06

「…悪かったな」


 ライヴのあと、晋ちゃんがポツリと言った。


「え?」


「おふくろさん、怒ってはるやろな」


「……」


「アメリカのことも…悪かった」


「…いいの」


 頭を、晋ちゃんの肩にのせる。


 夜の公園。

 こんな時間まで一緒にいたのは…初めて。



「すごく、嬉しかった…」


 あたしは、小さくつぶやく。


「何」


「迎えに来てくれて…」


「ああ…」


「かっこよかった」


「おまえも、着物きれいやったな」


「着物が?」


「着物が」


「もうっ」


「……」


 ふいに、晋ちゃんが無言で、あたしを見つめる。

 ドキドキしてしまってうつむくと。


「涼」


 晋ちゃんが、あたしのあごを持ち上げた。

 ゆっくりとキスをして…名残惜しい感じで唇が離れると。


「…送ってく」


 晋ちゃんは、掠れた声でそう言った。


「大丈夫…一人で帰れる」


「いや、ちゃんと詫びいれなあかんから」


「…詫び?」


「お茶会、ぶちこわしたやん」


「…でも…」


「あ?」


「母さん、怖いよ?」


 あたしが上目使いに言うと。


「充分知っとる」


 晋ちゃんは、苦笑いした。



 * * *


「すみませんでした」


「……」


 晋ちゃんが、深々と頭をさげる。

 でも、母さんは黙ったまま晋ちゃんを見おろして。


「…もう、いいですからお帰り下さい」


 気の抜けたような声で、そう言った。


「……」


 あたしと晋ちゃんは、拍子抜けしたように顔を見合わせる。


「涼、あなたも早く寝なさい」


 母さんは、それだけ言うと。

 さっさと部屋に引っ込んでしまった。


「…はい」


 あたしは、遠慮がちに返事をする。



「…なんか、拍子抜けやな」


「…うん…」


 でも、少しだけ安心。


「着物、明日取りに行くから」


「ああ」


 晋ちゃんは、あたしの頭をグリグリっとして。


「おやすみ」


 大好きな声で言ってくれた。


「…おやすみなさい」



 晋ちゃんを見送って…

 あたしは今日の出来事、幸せな部分だけを切り取って。


 母さんの気持ちなんて…考えてなかった…。

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