04
「今夜こそ、二人きりでデートだよ?」
ウェインが、耳元で囁く。
「…はいはい」
この間から、こればっかり。
あたしの周りには、ウェインの他に四人の男の子達。
最初はウェインだけが必死にあたしを口説こうとしてたみたいだけど…
気が付いたらクラスメイトの他の子も、さらには違うクラスの子までもが、『誰が留学生を落とせるか』なんて張り合い始めたみたいで。
それはそれで嬉しい事なのかも…と思う反面…
全然盛り上がらないのは、当の本人であるあたし。
なんたって…尚斗さん以外の男性に興味がない。
どうしたら興味が持てるのか教えて欲しいぐらい。
一人ずつ日替わりでデートするのも面倒なもんだから、全員でディナーに行ったら
「こんなのあり得ない。俺だけのものになってくれ」
みんなに、そう言われてしまった。
…そんなこと言われてもなあ…
失恋した女の子達は、どうやって気持ちを切り替えるのだろう。
どうしたら好きな人以外の男性に、気持ちを向ける事が出来るのだろう。
今まで、尚斗さんの好みに合わせて……って…それもまあ、あたしの勝手な思い込みでしかないんだけど。
あたしが思う尚斗さんの好みに合わせて生きて来たから、今更何をどう考え改めればよいものか…
「俺のお気に入りの店に連れてってやるよ」
「僕んちのパーティーに来ない?」
「来週ラグビーの試合に出るんだ」
「君にお似合いのドレスを見付けたんだ」
「指輪を贈りたいんだけど」
……誰が何を話しかけてるのか、よく分からない。
みんなそれぞれ必死なんだろうけど、それはなぜなのかな。
あたしの事を本気で好きになってくれてる人、この中にいるのかな。
「フィアンセがいるって噂、嘘だったんだね」
ウェインにそう言われた途端、あたしの足が止まった。
フィアンセがいる……いる………ううん…いない…そうよ、いないわよ。
誰とも視線を合わさないまま歩き始めると。
「久しぶり」
突然、大好きな笑顔が現れた。
しかも…美人なおまけをつれて。
「元気だった?最近事務所に来ないから心配してたんだ」
ふいに、尚斗さんは日本語。
「…元気よ。この通り」
首を傾げて、苦笑い。
「モテてるね」
だけど、あたしの周りの男の子達は…尚斗さんの彼女の美貌に口笛を吹いたり顔を見合わせたり。
…色気のある大人の女か…
そりゃあ、誰でもいいから彼女が欲しいって思っていそうな高校生には、よだれもでちゃうわね。
「…おかげさまで」
そっけなく答えると
「ナオト、何しゃべってるの?」
彼女が怪訝そうに言って、尚斗さんの腕にしがみついた。
…ベタベタすんじゃないわよ。
それは彼女として当然の行動のはずなのに、あたしは心の中で毒気付いた。
ああ…あたし、嫌な子だな…
「マナミ、行こうぜ」
ポールがあたしの肩に手をかけた。
「おい、その手を除けろよ」
ウェインがポールの手を外す。
そんな様子わ眺めてた尚斗さんの彼女が
「いいわね、お姫様みたい」
赤い唇をニッと開いて言った。
お姫様…
でも、王子様は来ないけどね。
どこかの魔女に囚われたまま、お姫様の元には現れないのよ。
…って…
あたしはお姫様じゃないし、彼女は魔女じゃない。
当然…尚斗さんは王子様でもない。
言葉を発する事なく、二人にペコンとお辞儀をして歩き始める。
…いいのよ。
この中から留学中の彼氏を作って、ここにいる間は楽しめばいい。
どうせ一年半だもん…
「愛美ちゃん」
ふいに尚斗さんに呼び止められる。
ゆっくり振り返ると、尚斗さんは少しだけあたしに近付いて。
「遊ぶのもいいけど、その子たちも男だってこと、忘れちゃダメだよ」
早口な日本語でそう言った。
その言葉を頭の中で繰り返して…
「干渉しないで」
乱暴に言い返す。
「あたしの人生だもの。尚斗さんは、関係ない」
ムキになりすぎたかもしれない。
最近、ずっと尚斗さんのことが頭から離れなかったから…
少しだけ涙目になってしまった。
だけど、もうひっこみがつかない。
「もう、あたしにかまわないで」
「愛美ちゃん…?」
「子供じゃないのよ。結婚だって、できる歳だわ」
「……」
『結婚』ってワードを口にして、少し赤くなった。
許婚だよね?って確認に行って…玉砕した、あの日を思い出す。
尚斗さんもそれに気付いたんじゃないかと思うと、その場から消え去りたい気持ちでいっぱいになった。
「さよなら」
冷たく言って、歩き始める。
もう、後には戻れない。
大好きな尚斗さんに…あんなこと言ってしまった。
…って…
もう、大好きじゃないよ…
好き…
…好きじゃない…
大嫌い。
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