04

「この人なんてどうかしら」


 母さんが、お見合い写真を差し出して言った。


「三人兄弟の真ん中。茶華道歴15年。今は証券会社にお勤め」


「母さん、あたし…」


「こっちの人がいい?」


「……」


「……」


 母さんは、あたしのくいしばった口唇を見て。


「そんなに、あの男がいいの?」


 って、呆れた口調。


「今は若いから目先の事しか見えないだろうけど、あの男と一緒になったところで、あなたが苦労するのは分かり切った事でしょう?」


「…苦労なんて…しないもん…」


 小さくつぶやくと、母さんは盛大に溜息をついて首を横に振った。


「私が出来なかった事をさせてやりたい…そう思って、高校生活は自由にしてもいいと言ったけれど…どうやら失敗だったようですね」


「…それについては…すごく感謝してる。だけど、それとこれは別よ」


「別?あの自由な間に出会ってしまった男と、ここまで付き合ってるのに?別と言うの?」


「…自由な間に出会ったけど…中途半端な気持ちじゃなくて、真剣に…想い合ってるもの…」


「……」


 母さんは、お見合い写真を閉じて背筋を伸ばすと。


「想い合っている…?」


 あたしの目を真っ直ぐに見た。

 それはまるで…

『何を夢見ているの』とでも言いたそうな…冷たい表情。



「だいたい、あの男は」


「あの男なんて言い方やめて」


 あたしが反論すると、母さんは一瞬少しだけ口を開けたままあたしを見てたけど…


「…では…あのは、夢を捨てて早乙女に来てくれるの?」


 ゆっくりと、そして淡々とした口調で言った。


「それは…」


 そんなの無理。

 そう思いながら…口には出さず、伏し目がちに瞬きを繰り返した。



「…あなたは早乙女を捨てる気?」


「……」


 見透かされたようで、何も言えなくなる。

 確かにあたしは…晋ちゃんと一緒にアメリカに行きたい…って思ってしまってる。

 それは…早乙女を捨てる。と言う事。

 あたしを、女手一つで育ててくれた母さんを…



「…そうですか」


 無言のあたしを前に、母さんはパタンとお見合い写真を閉じると。


「私が守ってきたものは…一体、何だったのかしらね」


 立ち上がって、部屋を出て行った。



 母さん…ごめんなさい。

 あたしは、やっぱり晋ちゃんが好き。

 例え、母さんが許してくれなくても…


「…晋ちゃんじゃなきゃ…だめ…」


 小さく、つぶやく。


 今まで見ないふりをしてきた自分の立場。

 あたしは…

 自分の幸せを掴んじゃいけないの…?

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