たうつよ短編

メタリカ

第1日「あきさめ」

しとしと、ぽつぽつ、雨音がアスファルトに響く。

秋の夜風を感じるようになったこの頃、TSUYOSHIと久しぶりのカフェデート。

僕は、駅の自動改札を出てすぐの構内に備え付けのベンチに腰掛け、スマホ片手に窓越しの雨の音色を聞いていた。

(あと5分……)

天気がどうであろうと、TSUYOSHIと会う日の気分は晴れ渡っていた。そしていつも早く家を出て、予定より10分も早く着いてしまう。

(もうそろそろ……)

すぐ後ろの高架橋を電車がガタンガタンと渡る。数分後、駅へと入ったその車両から降りた僕の待ち人が現れた。

「おはよう、TSUYOSHI」

「たうよしさん、おはようございます。いつも早いですね、まだ約束の20分前ですよ」

申し訳なさそうに頭を下げる彼。ぽんぽん、とベンチに腰掛けるよう促すと、彼は鞄を下ろしながら隣に座った。

「TSUYOSHIに会うの楽しみで、早起きしちゃった。カフェがオープンするまでまだ時間あるし、ちょっとお話ししよ?」

「いいですよ」

デートに出かける前の数分、少し慌ててやってくるTSUYOSHIとお話するのが、最近のマイトレンド。上気した顔を見るのが楽しみで、悪いな、と思いながらやってしまう。

雫が滴る外を眺めつつ二人ゆっくり近況報告を交わす。

「じゃあ、次のライブの練習頑張ってるんですね」

「ええ、あと2週間なので」

「練習してるTSUYOSHIも見てみたいなぁ」

「いいですよ、全然。明日の練習、見学してみますか?」

「いいんですか!?やったー!」

思いがけぬ収穫を手帳に記す。ちょうど明日の講義のあと時間があるから、TSUYOSHIのスタジオに寄ってから買い物して……

「予定いっぱいですね」

気付けばTSUYOSHIが手帳を覗き込んでいた。

「もう、見ないでくださいよ」

「若いうちに色々やっておくことは大事だとTSUYOSHIも思います。学生生活を楽しんで下さい」

「おじさんみたいな発言ですね」

「なっ…」

微妙に顔が引きつる彼。ちょっと面白くて、くすっと笑ってしまった。

「冗談ですよ」

「まぁ、確かに僕はおじさんですからね、はは」

「…別に僕はおじさんが嫌なんて言ってませんよ?」

「え?」

「年齢なんか関係ないです。僕は」

「たうよしさん、それって…」

僕はTSUYOSHIの言葉を遮り、ベンチから立ち上がってうーんと伸びをする。秋雨はいつの間にか止み、雲の隙間からお日様の光が地面を照らしていた。

「雨も上がりましたね。行きましょう、TSUYOSHI」

間隙、キョトンとしていた彼は、にこりと微笑むと僕が差し伸べた手を握った。




虹がかかる大空の下、きらきら、輝く水面を踏まないように二人揃って路地を歩く。指を絡ませ、寄り添いながら歩く二足の音がこだまする。

今日のデートはまだまだこれから。TSUYOSHIに話したいことも、聞きたいことも頭の中にいっぱいだ。

「あ、ここですね」

路地裏の一角、多肉植物が飾られたシェルフが目を引く喫茶店がそこにはあった。

「ここのコーヒーは深みがあって美味しかったんです。きっと、たうよしさんも気に入りますよ」

「ふふっ、楽しみです」

カランカラン、ドアに下げられたベルがお客の到来を知らせた。

僕は――この後に続く言の葉を飲み込んで、僕らは二人でドアをくぐる。

いつか、恥ずかしがらずに言える日が来るまで。

コーヒーの香りが、午後三時を告げていた。


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