04
「…どこ行くのよ」
「お嬢さんの好きそうな所です」
引っ越して一ヶ月。
梅雨に入ってジメジメした毎日の…やっと晴れた今日。
あたしは、ベンツの後部座席に座ってる。
運転は万里君、助手席には環。
後ろを走ってる車には、沙耶君。
陸はシティライフをエンジョイしてて、毎日出かけてる。
あたしはと言うと…これが初めての外出だ。
本当は、学校も決めてあるんだけど…
あたしが行こうとしないから、陸も待ってる。
陸は、学校好き。
勉強が好きっていう、おかしな奴。
だから本当はじれったいんだと思う。
でもなあ…
『
それが…不安。
同じクラスは無理としても…
同じ階に陸がいるって安心感もないなんて。
「…いつつくのよ」
長すぎる信号にイライラして、あたしは無愛想な声で前の二人に問いかける。
「もうすぐですよ」
万里君が優しく答えた。
あたしが唇を尖らせると、それをチラリと見た環が小さく笑った。
環は…あたしを子供扱いする。
まだ22のくせに、おっさんくさい。
「さ、着きましたよ」
そう言って、万里君が前方を指さす。
「……」
完全に、子供扱い。
あたしは、前方に見えてきたテーマパークを少しだけ睨んで、二人に言った。
「全部制覇するまで、帰んないからね」
ああ…あたし、釣られちゃってる…?
* * *
「お嬢さん、乗り物強いですね…」
ジェットコースターに三回乗って、ちょっと早い昼食。
「普通じゃない?あれぐらい、みんな平気で乗ってるよ」
ずっと一緒に乗ってくれた沙耶君は、少しだけヨレヨレ。
みんなは、いつものようにスーツ。
あたしは、ポロシャツにキュロットスカート。
…周りから見ると、妙な組合せ。
「ね、いつもそれ着てないといけないの?」
あたしがスーツ指さして言うと。
「いえ?休みの日は普通の格好してますけど」
沙耶君が、ピザをほおばりながら言った。
「休みの日っていつよ、あたし、普通の格好なんて見たことないよ?」
「あー…ぶらぶら出かけてますから…」
「という事は、今日は仕事?これも?」
「はい」
「ふうん…」
少し、おもしろくないな。
あたしを遊ばせるのも、仕事、か。
「本当はここ来てみたかったんですよね。でも一人じゃ来れないし。かと言って男ばっかりで来るのも」
って環が笑った。
「みんな彼女とか、いないの?」
「いません」
ちょっと意外。
みんな、かっこいいのに。
「だから、お嬢さんと来れて良かったです」
万里くんが、照れくさそうに言ってくれた。
「あたしなんかとじゃ…」
やだな。
なんだか、嬉しいや。
「ね、休みって週休二日とかなの?ヤクザでも」
「仕事によって異なります」
「仕事って?」
「ああ、お嬢さんはご存知ないんですね。うちは、輸入の仕事もしてるんですよ」
「…密?」
「密はないです。ちゃんとした輸入業です」
万里君、小さく苦笑い。
「みんなは何に携わってんの?」
「主に警備です」
「警備?」
「いつ何があるか、分かりませんからね」
「…ね」
あたしは真剣な顔で三人に問いかける。
「はい?」
「…やっぱり、覚醒剤とか射ってんの?」
「ぶっ…」
その問いかけに、三人は一斉にウーロン茶を吹き出した。
「まっまさか!!そんなことしたら、組にいられなくなりますよ」
「どうして?ヤクザなのに」
「お嬢さん、テレビの見過ぎですっ」
三人は紙ナプキンで口元を拭いたり、テーブルを拭いたり。
あはは…何だか楽しいや。
「まだ、ご両親にお会いになる気にはなりませんか?」
そんな中…環に真剣な顔で言われてしまった。
万里君と沙耶君が驚いた顔して、環を見てる。
…環は、何だか違うんだよなぁ。
「…だって」
陸も、まだ会ってない。
学校と同じく、あたしに合わせて待ってる。
「ずっとよ?ずっと親はいないって思ってたのに、ある日突然親が生きてるって言われて…知らない所にきて…今までの自分が嘘みたいな生活よ?順応できる?」
「それはそうですが、お嬢さんも坊ちゃんも組にとって必要な方なんです。そろそろご自分の立場も考えて頂かないと」
「で、あたしの機嫌とるために、こんなとこ来たわけ?」
「そうとられても仕方ないですね」
「……」
環は、あたしを甘やかさない。
あたしと環のやりとりを、万里君達がヒヤヒヤしながら見てる。
「…みんな、実家はどこなの?」
「え?」
「実家よ。お父さんとか、お母さん、どうしてんの?」
「私達は、孤児ですから」
「え?」
「孤児なんです。だから組長には感謝してます。小さな頃から面倒見ていただいて…こうやって、仕事までさせていただいて」
「……」
なんだかー…
急に自分が小さく思えた。
ついさっきまで、あたしは自分が映画のヒロインのように不幸だと思ってた。
だけど…
「もし親が生きてるとしたら、会いたい?」
ちょっと酷な質問かな…なんて思いながら、あたしは環に問いかける。
でも、環は何でもないように。
「やっぱり、悩むと思います。お嬢さんのように」
って、言った。
あたしはしばらく考えたあと。
「まだ、こっちのいいとこがわかんないの。だから、もう少し待って」
小さく言った。
あたしの答えに万里君と沙耶君はホッとして。
環は…表情を変えないまま。
「そうですね、ゆっくりお考えになって下さい」
そう言った。
…自分でも、そんな決心が出来るのかな…って不安はあるけど。
とりあえず…
こっちに来て楽しいって思える事は楽しまなきゃ、環境に馴染めないよね…
「さ、もう一回行くよっ」
あたしが勢いよく立ち上がると、沙耶君が小さな声で。
「次はおまえが乗るんだぜ」
って万里君に言ってるのが聞こえて笑ってしまった。
でも…
「あははははははははははは!!」
万里君は、ジェットコースターが大好きだったみたい…。
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