなさい。ついつい地元弁が……。あの金髪を殴りたいんですけど、よろしいですか?」
「───」
「せやんな。おけおけ。孝太郎君がそーゆーんやったらやめとくわ」
「───」
「じゃ、明日顔合わせで、明後日本番よろしくー」
「───」
───もうちょっと、私に優しくしてくれてもいいんじゃないかな?
「ほんと、ずるい」
******
━━迷子発見から遡ること数時間前━━
孝太郎の潜伏してるリゾート施設の駐車場。
じめじめして蒸し暑い、ここ。
でもって、眠い。
さっさと終わらして帰りたい。
迷子役の子役とそのリアルお母さん、偽物お母さん役の役者さんが揃ったところで、軽いミーティングで段取りの説明。
でもって、さすがプロ!
素人エキストラと違って飲み込みが早い!
今日の主役の迷子ちゃんは、元気はつらつで超かわいい!!
あ、ちゃんと保護者様への挨拶も忘れずに。
ペコリッ
******
「いい?私が指差した人のところに行って、近づいてきたら目の前で座るの。それから泣く。練習通りできるかな?」
「うん」
「それから、昨日会ったお兄さんのこと覚えてる?」
「うん、孝太郎お兄さん」
「そーそー!お兄さんが来たらちゃーんと言うこと聞くんだよ。で、そのお兄さん以外の人と話しちゃダメ。わかった?」
「うん、わかったー」
「よーし!いい子だねー。その調子!で、このおばさんが見えたらどーするんだっけ?」
「おっきなこえで、ママーってさけぶー」
「おー!偉いね!完璧だよー!」
******
━━それから数分後━━
よし!いよいよきた!
てか、もう何回もやってるけど。
孝太郎君はこれに後ろ向きなんだけどねぇ。
子供って意外と色んなことに使えるのに。
あ、そろそろ時間だ。
この鴻野山莉歌の素晴らしき采配を、孝太郎君に見せつけてやるとするか!
「よーし、準備はいい?」
「うん」
「じゃあねぇ……あ!あそこのお姉さんわかるかな?こっちに歩いてきてる……高校生ぐらいのお姉さん!」
「あのひと?」
「そーそー!ほんと偉いね!」
「ぼくがんばる!」
「よし!行ってこーーい!レッツゴーーーー!!」
******
おー、行った行った。
よし、よし、そこ、そこに座って。
おお、完璧な泣き真似……。
リアルお母さんは演技に納得されてないようで、なにやらしかめっ面でメモなさっている。
子供が泣いてるよ……
女子高生ちゃんどうする……
だよね、声かけるよね…………
よし、釣れた!
すかさず無線で孝太郎君へ連絡。
「釣れた。基準地より二時の方角」
これであとは孝太郎君と遭遇すれば……。
って、え、ダメ!そのまま歩いたらダメ!
子役の胸に潜ませたカメラと数ヵ所に設置した小型カメラのうちの数台が、子役に近づく従業員を捉えた!
まずい!
孝太郎君と接触する前に別の従業員とぶつかっちゃう!
「お母さん、ちょっと抜けます」
そう言い残して、私は基地である車から飛び出した。
子役と女子高生の死角を計算しながら全速力で駐車中の車の間を走り抜ける。
ゴンッ!ガンッ!
途中、何台かサイドミラーにぶつかったが、そんなことはどうでもいい。
多分その内の何台か折っちゃった。
てか、そもそも駐車したときに畳んでおかない奴が悪いんだ。
駐車の列の合間をすり抜け、近づく従業員の背後に回り込む。
そして一旦しゃがんで、左足の靴紐をほどき、タイミングを図る。
──よし!今だ!
クラウチングスタートから勢いよく飛び出し、わざとほどいた靴紐を踏んでおもいっっきり……転ろぶっ!!
ズッケェェーーンッ
「痛っーーー!!痛い痛い!折れた!折れたよ、店員さん!大腿骨ヒビ入ったーー!」
よし、こっちを見た!来い、こっちに来い。
「大丈夫ですか!」
「痛いー折れてるー立てないー」
子役は……っと。
よし、そのままゆっくり進め!
孝太郎君が見えた!
そう、そう!よっしゃ!接触成功!
「大丈夫ですか!救急車手配しますのでそのまま安静に……」
「あ、あれ?立てるっす?」
「へ?」
「あ、なんか痛いのなくなったっす」
決して目線は合わさない。
顔も見てはいけない。
語尾を変な言い方にして可笑しな奴と印象付ける。
そして、名札をチラ見し、敢えて名前で呼ぶ……
「あ、きっと桝屋さんの献身的な対応のおかげっす」
「へ?なにもしてないけど?」
へ?タメ口!?客にタメ口って……別にいいけど。
可笑しな奴に名前で呼ばれた。
名前を覚えられたと思った従業員は大抵面倒なことになる前にその場から立ち去る。
この人も例外ではないはず……きっと。
「あ、それよりもさっき迷子の子供が泣いてたっすよ。男の店員さんと女子高生風の女の子が連れていったみたいすけど」
「へ?まぢで?どこ行ったの?」
「いやぁ、わかんないっすけど」
「彩音が危ない!じゃ、お姉さん!気をつけて!」
「桝屋さんも気を付けるっすよー」
すかさず偽物お母さんへ連絡。
「接触しました。迷子の捜索依頼、お願いします」
******
よし、出てきた。
出てきた……のはいいけど。
なに?なんでさっきの女子高生もいるわけ?
あ、あれがターゲットだった?違う!隣の女性がターゲットだよね!
じゃあ、あの女子高生はなに?
誰?
なんでいんの?
孝太郎君なにしてんの?
ん?何か喋ってるけど電波悪くて聞こえない。
さっき転けたとき、どっかぶつけたかな??
でも、微かに聞こえる。
ん?なになに?
「……お姫様抱っこして……」
は?なに?
お姫様抱っこ!?
孝太郎君……ここでなにしてんの?
で、で?
「さくら……何……あるんですか?」
【(あ)さくら(さんて、)何(キロ)あるんですか?】
サクラ!?まさか、仕込みバレてんの!?
まぢでなにやってんねん、あいつ!!
ちゃうよな!ちゃうよな、大丈夫……やんな!
落ち着け、落ち着け、私。
「あれ?……サクラ……聞いてます?」
【あれ?(あ)さくら(さん)聞いてます?】
「……何……教えなきゃならない……」
【(聞こえてるけど、)何(で私の体重)教えなきゃならない(の?)】
「……孝太郎……抱っこ……」
【(だって、軽い方が)孝太郎(さんも)抱っこ(しやすいでしょ?)】
はい!?
全然意味わかんない!
なに?何がどうしてサクラがバレてて、孝太郎君が抱っこすんの?
うわぁ、リアルお母さんも隣でドン引きだわ。
ちょっと一時的に繋がらなくなる危険あるけど、無線の周波数変えるしかないか。
シューシュバッガッガーーツーーツーー
「ぶっちゃけ、孝太郎さんはどっちの体重が気になります?」
「直海ちゃん!伊藤さんにそんなこと聞かないの!」
なに?
なにが?
体重!?
繋がったと思ったらなんやねん!?
お前らの体重なんかどーでもええねん!
あかん、落ち着け、落ち着け、私。
あれ、なんか女子高生ちゃん急に走り出して……
はっ!?
なんで歩くん止めんの!?
全然状況わからん!!
「私と朝倉さん。どっちのことが気になります?」
どーーーーでもええねん!!
なんや!孝太郎君!
どーなったらそーなるん!?
あかん、落ち着け。
こんなテンパるの久しぶり。
とにかく今は現状打破しかない。
「偽物お母さん!緊急発進お願いします。大きく手を振ってアピールしてください。GO!!!」
******
全然状況がわからなかったけど、私の役目はなんとか問題なく終わった。
孝太郎君の父性にターゲットもメロメロだろう。
無事に役者さんを見送り、私は雨のかからない通路にあるベンチに向かう。
自販機で炭酸飲料を買い、ベンチに腰掛け空を見上げてた。
勢いを増した雨は止む気配を少しも見せない。
そろそろ帰ろっか。
眠い……。
どしゃ降りの雨の中を駆け抜けるべく、勢いよく走り出した。
その時だった。
私が雨の中に出た瞬間、さらに早いスピードで女性が横から突っ込んできた。
この人、雨の中を前見ないで走ってる!?
「危ない!お姉さん!」
「へ?」
ドンッ!!!
「痛ーー!!」
女子の猛烈タックル受け止めてしまった。
てか、私も立派なか弱い女子なんですけど!?
まぁ、とっさに踏ん張れたから尻餅つかずに立ってるけど……
あれ、この人?
これって孝太郎君と同じ制服?
名前は……朝倉……ってヤバ!!
ターゲット!?
なんでこんなところにいるの!?
「すいません、お怪我ありませんか?」
「いやいや、大丈夫っす。転けたとかじゃないんでなんでもないっすよ」
「すいません、雨強くってその……」
「いーよ、いーよ。急いでるんでしょ?雨の日は滑りやすいから気をつけてね!」
「はい!ほんとにすいませんでした!」
そう言って礼儀正しく頭を下げ、ターゲットは本来の職場の方へ走り去った。
仕込みはとっくに終わってるはずなのに……。
どこに行ってたんだろう、このどしゃ降りの中を。
孝太郎君とは一緒に帰らなかったのかな?
私はベンチに座り直し、ターゲットの顔を思い出す。
「なんであの子、あんなに泣きながら走ってたんだろ」
彼女の震えた声とその泣き顔を反芻しながら、私はしばし眠気に身を任せた。
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