第2日「おくりもの」
「いやー、美味しかったです」
「よかった、TSUYOSHIのお口に合うかちょっと心配だったから」
「はは、たうよしさんは僕の好みは周知してるでしょう」
ぼくがTSUYOSHIと付き合い始めてから2度目のTSUYOSHIの誕生日。
今日の水族館デートの後、夜はTSUYOSHIの家で手料理を振る舞い終えて一息ついていた。普段から料理をしているぼくでも、好きな人の前で披露するのはさすがに緊張する。でも、失敗もなく、TSUYOSHIも喜んでくれたようでなによりだった。
「この歳になると誕生日なんか気にしなくなるんですが、たうよしさんに祝ってもらうとやっぱり嬉しいですね」
「まーたおじさん発言してる。全然老けてないですよ、TSUYOSHI」
彼の自虐に言葉を交えつつ、ぼくは冷蔵庫からリボンで彩られた箱を取り出し、テーブルへと運ぶ。
「ケーキ食べましょう、TSUYOSHI」
「お、いいですね」
「開けちゃって下さい」
箱の中からは色とりどりのフルーツに彩られたタルトが姿を表す。45を意味する蝋燭が備え付けられ、TSUYOSHIの名前が刻まれたプレートも載っている。
「ライターどこだっけ?」
「えー…確か、シェルフの籠にあったと思います」
「かご?…ああ、これかな」
「改めてみると、僕ももう45なんですね」
「そうそう、ケーキとあと一つ、プレゼントがあるんです」
「え?」
ぼくは鞄と一緒に置いてあった紙袋からラッピングされた箱を取りあげた。
「誕生日プレゼントです、TSUYOSHI」
TSUYOSHIに手渡すと、ありがとうと言いながらさっそく推理し始める。
「ははあ、ワインですね」
箱の大きさと手渡した感触から、彼はすぐに中身に感づいたようだ。
「ちょっと、開ける前から当てないで下さいよ」
「さてさて、どんなワインかな?」
ガサガサと箱をあけ、いよいよ露わになったラベルをまじまじと観察する彼を覗き込む。
「えー…ドメール・ド・ガニュベール…甘口の白ワインですか。だからケーキと一緒に出したんですね」
「注目するのはそこじゃないですよ」
「ん?じゃあ産地か製造年か……えーと…1973…え?」
「そうです、TSUYOSHIの生まれた年に作られたワインです」
彼の顔がぱあっと一層明るくなるのがはっきりとわかった。
「これは一本取られましたね、すごいじゃないですか」
「でしょ?生まれ年のワインなんてなかなかないじゃないでしょう?」
「よく見つけましたね、僕も初めて見ましたよ」
「たまたまワインショップで生まれ年ワインっていうのを知って、結構探したんですよー」
グラスに注ぐと、どこか林檎のような芳醇な香りがふわっと香り、琥珀色にグラスが染まっていった。タルトと合わせて、甘酸っぱい匂いが机の上で広がった。
「これは、忘れられない誕生日になりそうです」
「ぼくは覚えてるのに、去年のこと忘れちゃったんですか?」
「まさか。ただ、去年以上にいい日になる気がします」
「ふふ、じゃあ、TSUYOSHIの誕生日を祝って、乾杯!」
「乾杯!」
チン、と軽い音を鳴らして、生誕祭のクライマックスが幕を開けた。
きっと毎年、いや毎日、忘れられない日になる。
たうつよ短編 メタリカ @metarica
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