~小さな来訪者~ 3

「なるほど。そういうことでしたか」

 それまで耳を傾けていた真樹は納得したように息をつく。小さな来訪者は真樹に訴える。

「私の人生は短いものでした。その半分は辛いものでした。でも、峻さんのおかげで、残りの半分が素晴らしい時間になったんです。そうしたら、こう考えられるようになりました。辛かった時間が無ければ私は峻さんに会えなかったかもしれない。だとすれば、私の人生のすべてが素晴らしい時間だったのかもしれないと。そう思わせてくれた峻さんに、最後に一言、お礼を言いたいのです」

 真樹はこめかみを右手の人差し指で小突きながら考え込む。「そうなると、やっぱり進士が居ないとダメだな」と、ぶつぶつと何かを呟いている。しばらくして、真樹が意を決したように口を開いた。

「あなた、走れますか?」

 小さな彼女は「どういうことですか」と答える。

「あなたがその一ノ瀬峻という方に会いたいという気持ちは分かりました。ですが、その願いを叶えるためには一つ条件があるのです」

 彼女は息をのみながら質問する。

「条件とは、一体何なんですか?」

 真樹は微笑む。

「はい、これはあなたにしかできないことです。あなたにある出来事が起きた時に戻ってもらいます。そして、あるものを探してもらい、届けて頂きたいのですよ」

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