ふろく

事務所にて

 「あら、検視官さま、今、お帰り?」

 事務のレナに声をかけられ、ワイズナーは顔を上げた。

「ああ。ようやく仕事が終わった」

「その様子じゃ、ご飯も研究室で食べてきたとか?」

「まあな」

 ワイズナーの答えに、レナは首をすくめた。

「よく、あんな甘ったるい空間で、長居できますねえ」

「飯が美味いからな」

 ワイズナーが答えると、レナはふうっとため息をついた。

「そんなにコゼットの料理が好きだったら、アタックすればよかったのに」

「な?」

 明らかにうろたえるワイズナーをレナは面白そうに見た。

「よしよし。検視官さま。今日は、私が慰めてあげようか」

 ポン、とレナがワイズナーの肩を叩く。

「おいしい、ワインの店があってね」

 くすくすとレナは笑うのを、ワイズナーは呆れた顔で見た。

「給料日前だ。おごらんぞ」

「……だから、モテないんだって」

 ワイズナーの言葉にレナが首をすくめた。

「一度、職場に顔を出さなきゃならん」

 ワイズナーがボソリとそう言った。

「じゃあ、外で待っていようか?」

 レナの言葉にワイズナーが首を振る。

「迎えに来る」

 ワイズナーはそれだけ言って、片手を上げて事務所を出て行った。

「意外と紳士なんだよなー」

 レナはその背を見ながら、ぽつりと呟いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る